「新春相棒祭り」の第1話は『ビリーバー』(再放送)だったの
です。この作品は、2013年10月16日放送の相棒シーズン
12の最初の作品です。
この作品には、「火の玉大王」を名乗り、生放送を繰り返す綾
辻という男が登場します。彼は、三角形のフリーメイソンの時計
をはめ、相対性理論を「アインシュタインの戯言」「でたらめ」
といったり、宇宙船を呼ぼうとする怪しげな団体を率い、生放送
で様々な「陰謀論」を配信するのです。
今回の物語は、主人公の甲斐享(成宮寛貴)とこの綾辻の接触
から展開していきます。テレビ朝日は、意識してそういう作品を
選んでいるのでしょうか。陰謀論という妙な言葉が、たとえドラ
マであってもこのように多く取り上げられるようになったのは、
最近の世の中には陰謀論的な出来事があまりにも多く、現代が陰
謀論の時代になったからであるともいえます。
2012年の出来事ですが、元外務省国際情報局長の孫崎享氏
著作のベストセラー『戦後史の正体』(創元社)が、評者のジャ
ーナリストの佐々木俊尚氏から、一方的に陰謀論のレッテルを貼
られるという“事件”が起きたのです。その書評です。
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ロッキード事件から郵政民営化、TPP(環太平洋経済連携協
定)まで、すべては米国の陰謀だったという本。米が気に入らな
かった指導者はすべて検察によって摘発され、失脚してきたのだ
という。著者の元外務省国際情報局長という立派な肩書も後押し
してか、たいへん売れている。しかし本書は典型的な謀略史観で
しかない。(中略)
終戦直後に出た『旋風二十年』という本がある。戦中は多くを
報道できなかった新聞記者が「実は軍部が悪かったのだ」と暴い
た本だ。当時の国民はこの本に「そうだ、悪いのは私たちじゃな
かったのだ」と胸をなで下ろし、結果として戦争責任の問題は他
人事へと押しやられた。本書も、「今の日本がうまくいっていな
いのは米国の陰謀があったからだ」と自己憐憫と思考停止を招く
のか。それとも「これからは自立していかなければ」と前に踏み
出す一助となるのか。後者であることを切に祈るばかりだ。
──佐々木俊尚氏/2012年9月30日付、朝日新聞朝刊
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ここで「謀略史観」とは「陰謀史観」と同義語なのです。これ
に対し、孫崎氏は激怒し、本の内容の要約からして間違っている
と逐次的に誤りを指摘のうえ次のように抗議し、朝日新聞社に対
して謝罪記事の掲載を要求したのです。
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目を疑うぐらい低レベルの書評である
──孫崎享氏
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ネットなどを見ると、佐々木俊尚氏の書評を支持する人が多い
ですが、このケースは孫崎氏が怒るのは当然のことです。なぜな
ら、他人の本に「陰謀論である」というレッテルを貼ることは、
その本がバカな読者の一過性のおもしろトンデモ本か、カルト的
インチキ情報を垂れ流すくだらない有害図書であると認定するに
他ならないからです。これに対して朝日新聞は、事実認定の一部
に誤りがあったとし、訂正記事を出しています。
この孫崎氏の怒りに対して、孫崎氏を支援したのは、元検察官
で弁護士の郷原信郎氏です。郷原氏は自身のブログで、次のよう
に述べています。
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孫崎氏自身もツイッターで批判しているように、同書では「米
が気に入らなかった指導者はすべて検察によって摘発され、失脚
してきた」などとは書いていない。(中略)
佐々木氏は同書を「典型的な謀略史観」だというが、その「謀
略」という言葉は、一体何を意味するのだろうか。
日本の戦後史と米国との関係について、「米国の一挙手一投足
に日本の政官界が縛られ、その顔色をつねにうかがいながら政策
遂行してきた」と述べているが、それは、孫崎氏が同書で述べて
いることと何一つ変わらない。孫崎氏の著書は、アメリカ側の誰
かと日本側の誰かとの間で、具体的な「謀議」があって、そのア
メリカ側の指示に日本の政治や行政がそのまま動かされてきたと
いうような「単純な支配従属の構図」だったと言っているわけで
はない。むしろ、孫崎氏の戦後史には、「謀略」という単純な構
図ではなく、政治、行政、マスコミ等の複雑な関係が交錯して、
アメリカの影響が日本の戦後史の基軸になっていく構図が、極め
てロジカルに描かれている。従来の「陰謀論」とは一線を画した
具体的な資料に基づく、リアリティにあふれるものであるからこ
そ、多くの読者の共感を得ていると言うべきであろう。
「戦後史の正体」を佐々木氏のように読む人がいるというのも
驚きだが、あたかもそれが同書に対する標準的な見方であるよう
に、書評として掲載する朝日新聞の意図も、私には全く理解でき
ない。 http://bit.ly/1P8Z4zP
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陰謀論は、要するに世間一般の常識に合わないトンデモ論のこ
とではないかと思います。しかし、その世間一般の常識というも
のが間違っていることが非常に多いのです。したがって、常識で
は考えられないからといって、それをトンデモ本として切り捨て
るのは明らかに間違っています。
孫崎氏の本は私も読みましたが、その主張には郷原氏のいうよ
うに具体的な資料の裏付けもあるし、展開がロジカルであり、十
分信ずるに足るものだと考えます。しかし、日本では、陰謀論と
聞くと、無条件にうさんくさいものとみなす知識人があまりにも
多いことは事実です。だからこそ、無造作に他人に「陰謀論」の
レッテルを貼ってはならないのです。
──[現代は陰謀論の時代/003]
≪画像および関連情報≫
●「戦後史の正体」一読の価値あり。鵜呑みをしなければ。
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遅ればせながら昨年夏に発刊された孫崎享氏の「戦後史の
正体」(創元社)を読んだ。普通より大きい帯封には「本書
は、これまでほとんど語られることのなかった〈米国からの
圧力〉を軸に、日本の戦後史を読み解いたものだからです。
こういう視点から書かれた本は、いままでありませんでした
し、おそらくこれからもないでしょう。「米国の意向」につ
いて論じることは日本の言論界ではタブーだったからです」
(著者)とある。
米国の政治地政学的な政策を政治経済を考える視点の一つ
にしている私にとって幾つか共感するところはある。例えば
「はじめに」の中にでてくる「米国の対日政策な、世界戦略
の変化によって変わります」というのは、当たり前の周知の
事実。国家が自国の利益を拡大するため、時に「謀略」を仕
掛け、時に「圧力」をかけ、時に「妥協」するのは歴史の常
であり、訳もなく(あるいは感情的な理由で)他国を優遇す
ると考えるのはお人好し過ぎる、だろう。
さて著者は、日米関係について戦後の政治家を3つに分類
する。第一が「自主派」、第二が「対米追随派」で、第三が
「一部抵抗派」だ。「自主派」には重光葵、鳩山一郎、佐藤
栄作、鳩山由紀夫らの名前があがり、「追随派」には吉田茂
池田勇人、小泉純一郎の名前があがり、「一部抵抗派」には
鈴木善幸や福田康夫の名前があがる。
http://bit.ly/1mXV1Qj
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孫崎 享氏/佐々木俊尚氏