2016年07月28日

●「アルバニア決議の不可解さを探る」(EJ第4328号)

 2016年7月24日、ラオスの首都ビエンチャンで、東南ア
ジア諸国連合(ASEAN)の外相会談が行われたのです。ここ
では南シナ海の中国の主張を否定した仲裁裁判所の判決への対応
が協議されることが期待されていたのです。
 中国にとっては、この外相会談は日米中が入らない南シナ海の
関係国会談であり、ここで「仲裁判決の受け入れを求める共同声
明」が出されると、大きなダメージになります。そのため、中国
の王毅外相は事前にビエンチャン入りし、ASEANの複数の外
相と相次ぎ会談することによって、経済支援を武器として札束で
頬を叩き、仲裁判決をテーマにしないよう働きかけたのです。
 そのあらわれが、相手国の部屋まで足を運んで会談を行ってい
ることです。中国は自ら大国であるという意識を強く持っており
会談を行うときは、小国の場合、相手国を呼び付けることが多い
のです。それをわざわざ出向いてきてやっているんだぞという意
思表明です。鼻持ちならない大国意識といえます。会談の前に安
倍首相をわざと待たせたりするのも、そういう態度のあらわれで
す。しかし、真の大国ならば国際法を順守すべきです。
 しかし、結果は3つに分かれたのです。仲裁判決を受け入れる
べきと主張するのは、フィリピン、ベトナム、シンガポール、イ
ンドネシア、マレーシアの5ヶ国で、対中牽制は容認するが連携
を優先すべきと主張するのは、タイ、ブルネイ、ラオス、ミャン
マーの4ヶ国、中国批判を一切認めないは、カンボジア1ヶ国に
なったのです。
 そのため共同声明が出せなかったのです。文案として「南シナ
海について法律の完全な尊重が必要である」が検討されたのです
が、カンボジアが中国の批判は絶対に認めないと強硬に主張した
ので、意見がまとまらなかったからです。ASEANの意思決定
は、全会一致が原則になっているので、1国でも反対すれば通ら
ないのです。考えてみると、これは常任理事国が拒否権を持つ安
保理の議決と同じです。
 さて、中華人民共和国(現在の中国)がいかにして、安保理の
常任理事国の地位を手に入れたかですが、これには多くの謎があ
ります。中国は、どのようにして、中華民国(台湾)を追い出し
常任理事国の地位を手に入れたのかについて考えます。
 アルバニア決議はどのような内容なのでしょうか。決議の全文
は次のようになっています。
─────────────────────────────
 国連総会は、国連憲章の原則を思い起こし、中華人民共和国の
合法的権利を回復させることが、国連憲章を守り、かつ国連組織
を憲章に従って活動させるためにも不可欠であることを考慮し、
中華人民共和国政府の代表が国連における中国の唯一の合法的な
代表であり、中華人民共和国が国連安全保障理事会の5つの常任
理事国の1つであることを承認する。
 中華人民共和国のすべての権利を樹立して、その政府の代表が
国連における中国の唯一の合法的な代表であることを承認し、蒋
介石の代表を、彼らが国連とすべての関連組織において不法に占
領する場所からただちに追放することを決定する。
                   http://bit.ly/2a8QdBB
─────────────────────────────
 非常に読みにくい決議文になっています。本来論理的におかし
いことを無理に論理づけたのですから、わかりにくくなるのは当
然です。要するに次のことをいいたいものと思われます。
─────────────────────────────
 中華人民共和国の政府の代表は、国連における中国の唯一の合
法的な代表であるが、蒋介石が国連とそのすべての関連組織に代
表として不法に占拠していたので、これを追放する。
─────────────────────────────
 つまり、中華民国も中華人民共和国も同じ中国であって、この
決議(1971年10月25日)までは、蒋介石なるものが、中
国の名において国連およびその関連施設を不法に占拠していたが
これを追放し、正常化する──こういう決議なのです。
 要するに、これは中国が唱える「一つの中国」論ですが、肝心
の中華民国(台湾)はそれを受け入れていないのです。しかし、
中国の国力の向上とともに、世界中の国が「一つの中国」を受け
入れざるを得ないようになっています。それでも台湾は現在でも
中国の一部であるとは認めず、独立を目指しているのです。
 中華人民共和国の建国は1949年のことであり、「一つの中
国」を認めない限り、常任理事国の地位を引き継ぐことはできな
かったということはいえます。いずれにせよ、中華人民共和国が
常任理事国になれたのは、その当時のソ連の強いバックアップが
あったからです。ソ連としては、常任理事国に共産主義国家が増
えることは大きなメリットがあったのです。
 不可解なのはこの決議に対する中華民国のとった行動です。中
華民国の代表はアルバニア決議の出る前に退場しているのです。
つまり、決議に加わっていないのです。中華民国は常任理事国の
ひとつであり、自分の国を外す決定であるので、拒否権を行使し
てもよかったと思います。もしやっていれば、アルバニア決議は
採択されなかったことになります。
 もうひとつ納得できないことがあります。それは、国連総会の
決議は、重要な決議の採択には、3分の2以上の賛成を必要なの
です。しかし「追放反対重要問題決議案」は提出されましたが、
「否決」されているのです。これは過半数でいいのです。
─────────────────────────────
        ≪追放反対重要問題決議案≫
         賛成 ・・・・・ 55
         反対 ・・・・・ 59
         棄権 ・・・・・ 15
         欠席 ・・・・・  2
─────────────────────────────
            ──[孤立主義化する米国/013]

≪画像および関連情報≫
 ●日本は常任理事国入りをすべきである/2015年5月
  ───────────────────────────
   国連の常任理事国入りを目指して日本、ドイツなど4ヶ国
  が、安全保障理事会の改革案を提出したことを、このほど、
  朝日新聞が報じた。
   記事によると、日本、ドイツ、インド、ブラジルの4ヶ国
  は、現在15ヶ国の安保理の構成国を25〜26ヶ国とし、
  常任理事国を現在の5から11へ非常任理事国を現在の10
  から15へと拡大する改革案を提出した。4ヶ国はそれぞれ
  常任理事国入りを目指しており、安倍晋三首相も積極的な姿
  勢を示している。
   改革に必要な国連憲章の改正には、全加盟国の3分の2の
  賛成と現・常任理事国のアメリカ、イギリス、フランス、ロ
  シア、中国の5ヶ国の賛同が必要。だが、既得権益を手放し
  たくない仏中の反対などが予想され、実現の見通しは不透明
  という。
   果たして、国連の体制を見直し、常任理事国を増やすべき
  なのか。答えは「イエス」である。その最大の理由は、国際
  情勢の変化だ。現在の国連は、第2次大戦の際に、戦勝国で
  ある連合国側が敗戦国を抑えこむ形でつくられた。だが、戦
  後70年が経ち、勤勉な国民性を持つ日本やドイツは目覚ま
  しい発展を遂げ、世界経済の牽引役となっている。また、人
  口が増加するインドやブラジルなどの国々が先進国の仲間入
  りを果たそうとするなど各国の役割が大きく変化している。
                   http://bit.ly/2am71ID
  ───────────────────────────

蒋介石国民党総裁.jpg
蒋介石国民党総裁
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 孤立主義化する米国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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