あります。ワシントンD.C.を拠点として、米国や世界における
人々の問題意識や意見、傾向に関する情報を調査するシンクタン
クです。米国の世論調査は、この研究所で行われています。
高畑昭男氏の本に、このピュー・リサーチ・センターが、20
13年7月に実施した米国の世論調査のうち、次の2つの調査項
目の結果が出ています。添付ファイルをご覧ください。
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1.「揺れるアメリカの国際関与」
2. 「大統領が専念すべき分野」
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「1」は1964年〜2011年にかけての調査ですが、「自
国の問題に専念せよ」という孤立主義を支持する人は、平均して
36%であったのに対し、「国際問題に関与すべし」とする人は
倍近くの60%前後を占めていたのです。
しかし、ここ数年間では、「自国の問題に専念せよ」は最大で
49%に拡大し、過去10年の調査で、最も高い水準に達してい
ます。これに対して、「国際問題に関与すべし」は50%にダウ
ンしています。つまり、半々になっているのです。
「2」は「大統領はどの分野に専念すべきか」について、外交
政策と国内政策を比較して聞いています。これによると2007
年には外交政策40%、国内政策39%と拮抗していたものの、
年を追うにつれて外交政策を上げる人が目に見えて減少し、20
12年には遂に10%を切り、2013年は6%まで減少してい
ます。今や「内政に専念せよ」との意見は実に83%に達してい
るのです。明らかに民意が内向きになっています。
米国の世論がどうしてこのように内向きになったかについては
次の2つの理由があると考えられます。
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1.不景気、失業、雇用問題などの国内経済問題が外交政策
に影響している。
2.イラク、アフガニスタン戦争の長期化がもたらしている
厭戦気分がある。
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これらの2つの理由からもわかるように、内向きになる要因は
一時的、変動的なものです。経済の問題は基本的には循環的なも
のであり、経済政策によって向上することもあるし、厭戦気分は
時間が経てば変化するものです。
したがって、米国のDNAに孤立主義であるといっても、国力
が増強するにつれて、先進国の帝国主義の流れに合わせて、積極
的介入主義に転じ、さらに進んで国際連盟や国際連合などの国際
機関を通じての国際主義へと外交政策は変化しているのです。
この他にピュー・リサーチ・センターの調査では、「米国は世
界で卓越した軍事大国であるべきか」という質問もしていますが
これについて57%の人が賛成と答えていますし、米国と中国が
大国関係を結び、中国が米国と並ぶ軍事大国なることを承認する
かとの質問には、29%の人しかそれを容認していないのです。
このピュー・リサーチ・センターの調査結果について高畑昭男
氏は、次のようにまとめています。
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要するにアメリカ国民の大多数は、世界の平和と安全を担う役
割は、他国と分担したい半面、世界一の軍事力を保つ「強いアメ
リカ」であり続けたいというのが本音らしい。一国の「行動の自
由」を究極的に保証するのは、軍事力である。今のアメリカ国民
の心情を総じて言うとすれば、「世界の警察官」をたった一人で
引き受けるのは望まないが、行動の自由は確保しておきたいとい
うことなのだろう。──高畑昭男著『「世界の警察官」をやめた
アメリカ/国際秩序は誰が担うのか』/株式会社ウエッジ刊
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なぜ、米国の外交政策の歴史や現在の民意について詳しく調べ
ているのかというと、共和党の大統領候補であるドナルド・トラ
ンプ氏が、いわゆる日本の「安保タダ乗り論」を批判し、彼が大
統領になったときの日本への影響を心配しているからです。
ところで、評論家の副島隆彦氏は、共和党の大統領候補である
ドナルド・トランプ氏の主張を「孤立主義」と訳するのは間違い
であると指摘しています。トランプ氏の外交政策の基本は、アイ
ソレーショニズム(isolationism)であり、このアイソレートを
直訳して「孤立主義」と日本では訳されているのだが、これは間
違いであると断じているのです。
アイソレーショニズムというのは、「外国のことに関わるより
アメリカは国内問題を優先すべき」という思想のことであり、ト
ランプ氏のそれは、次のようにいうべきであると副島氏は指摘し
ています。
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アメリカ・ファースト(I'm 'America First.')
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副島氏は、この「アメリカ・ファースト」についても日本の新
聞記者は「アメリカ第一主義」と訳していることに不満を漏らし
ています。これは「アメリカの国益が第一」という意味に捻じ曲
げて使おうとしていると批判しているのです。副島氏は自著で次
のように述べています。
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しかし、「アメリカ・ファースト!」は、決して「アメリカの
国益重視」という意味ではない。「アメリカ国内問題が第一(フ
ァースト)。外国のことは第二(セカンダリー)だ」という意味
だ。だからせめて「アメリカ国内第一主義」と訳さなければなら
ない。 ──副島隆彦著
『トランプ大統領とアメリカの真実』/日本文芸社刊
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──[孤立主義化する米国/022]
≪画像および関連情報≫
●「米孤立主義」という誤解/ジョセフ・ナイ氏
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2014年2月10日付のプロジェクト・シンジケートで
ジェセフ・ナイ米ハーバード大学教授が、米国が内向きにな
り孤立主義に陥っていると見るのは間違いである、と論じて
います。すなわち、本年のダボス世界経済フォーラムと数日
後のミュンヘン安全保障会議において、米国は内向きになり
孤立主義になっているのではないかとの質問を多く受けた。
ケリー国務長官はダボスでの力強い演説で「米国は関与を控
えることは無く、これまで以上に関与を深めていることを誇
りにしている」と述べたが、疑念は消えなかった。
ダボスでは、参加者の多くが、米国の景気後退を米国の長
期的衰退と誤解していた数年前とは違って、今年は、米国経
済が底力を相当に回復したと見ていた。他方、経済について
の悲観論者は、かつてはもて囃されていたブラジル、ロシア
インド、トルコのような新興市場に注目していた。
米国の孤立主義に対する懸念は最近の出来事に由来する。
先ず、米国はシリアに軍事介入することを控えている。更に
アフガニスタンからも撤兵することになる。オバマ大統領が
議会との対立や政府閉鎖の結果、昨秋のアジア訪問をキャン
セルしたことも、良くない印象を与えた。
http://bit.ly/2aWLPGP
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ピュー研究所による「米国の国際関与度に関する調査」