に指名され、これで今回の米国大統領候補は、「共和党/ドナル
ド・トランプ氏VS民主党のヒラリー・クリントン氏」が正式に
決定したことになります。いよいよ本番の選挙戦です。
しかし、共和党大会でも、民主党大会でも、拍手のなかには多
くのブーイングも混ざっており、大会としての盛り上がりに欠け
たといわざるを得ないのです。おそらくこれほど嫌悪度の高い候
補者同士が争う大統領選は今までになかったことでしょう。今回
EJでは、選挙戦の進むなかで、どちらが勝利して晴れて大統領
になるのかの情報を含めて、これら2人の候補者を取り上げてい
くつもりです。
オバマ大統領はとくに外交政策においてきわめて消極的な政策
をとっています。それは既に米国外交の随所にあらわれています
が、最近になってオバマ大統領は、自身の言葉で外交政策につい
て発言する機会が多くなっています。
そのひとつとして注目されるのは、2014年5月28日に行
われたウェストポイント陸軍士官学校の卒業式におけるオバマ大
統領の演説です。ちょうど12年前に、ここでブッシュ(子)前
大統領も演説を行い、9・11テロ事件以降のアメリカの対テロ
国家戦略を明らかにしています。この2014年の演説は世界の
警察官を下りると発言した後だったので注目されたのです。
この演説でオバマ大統領は、米国による指導力の柱として次の
4つをあげています。
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1.米国が軍事力を行使するときは、米国の核心的利益や国
民が危険にさらされたときに限られる。
2.国際テロ組織が新しい拠点を狙う国々とは、パートナー
関係を築き、対テロ戦略をシフトする。
3.NATOや国連などの国際機構をできる限り発展させ、
国際秩序をそれらによって強化させる。
4.国家安全保障の観点から考えても、今まで通り民主主義
と人権を世界の協力の下に支えて行く。
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要するに、米国は国民や国の核心的利益が危険にさらされるよ
うな事態が起きない限り、軍事行使はしないと明言し、国際的な
紛争は、あくまで国連などの国際機構を通じて解決に当たると述
べているのです。
具体的にいうと、かつてのクリントン政権やブッシュ(子)政
権がやったように、国連決議がないのに軍事同盟国でない他国の
ために軍事行動をとるようなことはしないといっているのです。
いっていることはごくまともなことですが、国連が70年以上
を経過しても世界の安全保障に機能してこなかった歴史を無視し
ています。オバマ大統領が国連改革のために何ら前向きに動いて
いないからです。
オバマ大統領のウェストポイント演説について米英のメディア
は、こぞって「その中身は空疎である」と切り捨て、外交の重要
問題をほとんど取り上げていないと指摘しています。そして、む
しろ演説で触れなかった問題こそ重要問題であると、その問題を
列挙しています。
アジアへの回帰あるいはリバランスについても言及がなかった
課題です。アジア回帰は、2011年にヒラリー・クリントン国
務長官により、「我々の政権の最も重要な外交的努力の一つ」と
して喧伝されたものですが、何しろ演説中、「ジャパン」という
単語はゼロ、「チャイナ」も3回しか出てこず、アジアに関して
はほとんど関心がないようです。
この演説について、2014年5月29日付の英フィナンシャ
ル・タイムズ紙は次の指摘をしています。
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オバマ氏は明確な目標を設定し、それを粘り強く達成すること
で評価されたいようだ。しかし、ニューヨーク州ウェストポイン
トの米陸軍士官学校卒業式で行われたオバマ氏の外交演説は、現
地の状況よりも米国の政治の都合で優先順位が決まるという疑念
をほとんど払拭できなかった。オバマ氏の外交政策指揮全般にも
同じことが言えるかもしれない。壮大な目標を掲げるのは得意だ
が、実際の行動は最新の世論の動きに影響されやすい。(中略)
オバマ氏は、世界中の問題に介入する米軍を受け継ぎ、それに
対処してきた。しかし外交的な行動を起こさないのは同氏に多く
の責任がある。演説だけで疑念を抱く者を安心させることはでき
ない。米国の同盟国の多くが、同氏の語る言葉の高尚さと、日常
的に示す重大な地政学的課題への無関心さとのギャップを警戒し
ているのは正しい。米国の孤立主義を否定する同氏の主張はある
程度納得できるものだったが、重要な課題の多くは手つかずのま
まだ。中国海軍の挑発的な行動にどう対処するか、ロシアの新帝
国主義的な領土侵攻についても演説ではほとんど触れられなかっ
た。環太平洋経済連携協定(TPP)や、環大西洋貿易投資協定
(TTIP)の行き詰まった交渉にも言及しなかった。
──2014年5月29日付、英フィナンシャル・タイムズ紙
http://s.nikkei.com/2axDUnt
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この演説の空疎さを表現したのは、ネット上に登場した風刺漫
画(添付ファイル)です。この風刺漫画でオバマ大統領が明日の
米国を担う若い陸軍士官に白い旗を渡しています。まるで「敵と
は戦わず、白旗を上げよ」といっているようです。
オバマ外交を見る限り、そこに「撤退するアメリカ」が見えて
きます。それは「世界の警察官を下りる」という大統領の言葉に
明確にあらわれています。トランプ氏とクリントン氏はこの点を
どのように考えているのでしょうか。
米国はこれまでに何回も撤退しようとしてきた「孤立主義」の
歴史があります。これについては、明日からのEJで考えていき
ます。 ──[孤立主義化する米国/016]
≪画像および関連情報≫
●重要事項に言及しない空疎なオバマ演説
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オバマ大統領が、2014年5月28日にウェストポイン
ト(米陸軍士官学校)で行った外交演説について、同日付W
SJウォールストリート・ジャーナル社説は、オバマが演説
で触れなかった重要問題を列挙して演説の空疎さを指摘し、
同じくフィナンシャル・タイムズ社説は、米国が重要な外交
課題に果敢に取り組む用意があるとの確信を同盟国に与える
には不十分であった、と指摘しています。ウォールストリー
ト・ジャーナル社説の趣旨は次の通り。
すなわち、ウェストポイントでのオバマ大統領の演説は、
自身の外交政策への強固な弁護を意図したものだが、オバマ
が演説で述べなかったことについてこそ考える必要がある。
ロシアとのリセットについて言及しなかった。オバマは20
09年のメドヴェージェフとの会談で、「リセットボタンは
作用した」と公言した。同じ年に、オバマはモスクワで「帝
国が主権国家をチェス盤上で駒として扱う時代は終わった」
と言った。
アジアへの回帰あるいはリバランスについても、言及が無
かった。アジア回帰は、2011年にヒラリー・クリントン
により、「我々の政権の最も重要な外交的努力の一つ」とし
て喧伝され、米国のイラクおよびアフガンからの撤退は世界
からの撤退ではないということを示す意図があった。しかし
マクファーランド国防次官補が、最新の国防予算のカットを
受けて、3月に認めた通り、「アジア回帰は、率直に言って
不可能なので、現在再検討されている」。
http://bit.ly/2afwX4B
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ウェストボイント演説を風刺する漫画