2016年08月01日

●「ばかなことはするな/ドクトリン」(EJ第4330号)

 既に述べたように、70年を超える国連の歴史において、安保
理決議を経て世界の5人の警察官による「国連軍」に近い部隊が
編成されたのは、たった2回しかないのです。
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         朝鮮国連軍 ・・・ 1950年
     湾岸戦争/多国籍軍 ・・・ 1991年
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 イラク軍のクウェート侵攻に端を発する湾岸戦争のときは、国
連は直ちに動いたのです。国連の安全保障理事会は、即時無条件
撤退を求める安保理決議660、全加盟国に対してイラクへの全
面禁輸の経済制裁を行う安保理決議661、海上封鎖のための安
保理武力行使容認決議665、そして安保理対イラク武力容認決
議678を速やかに採択しています。このさい、常任理事国は、
中国が棄権しています。しかし、多国籍軍については、有志国を
募って編成する方式をとっています。
 しかし、それ以降は、常任理事国がまとまって安保理決議を下
したことは1回もないのです。つまり、5人の警察官はいるもの
の、その何人かは必ず反対し、結局は安保理決議を経ないで賛成
国だけで武力攻撃を行っているのです。
 いくつか上げてみます。1998年、クリントン政権は、フセ
イン・イラク政権が湾岸戦争以後も何度も安保理決議違反を繰り
返しているので、国連の大量破壊兵器査察計画を妨害したとして
安保理で空爆をすることを提案したのです。しかし、常任理事国
で賛成したのは英国のみであり、フランス、ロシア、中国は反対
に回ったのです。そのため、米英は安保理決議なしでイラクへの
空爆を実施しています。「砂漠の狐作戦」です。
 次はイラク戦争です。2003年、ブッシュ(子)大統領は、
イラクのサダム・フセイン大統領が化学兵器などを備蓄し、米国
と世界に差し迫った脅威を与えていると主張し、イラクがフセイ
ン大統領の退陣と政権交代に応じなければ、国連は武力行使を容
認せよと迫ったのですが、これについても賛成したのは米英のみ
で、フランス、ロシア、中国は反対し、米英は安保理決議なしで
イラク戦争に突入しています。実はイラク戦争は、ブッシュ大統
領は早く終わると考えていたようですが、第二次世界大戦よりも
長期化しているのです。
 開戦が2003年3月であり、駐留米軍が撤退を完了したのは
2011年12月のことですから、実に8年9ヶ月を要している
からです。結局、安保理決議があろうとなかろうと、国のトップ
が戦争の決断をすると、国連としてはそれを止める手段はないの
です。このように5人の警察官体制は、世界平和にはほとんど貢
献していないといえます。
 常任理事国の5人の警察官体制は、90年代後半になると、武
力制裁に積極的な米英両国と、消極的なロシアと中国両国の対立
がある一方で、フランスは中間で態度が揺れるという状態が続き
ます。これでは意見がひとつにまとまることはほとんどないとい
えます。この体制は現在も続いているのです。したがって、安保
理の改革は喫緊の課題です。
 さて、オバマ大統領は、このイラク戦争に反対し、戦争を終結
させることを公約として当選しています。ちょうど、米軍の犠牲
者が急増していたときであり、米国の世論は戦争反対に大きく傾
いていたのです。
 オバマ大統領としては、大変苦労として2011年末に駐留米
軍のイラクからの撤退を完了した後のシリア問題において、ここ
で再び戦争に巻き込まれてはならないという思いから、優柔不断
な態度をとり、ロシアにつけ込まれると共に、かえってISの拡
大を許してしまったことは外交上大いに問題があります。
 これに関して興味ある話題があります。2014年4月、アジ
ア歴訪の途上、オバマ大統領は、大統領専用機「エアフォースワ
ン」の機上で行われた同行記者団との懇談において、記者達にシ
リア問題やウクライナ問題の対応について問われたのです。質問
には「腰が引けてるんじゃないか」という厳しいものもあったと
いいます。これに対して、オバマ大統領は次のように反論したの
です。高畑昭男氏の著作から引用します。
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 「シングルヒットや二塁打を重ねていれば、ときにはホームラ
ンも打てる。大切なことは(前政権のように)イラク戦争のよう
な大エラーを犯さないことだ」。大統領はさらに、シリア上空に
飛行禁止空域を設定し、ウクライナ軍に武器援助を行うなどの軍
事対抗策を求める専門家たちに対して「無謀な政策だ」と非難し
苛立ちを込めて「ばかなことはするな、ということなんだ」と言
い放ったという。大統領はこの後、席を立って自室へ戻りかけた
が、思いついたように立ち止まり、記者団に向かって、教師が小
学生に念を押すように「私の外交政策は何かね?」と唱和を求め
た。記者団は声を揃えて「ばかなことはするなということだ」と
叫んだという。  ──高畑昭男著『「世界の警察官」をやめた
  アメリカ/国際秩序は誰が担うのか』/株式会社ウエッジ刊
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 後になって、オバマ大統領が機上で記者団に話した次の言葉が
話題になります。
─────────────────────────────
     ばかなことはするな/Don't do stupid stuff
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 この言葉は、大統領たるものはイラク戦争のようなばかなこと
を絶対してはならないと訴えているのです。今回の民主党の大統
領候補のヒラリー・クリントン氏は、オバマ大統領の外交ドクト
リンを「ばかなことをするなドクトリン」と呼び、「オバマ外交
には首尾一貫とした戦略やドクトリンがない」と批判した演説を
行っています。オバマ氏としては、かつての部下から自分の言葉
を使って、正面切って批判されたことになります。
            ──[孤立主義化する米国/015]

≪画像および関連情報≫
 ●オバマ大統領の外交政策/2014年8月
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  【ワシントン】オバマ米大統領と側近らは、今後数十年間の
  国際関係の枠組みとなる新しい世界の安全保障体制を築いて
  いると考えている。しかし、ホワイトハウスがその長期戦略
  に抱く自信と、ウクライナから中東まで世界で繰り広げられ
  る日常的混とんは、毎日まるで分割画面のように対照的光景
  をもたらしている。
   このずれは大統領の支持率にも反映されている。ウォール
  ・ストリート・ジャーナル・NBCニュースが今週実施した
  世論調査で、オバマ大統領の外交政策に対する米国民の支持
  率は36%と過去最低となった。
   外交問題評議会(CFR)のリチャード・ハース会長は、
  オバマ大統領自身、自らが目指していることについての混乱
  を一層深めていると指摘する。ハース氏は「多くの場合、大
  統領が何を達成しようとしているか不明だ」と述べた。
   オバマ大統領は自分の任期中に米国の影響力が弱まったと
  いう見方を払拭できないことにますます不満を募らせている
  ようだ。オバマ大統領の外交政策を批判する向きは複数の危
  機が重なって発生していることでも(米国の影響力低下は)
  明らかだと指摘する。     http://on.wsj.com/29YBBZL
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オバマ米大統領.jpg
オバマ米大統領
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 孤立主義化する米国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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