・キエフは、単なるサッカー・チームではなく、ソ連最高の軍事
機密を扱う「商社」のような存在であったといえます。なぜなら
米ソ冷戦の最中であってもサッカーの強豪チームであれば、どこ
の国でも自由に出入りができるので、スパイ活動には何かと都合
が良かったからです。
そして、ディナモ・キエフの経営母体は、旧ソ連時代はKGB
が管理し、冷戦後ウクライナが独立した後も、ウクライナ秘密警
察が管理しています。この「商社」を通じて旧ソ連の軍事技術や
武器が大量に世界に拡散され、世界各地で多くの戦乱を巻き起こ
していったのです。
ここでウクライナの歴史を簡単に振り返ってみます。ロシアと
ウクライナはもともと「ルーシ」というひとつの民族です。とこ
ろがこのルーシ族は、モンゴル軍の侵攻によって、滅ぼされてし
まいます。
その後、「コサック」と呼ばれる武士団が成長し、ルーシ族は
モンゴル支配から脱却します。そして民族は2つのグループに分
かれます。1つは、隣国ポーランドの保護国になります。これが
現在のウクライナです。もう1つは、北方のモスクワを中心に建
国し、やがてロシア帝国になり、強大化します。そしてこのロシ
ア帝国がポーランドを滅ぼし、その保護国であるウクライナを併
合するのです。
しかし、ロシア革命に乗じてウクライナは再び独立しますが、
たちまちソ連によって再征服されてしまいます。ソ連のスターリ
ンは、外貨を稼ぐため、ウクライナに輸出用穀物の供出を命じ、
そのため、ウクライナでは数百万人の餓死者を出す大飢饉が起き
るのです。これにより、ウクライナ人のなかにはソ連(ロシア)
に対する抜きがたい不信感が芽生えることになります。
ところが、ソ連が崩壊して、ウクライナは3回目の独立を手に
します。しかし、独立後もウクライナには、親ロシア政権が続き
ソ連時代の指導部と共産党の官僚組織、さらに非効率な国営企業
が残存していたので、ウクライナの経済は低迷を極め、国民は一
向に豊かになれなかったのです。
ところがウクライナにひとつの転機が訪れます。ウクライナの
EU加盟を目指す親西欧派の人々が西部で結束し、折からのオレ
ンジ革命に乗じて親ロシア政権を崩壊させます。これがユシチェ
ンコ政権です。2004年のことです。これには、米国の投資家
ジョージ・ソロス氏が莫大な資金援助を行ったといわれます。
それに対してロシアは、天然ガスの価格を使って早速ユシチェ
ンコ政権に揺さぶりをかけてきます。ロシアは親ロシア政権のと
きに認めてきた天然ガスの優遇価格を廃止し、市場価格に合わせ
ると通告します。市場価格に合わせると、天然ガスの価格は倍に
なってしまい、財政事情が良くないウクライナは代金が支払えな
くなり、ロシアとの間でトラブルになります。これは、欧州各国
を巻き込んだ騒ぎに発展し、ユシチェンコ大統領派の内閣は、野
党提出の内閣不信任案が可決され、退陣にに追い込まれます。
これに対して与党は、ティモシェンコが中心になって多数派を
形成し、何とか政権を維持しようとするものの、大統領との権限
争いで議会も分裂し、両派の妥協の産物として最高会議は解散し
2007年に臨時最高会議選挙が行われ、ティモシェンコ内閣が
誕生します。
そして、2010年に地域党党首ヤヌコーヴィチとティモシェ
ンコの間で大統領選が行われ、第1回投票の結果、ヤヌコーヴィ
チが35%の得票率で第1位を占めものの、過半数に達しなかっ
たので、決選投票が行われ、ヤヌコーヴィチが勝利します。
しかし、ティモシェンコが選挙では不正が行われたと主張し、
最高行政裁判所に提訴しますが、それでも勝てないと悟ったのか
途中で訴えを取り下げたため、2010年2月25日、晴れてヤ
ヌコーヴィチが第4代ウクライナ大統領に就任します。ロシアに
とって久しぶりの親ロシア政権の成立です。
しかし、2013年にウクライナはEUとの政治・貿易協定の
仮調印を済ませたものの、ヤヌコーヴィチ大統領は、ロシアから
150億ドルの財政支援の約束などを示され、ロシアに配慮し、
正式調印を見送ります。これに対しEU寄りの野党勢力から強い
反発が起こり、ウクライナ国内は大規模な反政府デモが発生し、
大騒乱状態に陥ります。
事態収拾のため、大統領側から挙国一致内閣の樹立や大統領選
挙の繰り上げ実施などを提案しますが、デモ隊の動きを止めるこ
とはできず、身の危険を感じたヤヌコーヴィチ大統領はキエフを
脱出し、ロシアに逃れます。2014年2月22日のことです。
ウクライナ議会は、ヤヌコーヴィチ大統領の解任を決議します
が、ヤヌコーヴィチ大統領はクーデターであると主張し、同意し
ていないのです。したがって、厳密にいうと、現在のポロシェン
コ大統領の正当性には疑問があります。
ウクライナ問題を日本から見ていると、一貫してロシアが悪い
ような印象を受けます。ロシア政府がウクライナの親ロシア勢力
に武器などを供与し、内戦を起こさせているようにみえます。そ
れは西側メディアの報道のせいです。そのポロシェンコ大統領就
任の約1ヶ月後にMH17便の撃墜事件が起きるのです。
しかし、事態を冷静に分析すると、そうではないようです。ロ
シアにとってウクライナはなくてはならない国なのです。ロシア
側からみて、ウクライナとの関係は、少なくとも「友好的」に維
持したい国であるといえます。そのためには、どうしてもウクラ
イナには親ロシア政権が必要なのです。少なくともウクライナの
EU加盟は何としても阻止したいからです。
もし、現在のウクライナを含む欧米とロシアの関係は最悪の状
態にあります。なぜ、そうなるのかというと、複数の勢力がロシ
ア潰しに動いているからです。そのために、このところロシアの
国際的なイメージは非常に悪くなっています。
──[航空機事故の謎を探る/051]
≪画像および関連情報≫
●ウクライナ問題を斬る/アレクサンドル・ドゥギン氏
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いわく「ウクライナ問題ではひとつの法則性が示された。
『米国はカオスをもたらし、ロシアは秩序をもたらす』。米
国が介入すると必ず、アフガンでもイラクでもリビアでもシ
リアでもウクライナでも、人々は狂わされ、社会は分断され
国家は瓦解する」。ドゥギン氏は次のように続けている。
米国のゆくところ、破壊あるのみである。いままた一つ、
ウクライナという国家がカオスに覆われてしまったが、合法
則的なことだ。アメリカの増大によってカオスも増大する。
いま徐々に、グローバル規模の定式が確立しつつある。ロシ
ア=秩序VS米国=混沌、というものだ。米国はグローバル
規模の「混沌への投資」によってヘゲモニーを握ろうとして
いるのだ。
一方のロシアは、大文字の秩序、すなわち個々の具体的秩
序でなく、原理としての秩序の側に立つ。つまりプーチンは
単に個別的・具体的秩序を追求するのでなく、秩序全体を志
向している。
ウクライナ問題におけるロシア人への嫌悪、プーチンへの
憎悪は、スキゾ患者の医師への憎悪、酩酊漫歩者の巡査への
憎悪と何ら異なるところがない。あるいは、病者が健常者に
対してもつ深い羨望と同質のものである。この傾向は今後も
止むことはない。 http://bit.ly/1NFrPY9
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ヤヌコーヴィチ氏とティモシェンコ氏


