2016年06月03日

●「シリアの反政府勢力/ヌスラ戦線」(EJ第4290号)

 5月29日、シリアで拘束されたとみられる安田純平さんの新
しい映像が公開されました。3月に公開された映像と比べると、
かなりやつれています。
 日本政府は何をしているのでしょうか。菅官房長官は「邦人の
安全確保は政府の最も重要な責務」と口にするだけで、何のアク
ションも起こしていないようにみえます。これは「テロとは交渉
しない」と標榜している手前、動けないということがあります。
それに米国を気にしているということもあると思います。
 本当かウソかわかりませんが、東京五輪紹致に2・2億円もの
資金を払いながら、生命の危険に脅かされている安田さんにはビ
タ一文払う気がないようです。自国民なのですから、米国のこと
など気にしないで、安田さんをなぜ助けないのでしょうか。
 このままでは、日本という国は「ジャーナリストを見殺しにす
る国」というレッテルが貼られてしまいます。かつて日本赤軍に
よるダッカでの日航機ハイジャック事件で、「人の命は地球より
重い」として、超法規的措置で人質を解放した日本政府の姿勢は
どこに行ってしまったのでしょうか。
 ところで安田さんは、ヌスラ戦線に拘束されているといわれま
すが、ヌスラ戦線とはどういうグループなのでしょうか。
 ヌスラ戦線は、主にシリアのスンニ派イスラム教徒で構成され
ており、比較的穏健なグループなのです。イスラム国のように残
虐なことはしないのです。しかし、今回は日本政府から何のアク
ションもなければ、安田さんをイスラム国に引き渡す可能性を示
唆しています。
 もうひとつ重要なことがあります。それはヌスラ戦線はシリア
の反政府勢力の一つであるということです。シリアの反政府勢力
といえば、昨日のEJで述べたように、米国がバックアップして
いる「自由シリア軍」がありますが、それとヌスラ戦線はどうい
う関係にあるのでしょうか。
 シリアでは政府軍がまとまっているのに対し、反政府勢力はお
互いに反目し、闘争を繰り返しながら、いくつかのグループに分
かれています。現在では、安田さんを拘束しているアルカイダ系
のヌスラ戦線が中心で、そこにスンニ派の武装勢力であるイスラ
ム国も参入し、反政府勢力の一角を占めるようになっているので
す。イスラム国は、昨日のEJで述べたように、イラクのスンニ
派の武装勢力ですが、シリアにも進出してきたのです。
 米国は自由シリア軍を反政府勢力として育てようとしたのです
が、うまく行かず、結局は、時間とともにばらけて他のグループ
に吸収されていったのです。問題は、これらのシリア反政府勢力
には米国がリビアのベンガジから持ち込んだMANPADS(携
帯式地対空ミサイルシステム)を含む最新鋭の武器が渡っている
可能性があることです。
 ちなみにオバマ政権は、シリアへの軍事介入については議会の
承認を取ろうとしています。シリアへの介入で議会の承認が取れ
れば、ベンガジに議会の承認を得ずにリビア反政府勢力に兵器を
貸与したことを隠蔽することがきるからです。
 しかし米議会はシリア侵攻に反対したのです。アフガン、イラ
ク戦争にうんざりしていた米国世論によってオバマ政権は断念せ
ざるを得なかったのです。2013年8月のことです。シリア政
府軍が毒ガスを使用したことが報道されたのです。ザ・ウォール
・ストリート・ジャーナル電子版は、これについて次のように報
道しています。
─────────────────────────────
 シリアの反体制派は2013年8月21日、政府軍が同日未明
に首都ダマスカス近郊で毒ガスを使用し、1000人以上が死亡
したと発表した。現場は、国連の化学兵器調査団が拠点としてい
るところから8─16キロの地点。これが事実とすれば、シリア
内戦開始以来最も大規模な化学兵器の使用となる。
 シリア政府軍はダマスカス周辺で、反体制派に対する新たな軍
事作戦を開始したが、毒ガスの使用を否定し、反体制派が国際的
な支持を得るために話をでっちあげたか、自作自演の攻撃を行っ
たかのどちらかだと反論した。
      2013年8月22日付/THE WALL STREET JOURNAL
                 http://on.wsj.com/1VxYN0V
─────────────────────────────
 これに対してアサド政府は「やっていない」と反論しましたが
反政府勢力は「やっている」として、その現場写真まで流れたの
です。しかし、この現場写真には問題があり、本物ではない可能
性があるのです。現代はこういう画像や動画は簡単に作成できる
し、こういう場合の証拠写真としてよく使われるのです。それに
NATOがリビア攻撃の口実とした反政府デモ、カダフィー体制
への反対デモの映像などは、インドで作成されたニセの「映画」
であるといわれています。
 インドには、ボンベイ(現ムンバイ)とハリウッドをもじって
「ボリウッド」と呼ばれるくらい映画産業がたくさんあります。
デモはたくさんのエキストラを集めて撮影されたといわれていま
す。こういう映像が作られ、ネットで拡散されると、大勢の人が
見てそれを信じてしまうのです。
 それでも米議会は、オバマ政権に対してシリア侵攻を容認しな
かったのです。しかし、イスラム国がシリアとイラクを広範囲に
わたって侵略するに及んで、米国防総省は、2014年9月22
日、シリアへの大規模な空爆を開始するのです。そして、オバマ
大統領は、過激派組織「イスラム国」に対する武力行使決議案を
議会に提出し、ついにというか、やっと地上作戦の容認を得るこ
とができたのです。2015年2月12日のことです。これで議
会の承認を受けないで、リビアに貸与した兵器に関しては隠蔽す
ることができるはずだったのです。
 しかし、ここにきて当時のクリントン国務長官のメール問題が
暴露されると、ヒラリー・クリントン氏とオバマ大統領は大変な
ことになります。    ──[現代は陰謀論の時代/103]

≪画像および関連情報≫
 ●米欧による介入主義は消滅したのか/鶴岡路人研究員
  ───────────────────────────
   アサド政権と各種反政府勢力との間で内戦状態に陥ったシ
  リアにおいて、2013年8月21日の攻撃で化学兵器が大
  規模に使用され、多数の市民が死亡した事件は国際的アジェ
  ンダとしてのシリア危機の位置づけを、大きく変えることに
  なった。約一年前にオバマ米大統領が自ら設定した「レッド
  ・ライン」が踏み越えられてしまったのである。
   それまでにもシリア国内で化学兵器が使用されたとされる
  事例は多数あったもののその使用規模が今回は大きく異なっ
  ていた。これを受けて、英仏を中心に、アサド政権への懲罰
  的な武力行使を求める声が高まり、8月末にかけて、米英仏
  等による武力行使が一気に現実味を増した。
   しかし、8月29日に英国議会下院が、武力行使への英国
  の参加承認につながる政府提出動議を否決し、武力行使への
  英国の参加の道が途絶えた。それを受け、今度はオバマ大統
  領が、米国でも武力行使に連邦議会の承認を求める方針を発
  表した。さらには、米欧主導の武力行使に強く反対するロシ
  アが仲介に乗り出す形で、9月14日に、シリアの化学兵器
  破棄に関する米露合意が成立し、武力行使が当面回避された
  格好になったことは周知のとおりである。2014年前半中
  の化学兵器廃棄のスケジュールが示され、国連安保理決議も
  成立した。しかし、実際に問題が解決されることになるかは
  現時点では不透明である。     http://bit.ly/1UisgGI
  ───────────────────────────

ヌスラ戦線.jpg
ヌスラ戦線
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 現代は陰謀論の時代 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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