リアとの関係において整理することにします。その前にISIS
の名称について述べます。
ISISには複数の名称があります。ISISは「イスラミッ
ク・ステート・オブ・イラク・アンド・シリア」をあらわしてい
ます。驚くべきことに、イラクとシリアという2つの国の名前を
勝手に入れています。その後、シリアの部分を「レバント」に入
れ替えて、「ISIL」と呼ぶようになったのです。「イスラミ
ック・ステート・オブ・イラク・アンド・レバント」です。レバ
ントというのは、シリア、レバノン、ヨルダン、イスラエルを含
む地域を指す言葉です。
NHKは当初「ISIS」と呼称していたのですが、イスラム
諸国から抗議を受けて、「イスラミック・ステート」、すなわち
「IS」と呼ぶようになったのです。そういうわけで現在では、
単に「IS」か「イスラム国」と呼ぶようになっています。EJ
では「イスラム国」と呼称することにします。
シリアの問題点は、現在のアサド大統領が兄の死亡後、代わっ
て大統領になったことです。つまり、公正な選挙によって大統領
が選ばれていないことです。このように40年以上にわたってア
サド一家の世襲による独裁政治が続いているのです。
当然民意の高まりによって市民による民主化運動が起こります
が、アサド政権は軍や治安部隊を使ってその動きを弾圧してきた
のです。このようなことをしていると、民主化運動を達成するた
めに武器を取る者も出てきます。しかし、アサド政権は強大で、
なかなか崩せなかったのです。
そこに起きたのが「アラブの春」です。2010年にチュニジ
アのジャスミン革命にはじまり、アラブの世界に現政権に対する
抗議・デモ運動が広がっていったのです。シリアではこれを機に
自由シリア軍が結成されています。そのバックに米国がいたこと
は既に述べた通りです。
しかし、エジプトとシリアでは政権の打倒に成功したものの、
2012年以降、国内で対立や衝突が起こるなど、民主化がうま
くいかなくなってきています。つまり、チュニジアはうまくいっ
たのですが、他の国は、かつてのイラクのように、独裁政権を倒
してかえって国内を混乱に陥れてしまっています。
ところで、シリアにおけるアラブの春には、不思議なことが2
つあります。それは次の2つの疑問です。
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1.アサド政権はなぜ依然として崩壊しないのか
2.反政府勢力はなぜ政権と対峙できているのか
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「1」について考えます。
アサド政権が崩壊しないのはシリアの軍の特殊性にあります。
シリアの場合、軍はアサド政権を守る軍隊になっているのです。
アサド大統領の親族や側近が軍の中枢を占めており、いわばアサ
ド政権の私兵化しているのです。
だからこそ、デモが先鋭化したとき、軍隊は平気で市民に対し
て銃口を向けるし、発砲もできるのです。これは、中国の軍隊が
国の軍隊ではなく、中国共産党のそれであることと、大変よく似
ています。
その中国とロシアは、欧米の勢力に対抗してシリアを支援して
います。ロシアにいたっては空爆による軍事支援までしてアサド
政権を強く支援しています。アサド政権にとってこの支援は心強
いと思います。
それに加えて、イランがシリアを支持しているのです。なぜな
ら、アサド政権は、イスラムの少数派であるアラウイ派ですが、
これはシーア派の分派だからです。さらに、イランは中東政治に
おいて、サウジアラビアと競合しているからです。
このように、中国、ロシア、イランがシリアを支援し、欧米勢
力に対抗しようとしています。つまり、シリアの内戦は国際的な
代理戦争の色合いを深めているのです。
続いて「2」について考えます。このような私兵化した強大な
アサド政権軍に対して、反政府勢力はなぜ現在も対峙できている
のかという疑問です。
これについて、中東・イスラム研究者であり、国際政治学者の
末近浩太氏は、3つのプレーヤーが反政府勢力を支援したからで
あるとして、次のように述べています。
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なぜ、反体制諸派は政権軍と対峙し続けられたのか。それは、
次の3つのプレイヤーが、シリア国外から武器や資金を提供した
からであった。
第1に、米国、欧州連合、トルコ、サウジアラビアなどの湾岸
産油国である。これらの諸国は、独裁者であるアサド大統領の退
陣を求め、反体制諸派をシリアの「正式な代表」として政治的・
軍事的に支持した。
第2に、シリア国外で活動してきた反体制派の諸組織である。
彼らは、アサド政権の反体制派に対する弾圧や取り締まりを逃れ
て、数十年にわたって欧州や中東の各国で細々と活動してきた。
「アラブの春」は、祖国への帰還と政権奪取のための千載一遇の
チャンスであり、国内で蜂起した反体制諸派を支援した。
第3に、過激なイスラーム主義者である。彼らは、独裁政治と
社会の「脱イスラーム化」を行ってきた「不義の体制」であるア
サド政権を打倒するために、世界中からシリア国内の反体制諸派
に合流していった。
この3つのプレイヤーはそれぞれ異なる背景やイデオロギーを
有しながらも、「アサド政権の打倒」で奇妙な一致を見せ、シリ
ア国内の反体制諸派の勢力拡大を後押ししたのである。
──末近浩太氏 http://bit.ly/25M0vie
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──[現代は陰謀論の時代/108]
≪画像および関連情報≫
●なぜアサド政権は倒れないのか?
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2013年6月、アメリカのオバマ大統領は「シリア情勢
の悪化」に懸念を表明するとともに、アサド政権が化学兵器
を使用したと主張、反体制派向けの支援強化を発表した。
たしかにシリアの情勢は悪化している。しかし、この段階
でアメリカをはじめとする西洋諸国や報道機関が言う「情勢
の悪化」はシリア人の生活や権利の状況が客観的に悪化して
いることを意味するのではなく、シリアの反体制派にとって
の状況や戦況の悪化を意味している点に注意が必要である。
これを受け、6月22日にドーハで開催された11ヶ国閣
僚会合は反体制派への武器供給をはじめとする支援の強化で
合意したが、その意図は現在の政府軍優位の戦況を反体制側
が有利になるよう変更し、それを待って危機打開のための国
際会議を開催しようというものである。
ただし、反体制派への支援の強化により、戦況が反体制派
有利に転換する保証は皆無であるし、反体制派の誰がそうし
た支援の受け皿になるのかについても確たる展望があるわけ
でもない。要するに、反体制派を支援する各国が満足するま
で、シリア危機の政治的解決のための努力としての国際会議
は開催されず、その間、反体制派への武器支援の充実により
現場では破壊と殺戮に拍車がかかるのである。
──SINODOS http://bit.ly/217BevA
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中東・イスラム研究者/未近浩太氏


