2016年06月23日

●「サウジアラビアの2つの柱の危機」(EJ第4304号)

 シーア派とスンニ派──数からいうと、シーア派は世界のイス
ラム教徒人口の10〜20%に過ぎず、多数派はスンニ派という
わけです。代表的な国としては、シーア派はイラン、スンニ派は
サウジアラビアです。
 実は、このサウジアラビアがいろいろな意味で現在注目されて
いるのです。ところで、われわれ日本人はサウジアラビアという
国についてどれほどのことを知っているでしょうか。
 サウジアラビアと聞いて頭に浮かぶのは、砂漠、ラクダ、金持
ちの王様、そして白のシーツのような衣装をまとい、頭にも白い
布をかぶったヒゲの男性といったところでしょうか。なぜか、女
性のイメージは浮かんでこないのです。
 サウジアラビアという国名は、「サウド家のアラビア」という
意味であり、王室と有力部族が権力を握っています。まるで幕藩
時代の日本のようです。世界最大級の石油産出量を誇るが、その
収入はすべて王室が支配しているのです。その代り、税金はほと
んど取らず、国民に手厚い福祉を提供しています。
 しかし、ベンジャミン・フルフォード氏は、サウジアラビアを
「世界で最も異端の国」といっています。なぜ、異端の国かとい
うと、現代においても宗教警察が道端で鞭打ちの刑を平然と行っ
ているからです。これは、サウジアラビアが単なるスンニ派の国
ではなく、「ワッハープ」という極端に厳しい戒律と男尊女卑を
教義に据えているいわば「カルト」だからです。実はこれとイス
ラム国とは無関係ではないのです。
 このサウジアラビアについて、情報史研究家の柏原竜一氏は自
著で次のように述べています。
─────────────────────────────
 サウジアラビアはサウド家という王室により統治されている。
サウド家とワッハーブ派イスラム教との関係は、サウド家がワッ
ハーブ派を守り、ワッハーブ派はサウド家の王位の正当性を承認
するというものだ。サウジアラビアはワッハーブ派のイスラム法
(シャリーア)の解釈を受け入れ、イスラム聖職者が、教育その
他の分野で強い発言権を持つ。宗教指導者が国政における要職を
占め、王室のメンバーと婚姻を結ぶ。
 サウジ国王は、湾岸戦争の際に米軍に協力を求めるといった重
大な決定を正当化するのに宗教指導者に支援を求める。そして、
王室であるサウド家は、自らを信心深いスンニ派のイスラム教徒
であると主張することで、アラブ民族主義や、共産主義、それに
イランのシーア派イスラム原理主義のような外部のイデオロギー
に対抗してきたのだ。            ──柏原竜一著
       『陰謀と虐殺/情報戦から読み解く悪の中東論』
                       ビジネス社刊
─────────────────────────────
 サウジアラビアは、これまで一貫して「親米」を貫いているの
です。とくに1990年から1991年にかけての湾岸戦争を契
機に湾岸地域における米国の軍事プレゼンスは大きく拡大してい
ます。サウジアラビアには米軍が駐留しているのです。
 現在サウジアラビアを支えているのは、次の2つの柱です。し
かし、現在、この2つの柱が揺らいでいるのです。
─────────────────────────────
        1.石油資源による莫大な富
        2.ワッハーブ派イスラム教
─────────────────────────────
 第1の柱は「石油資源による莫大な富」です。
 今までこの柱は、文字通りサウジアラビアを支えていたのです
が、原油安によってこの柱が大きく揺らいでいるのです。何しろ
サウジアラビアのGDPの半分、歳入の80%が石油関連産業に
依存しているのです。
 したがって、原油価格の下落は即座にサウジアラビアの大幅な
減収に直結するのです。2015年はその財政赤字を補うため、
600億ドル(約7兆円)もの金融資産を取り崩して対応したの
ですが、それでも足りなかったので、2015年7月には40億
ドルの国債を発行しているのです。
 そのため、2016年度は歳出を14%削減するとともに、一
部国有組織の段階的民営化、付加価値税の導入、たばこへの課税
も行う方針です。加えて向こう5年間の補助金見直し計画の一環
として、燃料や電気、水道料金の引き上げまで打ち出すという深
刻さです。
 第2の柱は「ワッハーブ派イスラム教」です。
 サウジアラビアでは、宗教は自己のアイデンティティそのもの
なのですが、最近それが大きく落ちているのです。
 「自己のアイデンティティーをどこへ求めるか」という世論調
査において、サウジアラビアは次の数字になっています。
─────────────────────────────
         イスラム教徒 ・・・ 47%
           アラブ人 ・・・ 34%
      サウジアラビア国民 ・・・ 19%
─────────────────────────────
 これによると、サウジアラビアの場合、イスラム教徒とアラブ
人と答える人が圧倒的に多く、サウジアラビア国民であるという
人がきわめて少ないのです。同じ王国であるヨルダンでは58%
がヨルダン国民という回答であり、サウジアラビア国民の国家へ
の求心力が極端に小さいことがわかります。
 それではどうすれば求心力を高めることができるでしょうか。
 それは、第2の柱であるワッハープ派の信仰を対外的に広める
ことによって、サウド家の統治の正当性を獲得する必要がありま
す。それはいくらカネがかかってもやらなければ国家としての存
続が危うくなります。
 これと矛盾するのは「親米」という路線です。サウジアラビア
は、「親米」であると同時に「反米」であるという両義性を持つ
国家なのです。     ──[現代は陰謀論の時代/117]

≪画像および関連情報≫
 ●サウジアラビアのビジョン2030に黄信号
  ───────────────────────────
   IMFはサウジアラビアが2020年に財政破綻すると警
  告している。公表されたビジョン2030は原油依存から脱
  却して高度医療と観光を中心とする国を目指した構造改革で
  サルマン国王の長男であるモハメド皇太子が描くサウジアラ
  ビアの未来図である。政策の多くは湾岸諸国が以前から目指
  してきたものだが、ビジョン2030では改革案を整理統合
  し、中長期的ロードマップとして、財源を具体化した。改革
  項目ごとに数値目標が掲げられ、具体的になったものの、達
  成するハードルはいずれも高く、実現には多くの困難が予想
  される。
   ビジョン2030の中心課題は民営化である。資産価値は
  2兆ドル(日本円で約216兆円)以上とされるアラムコの
  株式の一部を一般に公開し、残りを構造改革の投資基金とす
  る。民営化スキームはクエートで1950年代に実行され湾
  岸諸国も同様の政策をとることとなった。サウジアラビアは
  原油輸出の収入で米国債を購入し米国の安全保障を受けてき
  たが、民営化により米国債売却となれば米国債暴落に結びつ
  く。労働人口の大半を周辺湾岸諸国に頼るサウジアラビアに
  とっては、インフラ整備において労働力確保は必須の条件で
  ある。そこで周辺国からの出稼ぎ外国人労働者にもグリーン
  カードを与え、労働者虐と国内雇用における人権問題の解決
  を目指す。            http://bit.ly/28MnmlX
  ───────────────────────────

サウジ国王と安倍首相.jpg
サウジ国王と安倍首相
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 現代は陰謀論の時代 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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