2007年06月05日

●なぜ、企業は借金返済に走ったのか(EJ第2094号)

 銀行の不良債権問題が問題になったとき、小泉政権はいかにも
それが日本の長期不況の元凶であるかのようにとらえ、竹中大臣
を使って一挙にそれを片付けようとしたのですが、それがいかに
間違っていたかについては後から少しずつ明らかにしていきたい
と思います。いずれにせよ、景気が回復したのは、そのことと何
も関係がないことを最初に申し上げておきます。
 リチャード・クー氏によると、この過去15年間にわたって、
日本で起きていたことは、どの経済学書にもビジネス書にも載っ
ていない極めて特殊な不況であるというのです。つまり、今まで
の経済学では想定していなかった事態であるといっています。
 ゼロ金利の状態で過去10数年間、企業は一斉に借金の返済を
やっていたからである――クー氏はこういうのです。これはデー
タでちゃんと裏付けられています。それからもうひとつ、ここで
クー氏のいう「企業」とは「上場企業」であると考えるとわかり
やすいということです。つまり、懸命に借金返済に走っていたの
は日本の上場企業なのです。
 ゼロ金利なのに借金を返済する――こんなことは、どの経済書
でもビジネス書でも教えないでしょう。企業にとってゼロ金利で
あることは最大のチャンスだからです。普通にとらえると、ゼロ
金利(短期金利)でも銀行からお金を借りず、そのお金の使い方
を決められない経営者なんか無能であると思われても何ら不思議
ではないのです。
 添付ファイルの「グラフ1」をご覧ください。このグラフは、
日本の短期金利と日本企業が銀行と資本市場からどのくらい資本
調達を行っていたかを示しています。
 これによると、1995年には短期金利はほとんどゼロになっ
ているのに、日本企業は借入れを増やすどころか、借金返済を拡
大させ、2000年から2003年頃には年間20兆〜30兆円
というとんでもない規模の借金返済を行っていたことが明らかに
なっています。どうして、日本企業はそのようなことをやったの
でしょうか。
 企業というものは、資金を調達して事業を拡大させるのが自然
の姿です。その企業がそれをやめてしまい、一斉に借金の返済に
走る――一体どうしてこのようなことが起こったのでしょうか。
 その最大の原因は、この10数年間、日本国内でとんでもない
資産価値の下落が発生したことなのです。「グラフ2」は、6大
都市の商業用不動産、株式市場の指標であるTOPIX、ゴルフ
会員権の3つの資産価値の推移を示したものです。グラフを見る
とわかるように、最悪期の2003年〜2004年においては、
3つとも次のように大幅な下落をしているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     ≪2003年〜2004年/最悪期≫
     商業用不動産 ・・・・・ −87%
     TOPUIX ・・・・・ −43%
     ゴルフ会員権 ・・・・・ −95%
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは尋常ならざる下落ですが、なぜ、株価だけが−43%で
すんでいるのでしょうか。これだけは下落率が小さいのです。
 それは、この間外国人投資家が日本株を買ってくれていたから
です。現在でこそ日本でもネット投資家などが増えて株を買う人
が出てきていますが、当時はバブルの後遺症で日本人の投資家は
激減していたのです。
 しかし、海外の投資家からみると、日本は良い製品をつくって
いて、全世界に良いマーケットを有しているとして株を買い続け
ていてくれたからこそ、−43%程度の下落率ですんだのですが
外国人投資家の入ってこなかった市場であるゴルフ会員権や商業
用不動産は、ピーク時の10分の1に落ち込んだのです。
 問題は商業用不動産の資産価値の下落です。不動産は金額が大
きいので、銀行からの借入金で購入するのが普通です。そういう
状況で資産価値の下落ガ起こったらどうなるでしょうか。
 具体的に考えてみましょう。100億円のお金を銀行から借り
て不動産を購入したところ、資産価値が−90%下落して、10
億円の価値になってしまったとします。しかし、借金はまだ70
億円も残っている――この部分だけを取り上げると、この企業は
60億円の債務超過に陥っていることになります。
 この時点でその企業の負債と資産はマッチしなくなり、同社の
バランシートは大きく毀損したことになるのです。企業の資産の
中心は不動産ですから、不動産の価値が毀損すると大半の企業は
債務超過に陥ることになるのです。こういう事態が起こったら、
企業の経営者はどのように行動するでしょうか。
 倒産――一般的なイメージは、その企業の製品やサービスが売
れなくなり、それによって負債が増加して債務超過になるという
ものです。そのイメージが1990年以降大きく変わってきてい
るのです。製品やサービスは売れており、キャッシュ・フローが
あっても、資産価値が大幅に下落することによって債務超過に陥
り、倒産してしまうケースも出てきたのです。
 企業の技術力、商品開発力、マーケティング力などの本業は健
全でしっかりしており、キャッシュフローも健全で、毎年収益も
上がっている――そういう日本企業はたくさんあったのです。
 しかし、企業の財務内容は、国内で資産価値が暴落したので、
バランシートは大きく毀損して債務超過となる企業がたくさん出
てきてしまったのです。
 そういう企業は本業はしっかりしているのでキャッシュフロー
はある――本来であればそのキャッシュフローは再投資に回すべ
きですが、もし、ジャーナリストやアナリストに「債務超過」と
書かれるとまずいことになると判断し、キャッシュフローを借金
返済に回し、何とかバランスシートを健全化しようとする――こ
ういう状況に置かれた経営者は、日本だけでなく、米国でも英国
でも、ドイツでも、フランスでも、同じように対処するのではな
いでしょうか。     ――−― [日本経済回復の謎/03]


≪画像および関連情報≫
 ・「債務超過」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  会社の債務超過は、貸借対照表上の負債(債務)が資産(財
  産)を上回った状態です。この言葉の出所は,証券取引所の
  上場廃止基準の「最近5年間無配継続、かつ、最近3年間債
  務超過――貸借対照表による」という件(くだり)のようで
  す。債務超過は、破産原因(裁判所から破産宣告を受ける理
  由)になり,破産法第127条@に「法人に対しては其の財
  産を以て債務を完済すること能はさる場合に於ても亦破産の
  宣告を為すことを得」と書かれています。ちなみに,資産・
  負債は会計用語、財産・債務は法律用語です。
         http://www.mfi.or.jp/kumiya/stock217.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

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posted by 平野 浩 at 05:04| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本経済回復の謎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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