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メインになる書籍が必要なのです。
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高畑昭男著
『「世界の警察官」をやめたアメリカ/
国際秩序は誰が担うのか』/株式会社ウエッジ刊
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オバマ大統領がどのような大統領であるかを如実に示している
のは、ウクライナ紛争とシリア問題における米国の対応であり、
そこによくあらわれていると思います。
ウクライナ紛争では、2014年3月1日、プーチン大統領が
軍事介入についてロシア上院の承認を取ったとき、オバマ大統領
は、軍事行動を止めるよう電話で1時間半にわたって説得したも
のの、失敗に終わっています。
そしてオバマ大統領は、「ウクライナのいかなる軍事的措置は
大きな代償を伴うだろう」とロシアを牽制し、ウクライナの新政
権へ援助を約束したのですが、あくまで経済的、外交的援助に限
定するとし、軍事的措置は視野に入れていないことをわざわざメ
ディアに発表したのです。
これは、ロシアが軍事的に介入してきても米国としては何もし
ないという意思表明であり、そのためロシアは易々とクリミアに
軍を進め、軍事的に占拠することができたのです。
プーチン大統領としては、当然米軍と一戦を交えることだけは
絶対避けなければならないものの、やはりオバマ大統領の「アメ
リカはもはや世界の警察官ではない」という宣言と「ウクライナ
への軍事的措置は視野に入れていない」という発言が、仕掛けて
も「米軍は出てこない」という判断をプーチン大統領にもたらし
たものと思われます。プーチン氏のしたたかな計算です。
実は英国は、ロシアを牽制するため、欧米の共同軍事訓練をウ
クライナ周辺で行うべきと提言していたのですが、米国がそれを
拒んだので、実現しなかったのです。オバマ大統領は何が何でも
軍事行動は行いたくないという態度です。
もちろんウクライナは、米国の同盟国ではないし、NATOの
加盟国でもないのです。米国やNATOはウクライナを守る義務
はないのです。しかし、無関係というわけではないのです。
ウクライナは、NATOアフガニスタン国際治安支援部隊(I
SAF)に部隊を派遣しており、一緒に戦ってもいるのです。い
わばNATOのパートナー国なのです。ロシアはウクライナがN
ATOに加盟することを非常に警戒していますし、英国の提案の
ように共同軍事訓練をやっていたら、ロシアは軍を動かすことは
できなかったと思います。
白鴎大学教授の高畑昭男氏は、これについて次のような見解を
述べています。
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アメリカは、軍事衛星や各種の傍受システムなど世界最先端の
ハイテク軍事技術を備えている。ロシア軍や民兵勢力の動きは手
に取るように見えている。初期段階で英国が提案したようにNA
TOの共同演習を展開したり、地中海艦隊をロシアに近い黒海方
面へものものしく移動させるなどの陽動作戦で牽制していたら、
事態は異なっていた可能性が高い。ロシア側は「アメリカが何を
するかわからない」と警戒し、慎重な行動を余儀なくされたに違
いない。 ──高畑昭男著の前掲書より
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続いて、シリアのアサド政権での化学兵器使用疑惑におけるオ
バマ政権の対応です。2012年の夏以降、アサド政権は、複数
回にわたり、反政府勢力や市民に対して化学兵器を使用し、大勢
の死者が出ているという「国境なき医師団」の声明に対して、オ
バマ政権がどう動いたかです。
2012年8月に行われた再選キャンペーンにおいてオバマ大
統領は、次のように述べているのです。
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国民の信を失ったアサド大統領は退陣すべきである。シリアの
軍事介入は考えていないが、化学兵器が使われたりすれば、それ
は「レッドライン」だ。すべての計算が一変する。
──高畑昭男著の前掲書より
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「レッドライン」とは超えてはならない一線のことであり、こ
の文脈からは「生物兵器が使われるようなことになれば軍事介入
も辞さない」という意味にとれます。
そのレッドラインをアサド政権が越えたのです。レッドライン
発言から考えて、当然オバマ大統領は軍事介入の決断をしたので
すが、その最終決定の決断は議会に預けてしまったのです。これ
に対して下院議員の一人は「米軍最高司令官の責任を放棄するも
の」と痛烈に批判したのです。
軍事介入の決断を議会に預ける演説をしたのは、2013年8
月31日ですが、その前日、オバマ大統領はスーザン・ライス大
統領国家安全保障問題担当補佐官らの側近に次の趣旨のことを話
したということが、高畑昭男氏の本に出ています。
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とびきりのアイデアがある。まず君たちに聞いてみたい。議会
に決断を委ねるのだ。 ──オバマ大統領
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側近は「議会に諮る必要はないし、議会が反対すれば大統領の
立場が悪くなる」と進言したのですが、オバマ大統領は聞き入れ
なかったといいます。
イラク戦争のさい、ジョージ・ブッシュ大統領も議会の承認を
求めましたが、それは大統領がイラクとの開戦を宣言し、そのあ
とで、議会に諮っているのです。決定自体を議会に預けたオバマ
大統領とは違うのです。 ──[孤立主義化する米国/003]
≪画像および関連情報≫
●オバマ米大統領、シリア軍事介入決断/議会承認へ
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【ワシントン】オバマ米大統領は2013年8月31日、ホ
ワイトハウスで記者会見し、シリアに対して限定的な軍事攻
撃を命じることを決定したと表明した。大統領は事前に議会
の承認を求めることにも同意した。米国のシリア攻撃は秒読
み段階にあるとみられていたが、オバマ大統領が議会の承認
を求めると表明したことで、シリアの化学兵器使用を受けて
展開していた米軍の動きは停止する。米国の分析報告書によ
ると、シリア政府は21日に化学兵器を使用し、400人以
上の子どもを含む1400人以上が死亡した。
オバマ大統領の側近はこれまで、大統領がシリアへの軍事
攻撃について議会の承認を求めることはなく、大統領には軍
事行動の開始を命じる法的な権利があるとの見解を示してい
た。今回の決定はオバマ氏自身にとってもいら立たしい方針
転換だった。
大統領は議会の指導者が9月9日の議会再開から議論を行
い、採決することで合意していると述べた。民主党が多数派
を占める上院の指導部は再開の前倒しを検討した。シリアへ
の軍事攻撃の方針が決まり、大統領のシリア政策は未知の方
向に進むことになる。議会では軍事介入だけでなくオバマ氏
を巡っても意見が割れており、対立が起きることは確実だ。
大統領は議会での審議に同意することで、英国のキャメロン
首相のように議会承認を得られないというリスクを負うこと
になる。 http://on.wsj.com/29IXolG
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議会にシリア攻撃の可否を委ねる