2016年06月09日

●「アサド大統領は本当に悪者なのか」(EJ第4294号)

 このテーマも100回を超えているので、そろそろ終りにしな
ければならないと思っています。話は「アラブの春」から「リビ
アのカダフィー政権崩壊」、そして「シリアの反政府勢力」に及
んでいるので、これと深い関係のある「ISIS」について最後
に述べることにします。
 昨日の「リベラルとコンサバティブ」で述べたように、日本の
メディアの伝える米国発の情報だけでは、必ずしも米国の真実が
伝わってこないのです。そのひとつの例が、カダフィー大佐につ
いてのイメージです。
 米国は、「独裁は『悪』であり、民主化は『善』である」とい
う勧善懲悪でとらえる傾向が強いのです。カダフィー大佐は独裁
者であり、多くの人を殺している──こういう情報を何回も流さ
れると、他に情報がなければそうかなと思ってしまいます。ウソ
も何回もつかれると真実になってしまうのです。
 しかし、カダフィー大佐は、その独裁を利用して、自国のリビ
アのみならず、アフリカ全体のために尽くそうとしており、その
一部を実行に移しています。ただそのことが欧米の利害に関わる
ので彼らは反政府勢力を支援して潰してしまったのです。
 同じようなことがシリアにもいえるのです。われわれは、シリ
アのアサド大統領は独裁者であり、大勢の自国民を殺しており、
悪い奴であると考えています。そのため、米国はシリアでも反政
府勢力を支援してアサド政権を潰そうと画策しています。
 しかし、アサド大統領は本当に悪者なのでしょうか。調べてみ
ると、必ずしもそうとはいえない事情が浮かび上がってきます。
以下、日本のアラブ地域研究者で政治学者の青山弘之氏のレポー
トを参考にして書くことにします。
 シリア紛争は始まってから既に5年が経過していますが、オバ
マ政権が相当力を入れて支援しているにもかかわらず、今もって
アサド政権は潰れそうにありません。もっともシリアに関しては
ロシアが軍事的に支援をしていることもありますが、米国を中心
とする国際社会は、そのロシアも「悪」として経済制裁を課して
排除しようとしています。
 2011年3月のことです。政治犯の釈放や地方行政の改革を
求めて、散発的なデモが起きたのです。これに対してバッシャー
ル・アサド大統領率いる政権は、やや過剰ともいえる弾圧を加え
たことがきっかけになって紛争が起き、現在まで続いているので
す。アサド政権がなぜ過剰な弾圧を行ったのかというと、それは
「アラブの春」による大規模な反政府デモが起きることを懸念し
たからです。
 ロンドンに拠点を持つ反体制組織のシリア人権監視団の統計に
よる次の事実があります。
─────────────────────────────
 ◎2011年3月18日〜2015年3月14日の死者総数
  21万5518人
       シリア軍 ・・・ 7万6200人
    反体制武装集団 ・・・ 3万9227人
─────────────────────────────
 一般的なイメージは「シリア軍の一方的な暴力」ということに
なりますが、死者数を見ると、政府軍の死者の方が圧倒的に多い
のです。反政府武装集団は早い段階から最新鋭の兵器で武装して
おり、首都ダマスカスやアレッポ市の住宅街を無差別に攻撃して
いるのです。
 この兵器は米国から供与されたものであり、最初のうちは米軍
が反政府勢力を指揮していたのです。反政府勢力のほとんどは外
国人の戦闘員なのです。そして、上記の反体制武装集団の死者3
万9227人中2万6834人が外国人戦闘員の死者なのです。
つまり、アサド政権は、外国人部隊と戦っているのです。
 もともとシリアの反政府勢力は、「自由シリア軍」が中心で、
オバマ政権はこのグループを支援したのです。しかし、自由シリ
ア軍は現在雲散霧消してしまったのです。この経緯について青山
弘之氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 「独裁」打倒をめざしていたはずの「自由シリア軍」はイスラ
ーム過激派に圧倒され、その一部は敗退、消滅し、かろうじて活
動を続けている武装集団も、その多くがヌスラ戦線などの指揮下
に身を置いている。欧米諸国が「シリアにおける唯一の正統な代
表」とみなしてきたシリア革命反体制勢力国民連立(いわゆるシ
リア国民連合)や国内で活動を続ける民主的変革諸勢力国民調整
委員会といった反体制政治組織、政治家・有識者も、主導権争い
に明け暮れ、一致団結することはおろか、体制転換後の具体像さ
え示せず、低迷している。          ──青山弘之氏
                   http://bit.ly/1F5x9Rp
─────────────────────────────
 現シリア大統領のバッシャール・ハーフィズ・アル=アサド氏
は、眼科医でなのです。学校時代は学術優秀で、ダマスカス大学
医学部に学び、卒業後は軍医として働いた後、1992年に英国
に留学、ロンドンのウェスタン眼科病院で研修を受けていたので
す。もともと大統領になるつもりはなかったのですが、大統領を
継ぐ予定だった兄が交通事故で亡くなってしまうのです。そこで
アサド氏は研修を中断してシリアに戻り、大統領になるために一
定の軍隊でのキャリアを積んだ後、2000年7月にシリア大統
領に就任したのです。
 アサド大統領は、「古参と新たな血の融合」「腐敗との戦い」
といった新たな運動を唱え、体制内部の腐敗一掃とあらゆる分野
での改革を訴えて、それを実行に移しています。そして「腐敗と
の戦い」において最初のターゲットになったのは、前首相のズウ
ビーです。彼はこれによって自殺に追い込まれています。そして
党や政府の高官が次々と腐敗の容疑で逮捕されていったのです。
中国の周近平主席のやっている「ハエもトラも叩く」と同じやり
方であるといえます。  ──[現代は陰謀論の時代/107]

≪画像および関連情報≫
 ●これでわかる!「シリア内戦」の全貌/末近浩太氏
  ───────────────────────────
   2011年の「アラブの春」の一環として始まったこの紛
  争も今年の3月で丸5年を迎え、既に総人口約2100万人
  の半数以上が国内外への避難を余儀なくされ、27万とも、
  47万とも推計される人びとが命を落としている。「内戦」
  の泥沼化、そして、あらゆる「普遍的価値」を蹂躙する過激
  派組織「イスラーム国(IS)」の出現。今日のシリアには
  「アラブの春」後の中東の「絶望」を象徴する終末的風景が
  広がっている。
   シリアでは、なぜ「アラブの春」が「内戦」になってしま
  ったのか。その「内戦」は、なぜ泥沼化したのか。なぜIS
  は生まれたのか。そして、シリアはどこに向かおうとしてい
  るのか。シリアは、1946年のフランスの植民地支配から
  独立後、宗教に基づかない近代西洋的な国民国家を範とする
  国造りが行われた。
   現在のアサド政権の成立は、1970〜71年に起こった
  クーデタにまでさかのぼる。2000年に「先代」ハーフィ
  ズの後を襲うかたちで次男のバッシャールが大統領に就任し
  実に40年以上にわたってアサド一家による独裁政治が続い
  ていた。市民の不満は、軍や治安部隊、秘密警察によって監
  視・抑圧されていた。       http://bit.ly/1OcJqt6
  ───────────────────────────

アサド大統領の支持者は少なくない.jpg
アサド大統領の支持者は少なくない
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 現代は陰謀論の時代 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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