大きな構造的な変化が起きつつあります。だから、ドナルド・ト
ランプ氏のような大統領候補者が登場してくるのです。
こんなデータがあります。先進国では45歳から55歳のいわ
ゆる中年層は、国の経済状態にもよりますが、平均的には職を得
て、一定の収入を有し、加えて昨今の医療技術の進歩などの恩恵
を受けて、死亡率が上昇することはあり得ないのです。しかし、
米国の中年白人層に関しては死亡率が上がっています。
添付ファイル「A」の折れ線グラフをご覧ください。同じアメ
リカ人でも、ヒスパニック系アメリカ人の死亡率は下がっている
のに対し、白人アメリカ人の死亡率がダントツに高いことがわか
ります。これはどうしたことでしょうか。
このグラフは、ノーベル経済学賞受賞者のアンガス・デイトン
夫妻が米国の各種の統計資料を調べているときに偶然に発見した
ものです。米国の中年層をフランス、ドイツ、英国と比較したも
のですが、省略記号を以下に示しておきます。
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◎中年(45歳〜54歳)アメリカ人の死亡率の推移
USW ・・・・・・・ 白人アメリカ人
USH ・・ ヒスパニック系アメリカ人
FRA ・・・・・・・・・ フランス人
GER ・・・・・・・・・・ ドイツ人
UK ・・・・・・・・・ イギリス人
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このグラフは、既出の会田弘継氏の本に出ていたものですが、
会田氏はこの傾向とトランプ氏の支持率との相関を調べた「ニュ
ーヨーク・タイムズ」紙の分析を次のように紹介しています。
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「ニューヨーク・タイムズ」紙がさらに共和党予備選挙の行わ
れた洲で、郡(カウンティ)ごとにこの中年白人男性の死亡率と
トランプの支持率とを比べてみたところ、明らかに関連している
ことがわかった。死亡率の高い所ではトランプの支持率が高い。
このことが、明瞭に見て取れるグラフを「ニューヨーク・タイム
ズ」紙は公表した。 ──会田弘継著/左右社
『トランプ現象とアメリカ保守思想/崩れ落ちる理想国家』
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会田氏によると、これらの中年層は職は得ていても収入は十分
ではなく、会社による医療保険のサポートも満足が得られていな
いことから、自分の仕事がグッドジョブではないと感じている人
が60%に達していることを指摘しています。そういう不安定な
生活状況がトランプ票につながっていると思われます。
現在、アメリカの人種構成はどうなっているでしょうか。大雑
把に示すと、次のようになります。
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白人 ・・・ 20000万人 ・・ 68%
ヒスパニック ・・・ 4500万人 ・・ 15%
黒人 ・・・ 4000万人 ・・ 13%
アジア系 ・・・ 1000万人 ・・ 4%
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
100%
──副島隆彦著
『トランプ大統領とアメリカの真実』/日本文芸社
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白人は約2億人ですが、東欧(スラブ)系とラテン系で1億4
千万人を占めており、純粋な白人、すなわちWASP(ワスプ)
は6000万人に大幅に減っています。
それでは、「WASP/ワスプ」とは何でしょうか。
WASPとは次の言葉の頭文字です。
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W ・・・ White ・・ 白人
AS ・・・ Angro Saxon ・・ アングロ・サクソン系
P ・・・ Protestant ・・ 新教徒
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アングロ・サクソン系とは、5世紀ごろ民族大移動でドイツの
北西部からグレートブリテン島に移住したアングル人とサクソン
人の総称であり、現在のイギリス国民およびイギリス系の人々や
その子孫を指しています。つまり、英国から植民地の米国に移民
してきて、今日の米国人の基礎を作った人々のことです。
プロテスタントとは、宗教改革活動を始めとして、カトリック
教会から分離し、とくに福音主義を理念とするキリスト教諸派の
総称のことです。
しかも白人比率は大幅に下がっているのです。添付ファイルの
「B」をご覧ください。2010年で64%、2020年で60
%ですが、2050年には遂に50%を切り、47%になってし
まうのです。驚くなかれ、1960年からの100年で白人は半
分に減ってしまったことになります。
黒人とアジア系はあまり変化はありませんが、メキシコ、キュ
ーバ、プエリトルコのラテンアメリカ出自のヒスパニックは急速
に増えています。2060年には全体の31%に達し、白人との
差は12%しかなくなってしまいます。これによって、なぜ共和
党がヒスパニック出身のマルコ・ルビオ氏に期待を寄せたかがわ
かると思います。
副島隆彦氏によると、これ以外に「イーガル・アライブ」とい
う違法入国者とVISA切れの「オーバー・ステイヤー」といわ
れる人が3500万人ぐらいおり、そのまま違法就労していると
いわれます。彼らはヒスパニック系なのです。トランプ氏が「わ
れわれの仕事を奪っている」と警告をしたのは、彼らのことを指
しています。深刻なのは、学歴の低い高卒白人が暮らし向きに強
い不満を持っており、彼らが今回トランプ氏を熱烈に支持してい
るのです。 ──[孤立主義化する米国/037]
≪画像および関連情報≫
●[橘玲の日々刻々]/2003年6月13日
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すこし前の話だが、ワシントンのダレス国際空港からメキ
シコのカンクンに向かった。12月の半ばで、機内はすこし
早いクリスマス休暇をビーチリゾートで過ごす家族連れで満
席だった。
乗客は約8割が白人で残りの2割はアジア(中国)系、あ
とは実家に帰ると思しきヒスパニックの家族が数組という感
じだった。クリスマスまでまだ1週間以上あるから、彼らは
長い休暇をとる経済的な余裕のあるワシントン近郊のひとた
ちだ。その富裕層の割合は、アメリカの人種構成とは大きく
異なっている。国勢調査によれば、全米の人口のおよそ7割
は白人(ヨーロッパ系)で、10%超がアフリカ系(黒人)
6%がヒスパニックでアジア系は5%程度だ。しかし私が乗
り合わせた乗客のなかに黒人の姿はなく、メキシコに向かう
便にもかかわらずヒスパニックの比率もきわめて低かった。
もちろん私は、たったいちどの体験でアメリカについてな
にごとかを語ろうとは思わない。このときの違和感を思い出
したのは、チャールズ・マレーの『階級「断絶」社会アメリ
カ』(草思社)を読んだからだ。 http://bit.ly/2bz15sq
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●グラフ出典/グラフA/会田弘継著の前掲書より
グラフB/副島隆彦著の前掲書より
グラフA/グラフB