2007年06月06日

●経済全体が合成の誤診に陥る(EJ第2095号)

 リチャード・クー氏は、過去数十年間にわたって日本企業がバ
ブルによって毀損したバランスシートを健全化するために借金返
済に走ってきたことを示し、それが今後どうなっていくかを考え
る興味ある資料を著書の中で示しているので、ご紹介して解説し
たいと思います。添付ファイルがそれです。
 タイトルは「部門別にみた資金不足の推移」となっていますが
ここで部門とは、次の5つです。
―――――――――――――――――――――――――――――
           1.家計部門
           2.金融部門
           3.非金融法人部門
           4.海外部門
           5.一般政府
―――――――――――――――――――――――――――――
 一国の経済は、家計部門(国民)が貯金したお金を企業部門が
借りて使い、その両部門の間に銀行や証券会社などの金融機関が
入って仲介役をするということで成り立っています。
 これら5つの部門はすべてを加えるとゼロになるようにしてあ
ります。これら5つのうち、金融部門と非金融法人部門は同じバ
ランスシート問題を抱える法人企業であるということで、法人部
門として一本化して4部門として作ったグラフが添付ファイルの
グラフなのです。
 これらの4つの部門がそれぞれどういう状況にあるときが一番
ベストなのでしょうか。以下、添付ファイルをベースとして説明
することにします。
 グラフの真ん中のゼロのところに横線がありますが、この線を
境に上が「資金余剰」、下が「資金不足」をあらわします。まず
家計部門は一番上――資金余剰、法人部門は一番下――資金不足
の位置にあり、海外部門と一般政府がゼロ線の近くにあるという
のが理想形なのです。
 グラフをよく見ると、1990年がちょうどその理想形になっ
ています。家計部門が一番上にあるということは、高い貯蓄率が
あることを示しています。法人部門が一番下というのは、資金を
必要としていることを示しており、高い投資比率を維持している
ことになります。
 そして、一般政府と海外部門がゼロ近くにあるというのは、政
府の財政収支と国の経常収支が両方とも均衡していることを示し
ているのです。
 政府の財政収支とは、ごく大雑把にいえば、歳入(国の収入)
と歳出(国の支出)の収支のことであり、それが均衡していると
いうことは、毎年度の税収などの収入によって、毎年度の国の支
出をまかなうことができることを示しています。これに対して、
国の経常収支というのは、こちらもごく大雑把にいえば、輸入よ
り輸出が多く、支払いより受け取りの額が多い場合が経常黒字と
いうことになります。
 1990年は一般政府はプラスの資金余剰、海外部門はマイナ
スの資金不足――これは海外部門が日本からお金を借りて投資し
ているということを示しています。日本は経常黒字、海外は経常
赤字ということになります。
 つまり、こういうことになります。1990年の日本は、高貯
蓄、高投資、経常黒字、財政黒字をクリアして、経済としては最
高の状態だったことを示しています。日本が「ジャパン・アズ・
ナンバーワン」といわれたのも当然なのです。
 しかし、1990年以降は様相は一変する――法人部門のグラ
フはどんどん上昇し、1998年になるとグラフはゼロの上に出
て、2000年には家計部門を超えて、2003年まで上昇を続
けているのです。これは、企業が借金返済を加速させた結果であ
るといえます。
 つまり、一番多くの資金を調達しなければならない法人部門が
一番多く金融機関に返済している――これがつい最近までの日本
経済の姿であったのです。そして、この結果、お金を借りて投資
していた主体がそれをやめて借金返済に回ったツケは、グラフの
右端にあるように、GDP20%を上回るところまで拡大したの
です。このように法人部門からGDPの20%に相当する需要が
消えてしまえば、不況になるのは当たり前のことです。
 この過去15年間に株と土地という2つの資産だけで1500
兆円という想像を絶する規模の富が失われたのです。この額は、
日本の個人金融資産と同じ金額なのです。1500兆円といえば
3年分のGDPに匹敵するのです。これは平時に失われた富とし
ては史上空前の額なのです。
 第2次世界大戦で日本が失った富は当時の日本のGDPの1年
分だったのですから、GDPの3年分の消滅がいかにひどいもの
だったかがわかると思います。
 なぜ、1500兆円がなぜ消えることになってしまったのかに
ついて、クー氏は次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 全国的な資産価格の暴落が発生して借金だけが残り、その借金
 を返そうと民間が一斉に借金返済に陥ると、経済全体が「合成
 の誤謬」といえる困った事態に陥る。
                  ――リチャード・クー著
     『「陰」と「陽」の経済学/我々はどのような不況と
    戦ってきたか』        ――東洋経済新報社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 合成の誤謬(ごびゅう)とは、個々全員が正しいと思ってとっ
てしまった行動が当初の想定とまったく逆になってしまうことを
いうのです。当時の企業経営者にとって、バランスシート健全化
は正しい行動ですが、全員が同じことをやってしまった結果が史
上空前の不況を招いてしまったのです。過去15年間の日本経済
では、あらゆるところで、この合成の誤謬が生じていたというこ
とがいえます。     ――−― [日本経済回復の謎/04]


≪画像および関連情報≫
 ・経常収支の4つの部門
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「貿易収支」モノの輸出入の集計「サービス収支」海外旅行
  先で買い物をしたり食事をしたりが、日本のサービス収支の
  赤字に計上「所得収支」企業が海外の工場建設などや海外証
  券投資で得た収益から、日本国内で外国企業などが得た利益
  や報酬などを引いたもの「経常移転収支」開発途上国への経
  済援助や国際機関への拠出金など。これらのトータルが黒字
  というのは、輸入より輸出が多く、支払いより受け取りの額
  が大かったということです。
  http://allabout.co.jp/career/economyabc/closeup/CU20031117C/
  ―――――――――――――――――――――――――――

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posted by 平野 浩 at 05:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本経済回復の謎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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