日米合作映画『夢』──1990年公開の映画です。といっても
「黒澤映画にそんなのあったっけ?」と首を傾げる人も多いので
はないかとと思います。
この映画は、黒澤監督が見た夢を映像化した8つの話からなる
オムニバス映画で、それぞれのエピソードの始まりには、夏目漱
石の『夢十夜』と同じように、「こんな夢をみた」という言葉か
ら話が展開されるのです。
問題の話は第6話の「赤富士」です。このストーリーは、寺尾
聰が演じる主人公が「何があったんですか!?」と逃げ惑う大勢の
群衆をかきわけていくシーンから始まるのです。少し長いですが
シナリオからその部分を再現します。
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「何があった?」「何があったのですか」
「噴火したのか、富士山が」
「大変だ」
「もっと大変だよ─?」
「あんた知らないのー?」
「発電所が爆発したんだよー。原子力の」
「あの発電所の原子炉は6つある」
「それがみんな、次から次へと爆発を起こしてるんだ」
「狭い日本だ」
「逃げ場所はないよ」
「そんなことは分かっているよ」
「逃げたって広がる」
「でもねえ、逃げなきゃしょうがない」
「ほかにどうしょうもないじゃないか」
「これまでだよ」
「でも、どうしたんだろ?」
「あの大勢の人たちはどこへ行ったんだ?」
「みんなどこへ逃げたんだ?」
「みんなこの海の底さ」
「あれはイルカだよ」
「イルカも逃げているのさ」
「イルカはいいねえ」
「泳げるからねえ」
「ふっ、どっちみち同じことさ」
「放射能に追いつかれるのは時間の問題だよ」
「来たよ」
「あの赤いのはプルトニウム239」
「あれを吸い込むと1千万分の1ミリグラムでも癌になる」
「黄色いのはストロンチウム90」
「あれが身体の中にはいると、骨髄に溜まり白血病になる」
「紫色のはセシウム137」
「生殖腺に集まり、遺伝子が突然変異を起こす」
「つまりどんな子供が生まれるか分からない」
「しかしまったく人間はアホだ」
・・・・・ ──泉パウロ著/ヒカルランド刊
『本当かデマか「人工地震説の根拠」衝撃検証』
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このセリフのなかで最も注目すべきは次の2つのセリフです。
偶然の一致かもしれませんが、311を予告しているともとれる
のです。
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◎「発電所が爆発したんだょー。原子力の」
「あの発電所の原子炉は6つある」
「それがみんな、次から次へと爆発を起こしてるんだ」
◎「あの大勢の人たちはどこへ行ったんだ?」
「みんなどこへ逃げたんだ?」
「みんなこの海の底さ」
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第1のセリフです。
「あの発電所の原子炉は6つある」の部分です。なぜなら、日
本では、原子炉が6基ある原発は、福島第一原発しかなく、この
セリフは福島第一原発を指していることは明らかだからです。
福島第一原発の当初の計画では、8基建設する予定だったので
すが、2011年3月の爆発事故の影響で、同年5月に計画を中
止することが発表されています。ちなみに、福島第一原発の第1
号機から第6号機は、すべてが1970年代に稼働しているので
この映画が公開された1990年には全機が稼働しており、セリ
フに矛盾はないのです。
第2のセリフです。
「みんなどこへ逃げたんだ?」「みんなこの海の底さ」──こ
れは92%が海の底にのまれた東日本大震災の津波被害をあらわ
しているともとれます。
この映画『夢/赤富士』の制作ノートに次の記載があります。
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猿は火を使わない。火は自分達の手に負えない事を知ってい
るからだ。ところが、人間は核を使い出した。それが、自分
達の手に負えないとは考えないらしい。火山の爆発が手に負
えないのは、わかっているのに、原子力発電所の爆発なら、
なんとかなると思ってるのは、・・・どうかと思うね。高い
木に登って、自分のまたがっている木の枝を一生懸命切って
いる阿呆に似ているね。人間は間違いばかり起こしているの
に、これだけは絶対間違いは起きないなんて、どうして云え
るんだろう。 ──黒澤 明
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黒澤監督もこの映画の公開後ちょうど21年後に、まるでこの
映画のシナリオを地で行くような悲惨な事故が起きるとは、想像
していなかったと思います。─[現代は陰謀論の時代/023]
≪画像および関連情報≫
●夢というモチーフを借りた、黒澤明監督の私小説的作品
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オムニバス形式というよりも、自らの見た「夢」をモチー
フにして短編八作品を自身の歴史として紡いでいった作品集
であり、後期の黒澤監督らしい審美的な映像美で満たされた
作品に仕上がっています。ただ単に八本の短編を羅列しただ
けではなく、自身の幼少期の思い出から青壮年期の葛藤、そ
して老境での達観までを描いています。
同じような「夢」や「妄想」を描いた映画としては、フェ
リーニ監督の『81/2』があり、あの作品では追い詰めら
れていくフェリーニ監督の自伝のような作品となっています
が、この作品では、「夢」が黒澤監督の老境での落着いた回
顧録として我々に提示されています。掛かりすぎる経費のた
めに、惜しくも撮影されなかった幻の残り三作品である『飛
ぶ』、『阿修羅』、そして最終話となるはずだった世界平和
の話である『素晴らしい夢』が映像化されていれば、完全な
「夢」が完成していたはずなのでそれがとても残念です。物
語のあらすじを聞くだけでも、ビルの間で綱渡りをした後に
天使とともに夜空を駆ける『飛ぶ』、京都の阿修羅像や仏像
たちが動き回るという『阿修羅』、そしていろいろな人種の
人たちを世界各国の街で、何千人も集めて撮影しようとして
いたという『素晴らしい夢』をぜひ劇場で観たかった思いが
今でも強くあります。 http://bit.ly/20lztid
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黒澤明監督作品/『夢─赤富士』より
人工地震の根拠や証拠にはなりません。