2016年06月01日

●「米国はなぜシリアに目をつけたか」(EJ第4288号)

 米オバマ大統領による5月27日の広島訪問は、日本はもちろ
ん世界各国でも評判はなかなか上々のようです。これによってオ
バマ氏は一躍“優しい大統領”、“いい人”になった感じですが
米国の大統領には恐ろしいウラの顔があるのです。
 問題を整理します。オバマ政権が「アラブの春」の混乱を利用
して、リビアのベンガジを拠点とするカダフィー政権の反政府勢
力に最新兵器を貸与したことは事実ですが、このことは米議会の
承認なしに行われていると思われます。そのため、一般的には、
リビアに関してはフランスと英国が主役で、米国は脇役に回った
ように見えます。
 しかし事実は異なります。リビアへの軍事介入の国連決議は、
フランス、レバノン、英国によって提案されましたが、米国はそ
れに賛成したものの、ロシア、中国、ブラジル、インド、ドイツ
は棄権していることは既に述べた通りです。
 したがって、多国籍軍は仏英米で編成されましたが、地上軍は
送らず、もっぱらNATO軍が空爆したのです。このように、あ
くまでリビアは欧州勢が中心であって、米国はそれに協力してい
るように見えます。しかし、米国(を支配する寡頭勢力)は、リ
ビアの反政府勢力を支援して、内部からカダフィー政権を倒して
いるのです。英国のベンガジの領事館は治安の悪さを理由に撤退
しているからです。つまり、米国はやはり主役なのです。ある政
権を倒すとき、その反政府勢力に肩入れして、内部から崩すのは
米国CIAの得意技なのです。
 問題は、オバマ政権はその兵器を反政府勢力から回収しようと
したとき、何らかのトラブルが発生し、ベンガジの米領事館がテ
ロ勢力によって襲撃され、リビア米大使を含む4人が殺害された
ことです。
 この事件に深く関与していたのが、当時のクリントン国務長官
です。だから、ムハンマドを冒涜する映画に怒ったデモ隊の反乱
としかいえなかったのです。
 この兵器回収に関する国務省と領事館とのメールでの指示と報
告をクリントン氏は、公電を使わず私的メールアドレスを使って
行ったのは当然のことながら事実を隠蔽するためです。そのメー
ルのやり取りの相手は大使ではなく、クリントン財団のスタッフ
(ブルーメンソール氏)であったというのです。おそらくメール
の内容を知られたくなかったからです。つまり、クリントン氏の
メール問題は私的メールを使ったことよりも、むしろメールの中
身の方がFBIの関心事であると思われます。クリントン氏は絶
体絶命のピンチであり、逮捕もあり得るのです。
 一方において、シリアの内戦に関しては、間違いなくオバマ政
権が主役です。米国のシリアへの軍事介入は、2011年にはじ
まっています。つまり、リビアのカダフィー政権を倒した後、反
政府勢力に貸与した兵器を回収してベンガジ港からシリアに運び
反政府勢力に供与しているのです。またしても反政府軍への肩入
れです。しかし、この作戦は明らかに失敗しています。
 そもそも米国はなぜシリアに介入しようとしたのでしょうか。
それはシリアがアラブ・イスラムの世界における地政学的なハー
トランド(中心地)だからです。もともとシリアは、鉄器を使い
古代イスラムの覇者となったアッシリアが支配しており、「アラ
ブの槍/イスラムの砦」といわれ、アラブ最強の軍事力でイスラ
ム世界の守護神になってきた国です。つまり、ここを押さえれば
イスラム世界を制圧できるといえます。したがって中東において
強い影響力を発揮したい米国は、虎視眈々としてシリアを狙って
きたのです。「アラブの春」によるシリア国内の混乱は、またと
ないチャンスだったのです。2011年1月のことです。
 アラブの世界のことを考えるうえで必要なのは、宗教の問題で
す。世界のイスラム教社会の約90%はスンニ派で構成されてお
り、数ではスンニ派がシーア派を大幅に上回っています。サウジ
アラビアやバーレーン、アラブ首長国連邦という一部のペルシャ
湾岸諸国の政府当局者はスンニ派ですが、イランとイラクはシー
ア派が政権を握っていたのです。ところで、シリア政権はシーア
派の分派であるアラウィ派なのです。
 オバマ政権は、アサド政権はアラウィ派、すなわちシーア派で
あり、シリアの74%はスンニ派なので、内部から揺さぶれば簡
単に崩壊すると考えたフシがあります。しかし、これは完全な間
違いだったのです。
 バッシャール・アサド大統領というと、日本では最悪の独裁者
というイメージが強いです。それは日本のメディアが欧米メディ
アの情報の影響を強く受けているからです。そのなかには、意図
的に悪いイメージが刷り込まれることがあります。
 その典型的な例がカダフィー大佐です。彼は、「世界最悪の独
裁者ランキング」(2010年度)の第11位です。これは、ワ
シントン・ポストが発行する外交専門誌である「フォーリン・ポ
リシー」が発表しているのです。ちなみにバッシャール・アサド
大統領は第12位です。われわれはカダフィー大佐と同様に必要
以上にアサド大統領を悪くとらえているフシがあります。
 アサド政権はスンニ派ですが、世俗的(非宗教)で、社会主義
色の濃いバース党政権なのです。バース党はアラブ復興社会党の
ことで、統一・自由・社会主義をスローガンにアラブの統一とア
ラブ社会主義を唱えており、支持者が多いのです。シリアのスン
ニ派将兵も政府に忠誠心を抱く者は少なくないのです。
 米国は、シリア内部に「自由シリア軍」を創設し、リビアのベ
ンガジから持ち込んだ最新鋭の兵器を与え、訓練してアサド政府
軍と戦わせようとしたのですが、士気が低く、戦闘になると、兵
器を放り出して逃亡する者が多いので、アサド政権に打撃を与え
ることはできなかったのです。アサド政権には国家防衛隊が拡大
し、ロシアの支援も受けて精強になっていったのです。
 反政府勢力でありながら、これらの米国製兵器を収集し、少し
ずつ勢力を伸ばしつつあったのが、IS、すなわち、後のイスラ
ム国なのです。     ──[現代は陰謀論の時代/101]

≪画像および関連情報≫
 ●世界最悪の独裁者ランキング(2010年度)
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   2010年6月、アメリカのワシントン・ポストが発行す
  る外交専門雑誌「フォーリン・ポリシー」が、世界の独裁者
  をランク付けした「世界最悪の独裁者ランキング/最悪中の
  最悪)」を発表した。対象は、現役(2010年時点)の世
  界の独裁者23人で、順位が上位になるほど、長期にわたり
  権力を私物化し、国民を苦しめている度合いが高いと評価さ
  れる。
   それによると、1位に北朝鮮の最高指導者、金正日総書記
  (当時)が選ばれた。フォーリン・ポリシー誌は金総書記を
  「フランスの洋酒コニャックを楽しむ偶像化されたカルト的
  孤立主義者」と断じた。それとともに、「16年間の独裁体
  制の中で、国民を飢餓に追いやり、20万人以上を強制収容
  所に送り込む中で、国の貴重な資源を費やし核兵器開発を推
  進している」と非難した。
   2位はジンバブエのロバート・ムガベ大統領で、「殺人専
  制君主」と強い言葉で表現された。さらに、「当初、独立戦
  争の英雄とされていたが、30年間の長期にわたる独裁の中
  で、自身に反対する勢力に対し次々と拷問し逮捕に追いやっ
  た」とし、経済政策においても「通貨操作(デノミネーショ
  ン)により驚異的なインフレーションを引き起こし経済を大
  混乱させた」と非難した。     http://bit.ly/1VpxgP6
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シリア・アサド大統領.jpg
シリア・アサド大統領
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 現代は陰謀論の時代 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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