2007年06月07日

●大恐慌時の米国の金利の推移(EJ第2096号)

 昨日のEJで述べた「合成の誤謬(ごびゅう)」を用語辞典で
調べると、次のように出ていました。
―――――――――――――――――――――――――――――
 合成の誤謬とは、ミクロの視点で正しいことでも、それが合成
 されたマクロの世界では、かならずしも同じ理屈が通用しない
 ことを示す経済学の用語。
 ★合成の誤謬/fallacy of composition ――ウィキペディア
―――――――――――――――――――――――――――――
 経営者個々の判断で、ここはバランスシートをきれいにする、
すなわち、借金を返済することがベストであるとして行動したこ
とが、結果として上場企業のほとんどの経営者が同じ行動を取っ
たため、国の経済に変調をもたらすことになったのです。
 企業というものは、資金を調達して事業の拡大をはかるのが本
来の行動なのですが、それをやめて借金返済に回ったら、経済は
どうなるでしょうか。
 結論からいうと、その結果次の2つの需要が失われ、景気は確
実に悪化します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.企業が自社のキャッシュフローを再投資に回さなくなった
   ことによって失われる需要
 2.企業が借金返済に注力し、金融機関の貯蓄を使わなくなる
   ことによって失われる需要
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここでクー氏のいう「バランスシート不況」について簡単な数
字を使って、復習しておくことにします。
 ここに1000円の所得のある人がいます。この人は900円
を自分で使い、100円を金融機関に貯蓄したとします。この貯
蓄が家計部門による貯蓄に該当します。
 そうすると、900円は次の誰かの所得になり、残りの100
円は金融機関によって貸し出され、そのお金を借りた人によって
消費されます。これで当初の1000円の所得に対して、900
円プラス100円の1000円の支出が発生したことになり、経
済は回っていくことになります。
 この場合、金融機関が100円をすべて貸し出せないときは、
金融機関は金利を下げればよいのです。金利が下がれば通常借り
手は必ずいるからです。
 しかし、バランスシート不況になると、1000円の所得のあ
る人は依然として900円を消費し、100円を貯蓄するのです
が、貯蓄した100円には借り手が見つからなくなります。
 常套手段として金融機関は金利を下げますが、それでも借り手
は見つからないのです。金利をゼロまで下げてもそれは変わらな
いのです。そのお金を借りるはずの企業が必死になって借金を返
済しているからです。
 結局、100円が消費されないと、経済全体としては900円
しか消費されなかったことになります。これは、経済が1000
円から900円に縮小したことを意味します。
 900円の所得しかなくなった家計が、再び所得の10%を貯
蓄して810円しか使わず、それでも金融機関がお金を貸し出せ
ないとすると、次の段階では810円しか所得が発生しないこと
になります。このようにどんどん経済は縮小していくことになる
のです。まさにデフレスパイラルそのものです。
 1000円、900円、810円、730円・・・というよう
に所得が減っていき、経済はデフレスパイラルに陥る。こうなる
と、当然景気は後退してしまいます。景気が悪くなると、一層資
産価値は下がるわけで、企業の借金返済はますます加速化するこ
とになります。
 このスパイラルがどこまで行くのかというと、もし、政府がこ
の状態を放置して何もしないと、この悪循環は民間(家計と企業
の合計)をどん底の貧乏に追い込み、まったく貯蓄できなくなっ
たところでとまることになります。
 この悪循環が続いて、1000円の所得が500円まで落ちた
とします。500円ないと生活できないとすると、500円はす
べて消費されますが、何も貯蓄できないのです。つまり、民間部
門が1円も貯蓄できないほど貧乏になったところで、経済は新し
い均衡に達するのです。この500円の世界が世にいうところの
「大恐慌」なのです。
 家計部門の貯蓄を企業に回す――これは経済の根底のメカニズ
ムです。上記の数字の例は、家計部門の貯蓄だけを取り扱ったの
ですが、それに企業の借金返済が加わると、経済は家計の貯蓄と
企業の借金返済額の合計分の需要を失うことになるのです。
 このゼロ金利でも企業がお金を借りないで借金返済に回るとい
う現象は、70年前の1930年代の米国の大恐慌で起きている
のです。これによって当時の米国のGNPがわずか4年間で約半
分になってしまっています。
 これに対してルーズベルト大統領のニューディール政策や第2
次世界大戦、朝鮮動乱などで巨額な積極財政が取られたのですが
金利はいつまでも上昇しなかったのです。それは、当時の借金返
済の苦しさがトラウマになって、企業経営者が借金を避けようと
したからであると、クー氏は分析しています。
 添付ファイルは、その時期の金利の動きを示したグラフです。
1929年に株の大暴落があって、大恐慌に突入します。それか
らはじまって、長短金利が再び1920年代の平均レベルに戻る
のに実に30年もかかっているのです。1959年になってやっ
と金利がもとの4.1%まで戻ってきたのです。
 米国で現在70代、80代の元経営者は、そのときの借金返済
の苦しさがトラウマになって、いまだに借金を拒否する人が少な
くないというのです。
 しかし、日本においては、明らかに1930年代とほとんど同
じ現象が起きているのに、GDPは米国のように下がっていない
のです。どうしてでしょうか。−― [日本経済回復の謎/05]


≪画像および関連情報≫
 ・世界大恐慌についてのサイトより
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  1929年10月24日、暗黒の木曜日(ブラック・サース
  デイ)ニューヨーク、ウォール街の株式市場で株価の大暴落
  が発生。寄り付きは平穏だったが、間もなく売りが膨らみ、
  午前11時には売り一色に。そこでウォール街の大手株仲買
  人たちが協議、買い支えを行うことで合意。このニュースで
  相場は値を戻し、数日間は平静を保つ。
  1929年10月29日、悲劇の火曜日。実際に激しい暴落
  を演じたのはこの日。投資家はパニックに陥り、株の損失を
  埋めるため様々な地域・分野から資金を引き上げ始める。
http://www.tcat.ne.jp/~eden/Hst/dic/great_depression.html
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posted by 平野 浩 at 04:36| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本経済回復の謎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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