あります。なぜ、対米従属姿勢をとってきたかというと、基本的
には安全保障の観点からです。1990年〜1991年の湾岸戦
争時から米軍はサウジアラビアに駐留しています。
中東地域におけるサウジアラビアの敵は、イスラエルをはじめ
たくさんありますが、何といっても最大の敵はシーア派の大国イ
ランです。米国は、そのイランの核問題に対して、厳しい対応を
とってきており、サウジアラビアとしては親米路線をとるメリッ
トが十分あったのです。
しかし、2013年頃からサウジアラビアは、公然と米国を批
判したり、兵器も米国以外から購入する方針を打ち出し、反米の
姿勢を鮮明にするようになっています。米国にとって深刻なのは
親米/知米派のサウジアラビアのバンダル・ビン・スルタン王子
が反米に舵を切ったことです。バンダル・ビン・スルタン王子と
は次のような人物です。
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バンダル・ビン・スルタンは、2949年に初代国王の孫とし
て生まれる。1968年に英国王立空軍大学を卒業し、アメリカ
でも研修を受けた後、サウジアラビア空軍に入った。後にジョン
・ホプキンス大学で国際公共政策の修士号を得ている。彼はその
後1983年から2005年に到るまで駐米大便を務めている。
つまり、レーガン政権、ブッシュ(シニア)政権、クリントン政
権、ブッシュ(ジュニア)政権の駐米大使を務めたということで
ある。そのために、アメリカに大きな影響力を行使できる人物な
のである。 ──柏原竜一著/『陰謀と虐殺/
情報戦から読み解く悪の中東論』/ビジネス社刊
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これでわかるように、バンダル王子は歴代の米国の大統領とき
わめて近い人物であり、この人物が米国を見限ったということは
米国にとっては深刻なことであるといえます。
2012年7月にアブドラ国王は、バンダル王子を総合情報局
局長に任命しています。彼に与えられた使命は、シリアのアサド
体制の打倒、それに中東におけるイランの勢力拡大の阻止の2つ
です。きわめて重要な使命です。
しかし、米オバマバ政権は、アサド政権に対して曖昧な態度を
取り、ロシアの仲介にまかせたり、イランとの核交渉を進めて和
解の方向を目指すなど、サウジアラビアを裏切るような外交を積
極的に展開するようになります。これについて、情報史研究家の
柏原竜一氏は次のように述べています。
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トルコやサウジアラビアといったスンニ派諸国が、アメリカに
反抗的な姿勢を取るようになった背景には、アメリカが同時に進
めていたイランとの核交渉がある。スンニ派諸国、とくにサウジ
アラビアは、思想的にはイスラム国に思想的には近いとはいえ、
アメリカからは距離を置きはじめた。その最大の要因は、アメリ
カのイランへの接近だったのである。重要なことは、シリア内戦
の当初には確立されていたはずのアメリカとスンニ派諸国との連
合が、イスラム国の登場により瓦解したということだ。
──柏原竜一著の前掲書より
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バンダル王子をはじめとするサウジアラビア王政は、一層反米
的な姿勢をエスカレートさせています。2013年末に、イラン
傘下のヒズボラの影響力が強まったレバノンにおいて、ヒズボラ
の対抗勢力になりうるレバノン国軍に対してサウジアラビアは、
30億ドルの支援を行っています。レバノンにとって30億ドル
は2年分の軍事費に相当する金額です。
そのさい、サウジアラビアはひとつ条件をつけています。それ
は「兵器は米国から買ってはならない。フランスから買え」とい
う条件です。レバノン国軍は、その通りに実行したので、フラン
スのオランド大統領が感謝し、返礼としてサウジアラビアを訪問
しています。
国際政治学者の田中宇氏のレポートによると、2013年12
月17日、サウジアラビアの駐英大使を務めるナワフ王子は、米
ニューヨークタイムズ紙上で、次のような宣言を行っています。
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シリアの最大の問題は化学兵器でなくアサド政権だ。シリアや
イランに対する米欧の政策は、中東を不安定化する。わが国は、
アラブの盟主・イスラム発祥の地・エネルギー部門の世界の中央
銀行として、米欧のやり方を看過できないので、アサドやイラン
の台頭を防ぐため独自の動きを拡大し、シリア反政府武装勢力を
支援する。米欧は、アルカイダ系が強くなったのでシリア反政府
勢力を支援できないと言うが、話が逆だ。米欧が支援しないので
アルカイダ系が強まったのだ。 http://bit.ly/28P9HdT
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サウジアラビアは、米国のドルで原油を決済し、その莫大なる
石油収入を米国債などのドル建ての金融商品に投資し、米国に多
額の資金を提供し、ドルの基軸通貨体制を支える大黒柱の一つと
しての役割を果たしてきたのです。さらに米軍を駐留させ、安全
保障の面でも外交の面でも米国に依存してきたのです。そのサウ
ジアラビアが、米国を見限り、離れようとしています。
改めて考えてみるまでもなく、現在のサウジアラビアの情勢は
日本の置かれた状況に酷似しています。米国の覇権は明らかに衰
退しつつありますが、日本はそのギャップを自国の憲法解釈を変
更させることによる安保法制で埋めようとしています。それは本
当に正しいことでしょうか。サウジアラビアのように米国にハシ
ゴを外される結果にならないでしょうか。
米国の中東政策の変更によって、中東情勢は変わりつつありま
す。その底流には2つの潮流──ペルシャ系文化と遊牧系トルコ
文化が動き、復活しようとしているのです。
──[現代は陰謀論の時代/118]
≪画像および関連情報≫
●なぜアメリカは距離を置くのか/存在感を増していくイラン
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サウジアラビアは今年初めに47人の大量処刑を行った。
その中に反体制派のシーア派聖職者、ニムル師が含まれてい
たため、怒ったイラン市民がサウジアラビア大使館を襲撃し
両国は国交断絶に至った。これまで同盟関係にあるサウジに
甘かったアメリカだが、今回はイランだけでなくサウジにも
不快感を表明。専門家からはアメリカとサウジの関係の冷え
込みが指摘されている。
ロサンゼルス・タイムズ紙(LAT)は、サウジアラビア
は、敵に囲まれていると指摘する。北はイスラム国、南は敵
対するシーア派の反乱軍がいるイエメン、東はシーア派が支
配し、サウジが最も恐れるライバル国イランだ。サウジはイ
スラム国とイランの影響を恐れ、国内でもテロリストだけで
なく、反体制派やジャーナリスト、人権派弁護士などを摘発
しており、体制維持にやっきになっているという。
ハフィントンポストに寄稿した政治学者、アリ・アルアー
メッド氏はサウジ政府は窮地に追い込まれていると述べる。
2016年の国家予算は、原油価格の低迷とイエメンでの戦
費がかさんだ影響で減少。原油から得る収入は2014年に
比べ2015年は23%も減少しているため、2016年も
更なる落ち込みが予測されている。 http://bit.ly/28Sg42L
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バンダル・ビン・スルタン王子


