2015年10月06日

●「トランスポンダーは切断できるか」(EJ第4132号)

 2014年3月15日にマレーシアのナジブ首相は記者会見で
航空機に搭載されている次の2つの通信手段が、使えない状態に
なっていたことを報告しています。それをメディアは「すべての
通信機器が何者かによって切断されていた」と報道したのです。
 しかし、正確にいうと、ナジブ首相は、トランスポンダーにつ
いては何者かによって切断されたと述べたものの、エイカーズに
ついては「ディスエイブルド(DISABLED)」、すなわち、「機能
していなかった」といったに過ぎないのです。
─────────────────────────────
         1.トランスポンダー
         2.   エイカーズ
─────────────────────────────
 まず、この2つの通信手段の違いを知る必要があります。
 「1」の「トランスポンダー」とは何でしょうか。
 トランスポンダーとは、航空機を管制レーダーが画面で識別で
きるようにする機上装置です。少し専門的にいうと、次のように
なります。
─────────────────────────────
 トランスポンダーとは、便ごとに割り当てられた4ケタのコー
ド番号を入力し、管制側の二次レーダーの質問パルスに対して、
応答パルスを自動的に発信する仕組みになっている。
                       ──杉江弘著
        『マレーシア航空機はなぜ消えた』/講談社刊
─────────────────────────────
 ここでいう「二次レーダー」とは何でしょうか。
 レーダーには、一次レーダーと二次レーダーがあります。そも
そもレーダーとは電波の物理的な反射を利用したものですが、発
信源が目標物に電波をぶつけて反射してくる信号を認識すること
によって、目標物を確認するのが一次レーダーです。
 しかし、強い電力で電波を目標物に発射しても、反射して戻っ
てくる受信信号は非常に弱くなり、発信源が受信信号から多くの
ことを読み取ることは困難です。当然目標物との距離が制限され
ています。航空機のケースで考えると、こういう場合、航空機側
へ応答信号を戻す装置を搭載することで、発信源(管制側)に強
い電波を戻せるようになります。
 こうすれば、遠距離まで目標をとらえることができるレーダー
システムが構築できます。この航空機側から管制側に信号を戻す
レーダーを二次レーダーといい、航空機に搭載する自動応答シス
テムを「トランスポンダー」というのです。
 それでは「2」の「エイカーズ」とは何でしょうか。
 杉江弘氏は、エイカーズについて、次のように述べています。
─────────────────────────────
 エイカーズは、機側と地上(会社)側とが衛星を利用して通信
を行う装置で、サテライト・コミュニケーション(略してサトコ
ム)用のアンテナを利用している。 ──杉江弘著の前掲書より
─────────────────────────────
 この場合、機側から地上にダウンリンクされる主な情報は、位
置情報をはじめ、エンジンの状態、機体の何らかのトラブル──
たとえば火災の発生とか、エンジンの油圧の低下などは自動的に
エイカーズによって地上(マレーシア航空とエンジンメーカーの
ロールス・ロイス社)に伝えられるのです。情報の伝達間隔は航
空会社によって異なりますが、マレーシア航空では30分に1回
になっています。
 このほかに、機側が目的地の天候の問い合わせや機内に病人が
発生したので、空港に救急車を用意して欲しいといったメールで
のやり取りもできるのです。
 もちろん無線も使えます。無線には、VHF(超短波)とHF
(短波)の2つあります。VHFを使うと、地上と明瞭な会話が
できますが、短距離でしかできないデメリットがあります。その
点、HFは長距離でも通信可能です。しかし、無線は他の航空機
や基地に傍受されてしまうリスクもあるのです。そのため、最近
では、衛星を介して機と航空会社が対話するエアリンクを利用す
るようになっています。
 さて、ナジブ首相は、「トランスポンダーが何者かに切断され
た」と述べていますが、この「何者かに」という表現に注目する
必要があります。というのは、トランスポンダーの操作盤はコッ
クピットの操縦席の右側──通常編成では副操縦士が座りますが
ちょうど副操縦席の左手の近くにあります。しかし、この操作盤
でトランスポンダーをオフにはできないのです。その切断方法に
ついては操縦士には教育されていないので、操縦士も知らないは
ずです。しかし、ナジブ首相が「何者かによって切断」といって
いるのは、この時点で、MH370便はハイジャックされたこと
を把握していたことになります。
 それでは、トランスポンダーを切断することによって、何が起
きるのでしょうか。
 本来トランスポンダーは、機に何か緊急事態が発生したときや
すべての無線機が使えなくなったとき、または機がハイジャック
されるなど機に容易ならざる事態が発生したときに、国際的に取
り決めのあるコード番号を機器に入力することによって、管制官
にその事態を知らせるためのものです。したがって、もし、MH
370便がハイジャックされたとすると、犯人が一番先にトラン
スポンダーの切断を指示したことは十分考えられることです。
 しかし、トランスポンダーは、基地から電波の届く約360〜
540キロまでの範囲でしか使えないのです。これに対してエイ
カーズは、衛星を利用しているので、無線やトランスポンダーと
は比較にならないほど、使える範囲が広いのです。
 それでは、このエイカーズを切断することは可能なのでしょう
か。ナジブ首相は「ディスエイブルド」としかいっていないので
す。エイカーズについては、さらに理解することがあり、明日の
EJでお話しします。 ── [航空機事故の謎を探る/007]

≪画像および関連情報≫
 ●マレーシア機不明、犯罪行為を示唆 ナジブ首相
  ───────────────────────────
   (CNN)クアラルンプール発北京行きのマレーシア航空
  370便が消息を絶っている問題でナジブ同国首相は、20
  14年3月15日、機内にいた何者かが周到な用意をし、今
  回の事態を生じさせた証拠があることを明らかにした。記者
  団に述べたもので、370便の消息不明の原因が何らかの犯
  罪行為に絡むとの認識を明確に示したものとなっている。犯
  罪行為がテロ活動やハイジャックなどを意味するのかには触
  れなかった。
   首相は、新たな衛星情報などを入手し、同便の通信系統が
  マレー半島の東部海岸に到達する直前、故意に切断されたこ
  とを強く確信していると表明。飛行中の位置などを地上の管
  制官に伝える装置トランスポンダーも意図的に断絶されたと
  述べた。トランスポンダーの切断はマレーシア、ベトナム両
  国の管制空域の境界線近くで行われたとしている。
   これらの事実を踏まえ、マレーシア当局は同便の音信途絶
  の解明で操縦士や乗客の背後関係などを改めて調査の重点項
  目にする考えも表明した。また、同機の捜索範囲を中央アジ
  アのカザフスタン、トルクメニスタン両国国境地域やインド
  ネシアからインド南部に拡大する方針も示した。ハイジャッ
  クされたとのメディア情報があるものの、370便の正規の
  進路からの逸脱の原因については全ての可能性を踏まえて調
  べていると述べた。        http://bit.ly/1cJwJDe
  ───────────────────────────
 ●図の出典/──杉江弘著の前掲書より

トランスボンダー操作盤.jpg
トランスボンダー操作盤
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 航空機事故の謎を探る | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック
RDF Site Summary