2007年06月04日

●銀行問題は景気低迷の原因ではない(EJ第2093号)

 15年前の日本とレーガン当時の米国を比較してみると、添付
ファイルのようになります。これらの指標から浮かび上がってく
るものは、日本のサプライサイド――供給力は極めて強いという
ことです。つまり、作っている製品は、世界中の人が欲しがって
いるけれども、国内ではなぜか売れないのです。
 国内で売れないというのは、製品に問題があるのではなく、需
要が弱いからなのです。海外への輸出は好調であり、輸出企業の
企業収益はきわめて好調ですが、国内で大きな収益を上げている
企業は少ないのです。
 国内で売れないので、企業は経営資源を海外に回すようになり
ます。そうすると、一層よく売れるので、黒字が拡大し、これが
進むと円高になります。円高になると、国内はますますデフレの
傾向が強くなってしまうのです。
 つまり、過去15年間の日本は、80年代の米国とまったく逆
のサイクルに入っていたのです。供給力はあるが国内に需要のな
い世界――それが過去15年間の日本の景気低迷の姿であり、構
造問題のある経済とはまったく違うものだったのです。
 日本経済が構造問題のある経済ではないとすると、15年間に
及ぶ日本の景気低迷の真の原因は何でしょうか。
 そこに出てくるのが「銀行問題」なのです。銀行の不良債権処
理問題は小泉改革の重要な柱であり、竹中平蔵氏が大臣として、
らつ腕をふるい、危機を脱却させたということになっています。
そのときさかんにいわれたことは、銀行に問題があると、日本経
済にお金が回らなくなり、これが景気の悪化をもたらしていると
いう主張です。果たして本当にそうなのでしょうか。
 仮に銀行が不良債権などの問題を抱えていて、お金が回らない
ことが本当であるとすると、企業としては銀行に代わる資金調達
手段である社債を発行するはずである――クー氏はこういうので
す。そうであれば、社債市場が活性化しているはずなのです。も
ちろん社債を発行できるのは上場企業に限られますが、それらの
企業は自らの判断で社債の発行を決められるのです。
 しかし、日本においてそのような動きは過去10数年間起きて
いないのです。日本の社債市場は2002年頃から残高が減少し
ているのです。残高が減少しているということは、社債の新規発
行よりも償還の方が大きいことを示しています。
 また、日本の銀行がダメなら外国の銀行があるのです。シティ
バンクやバンク・オブ・アメリカ、HSBCらの銀行は不良債権
を抱えておらず、いつでも資金を調達できるのです。これらの外
銀は日本市場に食い込むのに難儀をしており、日本の銀行が貸せ
ない状況にあるとすれば、絶好のチャンスなのです。外銀はこれ
を機に日本の大企業に一斉に食い込もうとするはずです。
 実際にそういう動きがあるとすれば、日本にはもっと外銀の支
店ができていてよいはずです。1997年の、いわゆるビックバ
ンによって規制は撤廃されているので、外銀は日本国内に原則自
由に支店を開設できるようになっているからです。
 しかし、そういう傾向は一切見られないのです。外銀の貸出残
高は、この10数年間ほとんど増えておらず、かなり減った時期
すらあったのです。日本の上場企業は少なくとも外銀に対して資
金を借りようとしていないのです。
 一方において、上場していない企業としては、資金調達を銀行
からするしかないわけですが、貸出しが厳しくなっているとすれ
ば、貸出金利は上昇するはずです。しかし、そのようなことは起
きておらず、銀行の貸出金利もこの15年間下がる一方で、これ
も人類史上最低の水準なのです。
 これによって、銀行の問題がボトルネックでお金がまわらない
ため不況になるというのは根拠がないということになります。そ
れに現在日本では、銀行問題は解決したというムードになってい
ますが、米国の大手格付機関であるムーディーズが作成している
大手銀行の財務格付けを見ると、A、B、Cは一行もなく、Dし
かないのです。Dは落第点です。
 合格はBマイナス以上といわれていますが、Dでは合格点にほ
ど遠いのです。このように、日本の銀行は最悪の危機を脱出した
だけであり、ちっとも良くなってはいないということをわれわれ
は認識しておくべきです。
 実は銀行がおかしくなって、お金が回らなくなって不況に陥っ
た例が米国にあるのです。1990年代の前半に起きた米国にお
けるすさまじい銀行の貸し渋りの発生です。
 きっかけは、1989年に起こった貯蓄貸付組合(S&L)の
破綻であり、それを契機として、当局の金融検査官が商業銀行に
検査に入ったところ、著しく自己資本が不足していることがわか
り、これが原因で米国では1991年から1993年にかけて、
銀行のすさまじい貸し渋りが発生したのです。
 銀行から資金を調達できなくなった上場企業はいっせいに社債
市場での資金調達に走り、米国の社債市場は大活況を呈したので
す。もちろん、外銀にも資金調達の要請があり、外銀のシェアは
一挙に急拡大したのです。1991年以前には数%しかなかった
外銀のシェアは1994年には30%に達しているのです。もち
ろん、その外銀の中には日本の銀行も入っていたのです。
 1991年当時のFRB議長はあの有名なグリーンスパンです
が、あまりにも景気が悪くなったので、短期金利を3%まで下げ
たのです。しかし、借りたい企業はあまりにも多く、いくら短期
金利が下がっても資金の争奪戦が起こった結果、貸出金利は7%
程度まで上昇したのです。
 銀行の立場に立つと、資金調達コストは3%であるのに貸出し
は7%で貸せるので、3〜4%の利ざやを稼ぐことができたので
す。グリーンスパン議長を短期金利3%を3年間続けて、銀行の
不良債権問題を解決し、貸し渋りを解消させたのです。銀行の自
己資本は総資産の8%必要なのですが、銀行は利ざやで最大12
%稼げたので、銀行は一気に元気になったのです。しかし、日本
はそうなっていないのです。 −― [日本経済回復の謎/02]


≪画像および関連情報≫
 ・リチャード・クー氏の前著作より
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  銀行の貸出金利が本当に上がっているなら、それは確かに銀
  行の資金供給力がボトルネックであって、銀行が不良債権問
  題を抱えているから不景気なのだ、ということができる。そ
  うであるなら、公的資金を投入してでも銀行が抱える不良債
  権問題を早急に解決すべきである。ところが、今の日本では
  そういう現象は起きていない。逆に、金利は下がる一方で、
  限りなくゼロに近い史上最低の利率である。しかも、短期市
  場金利と銀行の貸出金利との差は極めて小さい。
            ――リチャード・クー著/横井浩一訳
    『デフレとバンラスシート不況の経済学』 徳間書店刊
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posted by 平野 浩 at 04:40| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本経済回復の謎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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