2016年06月15日

●「米国はイスラム国を支援している」(EJ第4298号)

 6月12日未明、イスラム国を名乗る最悪のテロ──無差別の
銃の乱射事件がフロリダ州のナイトクラブで発生しました。死者
50人、負傷者53人。残虐な無差別殺人です。パリ、ベルギー
で繰り返されたイスラム国のテロが、遂に米国にまで波及したの
でしょうか。イスラム国の正体解明をさらに進めます。
 イラクの首都バクダッドに近いラマディが陥落したとき、イラ
クのハイダル・アバディ首相は、米軍に対して強い不信感を持っ
たのです。なぜなら、カーター米国防長官が「イラク軍は戦意が
欠けていた。自分たちより、ずっと少数の敵の前から逃亡した」
と発言したからです。これに対し、アバディ首相は次のように反
論しています。
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 なぜカーター氏があんなことを言ったのか驚いている。とい
 うのも彼はイラクに対し非常に協力的だったからだ。誤った
 情報が耳に入ったに違いない。     ──アバディ首相
─────────────────────────────
 なぜ、アバディ首相がこのようなことをいったのかというと、
ラマディがイスラム国に攻められたとき、すぐ近くに空軍基地が
あり、そこに米軍機がたくさん駐機されていたのに、出撃して支
援してくれなかったことに不満を漏らしているのです。
 それに、米軍は確かにイスラム国への空爆に参加していますが
その多くが、爆撃しないで戻ってきているのです。2015年1
月〜3月で米爆撃機は7319回出撃していますが、空爆を実行
したのは、1859回しかないのです。その理由はどこを空爆し
たらよいか情報がないからだといっているのです。
 しかし、これについてイラク政府高官は、怒りをもって次のよ
うに述べています。この記述は、国際政治学者の田中宇氏のブロ
グに基づいています。
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 ISISはシリア北部の町ラッカに本拠地があり、米軍はラッ
カのどこにISISの施設があるか知っていたが、それを空爆せ
ず温存してやっている。ラッカからイラクへの幹線国道を空爆す
れば、ISISがシリアからイラクに軍勢や武器を移動できなく
なるのに、米軍はそれもやっていない。米軍は、いくらでもIS
ISを空爆できるのにそれをせず、自由に活動させている。20
14年6月、米軍とイラク軍は第2の都市モスルをISISに奪
われたが、この際、米国がイラクに与えた2300台の装甲車が
残置され、ISISの手に渡っている。米国がISISに装甲車
をあげて支援した構図になっている。  http://bit.ly/1UJPdpw
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 このイラクの政府高官のいうことは、信じられない話ですが、
「米軍はわざと負けている」ということです。わざと勝たないよ
うにしているというべきかもしれません。その証拠にラマディが
陥落して、イラクの首都のバクダットが脅かされているのに、米
国は平然としているからです。バクダットには攻め込まないとい
う密約がイスラム国との間にあるかのようです。
 イラク政府がイラクの危機を米国側に訴えても、米国は次のよ
うな冷たい態度をとったのです。
─────────────────────────────
      米国はイラクの安全に責任を持たない
                ──米政府高官
─────────────────────────────
 イラクは間違った情報を基にして米国に不当にも戦争を起こさ
れ、国内を滅茶苦茶にされた国です。独裁者であるとはいえ、国
内をきちんと治めていたフセイン大統領を排除した結果、国内を
収拾のつかない宗教対立の混乱に陥れています。
 オバマ大統領はイラクからの撤退を公約に掲げて大統領選を制
し、2009年1月20日、大統領に就任しています。そして公
約通り、かなり強引に、2011年12月18日に米軍をイラク
から撤退させています。
 しかし、その時点ではイラクは依然として政治的には不安定な
状態だったのです。イスラム教のシーア派、スンニ派、クルド民
族が合意した権力分担は既に行き詰まり状態にあったし、シーア
派主導の政府がスンニ派の副首相を更迭するよう議会に求めたほ
か、治安筋によると、スンニ派の副大統領に対する逮捕状も出さ
れているという状況だったのです。
 それでいて、イスラム国に攻め込まれる危機に対して、頼りの
米軍から「米国はイラクの安全に責任を持たない」といわれたの
では、イラク政府としてはたまったものではないと思います。あ
まりにも米国は無責任といわざるを得ないのです。
 米国の態度に不安を覚えたイラク政府は、イランに助けを求め
たのです。これについて、既出の田中宇氏は、次のように書いて
います。
─────────────────────────────
 ラマディ陥落後、ISISがバグダッドに侵攻するのを防ぐた
め、ラマディとバグダッドの間にあるアンバール州のハッバーニ
ヤの町に、3千人のシーア派民兵団が急いで展開した。シーア派
民兵団は、イランから軍司令官が派遣され、イランの傘下で訓練
されており、イラク政府軍より強い。シーア派民兵団を、スンニ
派の地域であるアンバール州に入れると、シーアとスンニの抗争
を扇動しかねないので、イラクとイランの政府は、シーア派民兵
をラマディなどアンバール州の戦闘に参加させていなかった。イ
ラク軍を指揮する米軍と、シーア民兵を指揮するイラン軍(革命
防衛隊)が敵どうしということもある。しかし米軍は今回、シー
ア民兵のアンバール州への展開を認めた。
                   http://bit.ly/1UJPdpw
─────────────────────────────
 米国の意図は、イラクという国を、シーア派、スンニ派、クル
ドに3分割しようとしているのです。それによって、何がもたら
されるのでしょうか。  ──[現代は陰謀論の時代/111]

≪画像および関連情報≫
 ●米国の対「イスラム国」戦略は「過剰な約束」なのか
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   米スタンフォード大学上席研究員のフランシス・フクヤマ
  と同非常勤講師で元駐アフガン米大使のカール・アイケンベ
  リーが、連名で、2014年9月23日付フィナンシャル・
  タイムズ紙に論説を寄稿し、米国は、中東において、かつて
  英国が欧州大陸に対して取った、オフショア・バランサー政
  策を見習うべきである、と論じています。
   すなわち、オバマは、ISIS(イスラム国)を「弱体化
  させ壊滅させる」として、空爆を始めたが、それは過剰な約
  束である。もっと実現性のある戦略がいる。
   オバマは、英国の伝統的な欧州大陸政策から学ぶことがで
  きる。英国は、永遠の友人を持たず、ある国が欧州の覇権を
  握りそうな時には、それに対抗する連合を支援した。オフシ
  ョア・バランス政策により、覇権国候補に対抗した。米国は
  こういう役割を果たすのに適している。米国は、シーア派と
  スンニ派の紛争を終結させる立場にはないし、シリアやイラ
  クの政治を改善する手段も持たない。米国が望みうるのは、
  17世紀欧州での30年戦争のように戦いが続かないことで
  あり、アサドやISISのような悪が完全に勝利しないよう
  にすることである。ISISは、シリアとイラクで手を広げ
  過ぎ、そのイデオロギーのアピールは狭い。空爆や地域の国
  家の地上軍の反撃にも脆弱である。地域諸国はISISの残
  虐性に鑑み、これと戦う気持ちがある。
                   http://bit.ly/24KPM5c
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カーター米国務長官.jpg
カーター米国務長官
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 現代は陰謀論の時代 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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