2015年10月05日

●「MH370はなぜ左に旋回したか」(EJ第4131号)

 MH370便がクアラルンプールの3つの管制と交わした交信
記録は、10月2日のEJ第4130号にすべて示しましたが、
そのやり取りには不審な点はとくにないといえます。
 しかし、一部メディアで、「空白の10分間」があることが問
題になり、その時点で機をハイジャックされたのではないかとい
うことがさかんにいわれたのです。おりしも偽造パスポートを持
つ2人の乗客がいたことをマレーシア当局が発表していたので、
ハイジャック説が有力視されたのです。その部分のMH370と
航空路管制とのやり取りを再現します。
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 01:07:55/370:当機は高度3万5000フィートをキープ
          して飛行しています。
 01:08:00/ATC:MH370
 01:19:24/ATC:MH370、ホーチミン管制(ベトナム)
          と交信してください。おやすみ
 01:19:29/370:了解。おやすみ
                       ──杉江弘著
        『マレーシア航空機はなぜ消えた』/講談社刊
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 MH370便がクアラルンプール空港を離陸したのは2014
年3月8日午前0時41分です。午前1時7分55秒にMH37
0は、航空路管制の指示を受けて、高度3万5000フィートに
達しています。
 その直後の午前1時8分に、クアラルンプール空港の航空路管
制はMH370に呼びかけていますが、MH370はそれに応じ
なかったのです。MH370が航空路管制の呼び掛けに応じたの
は、それから約11分後の午前1時19分29秒のことです。こ
れが「空白の10分間」といわれることになるのです。
 杉江弘氏によれば、機長として管制への連絡が10分程度遅れ
ることはよくあることのようです。機長の任務は、機の安定を図
ることが優先事項であり、管制への連絡はその後でも構わないの
です。ましてこのケースでは、次の管制からの指示が「ベトナム
の管制官と連絡を取れ」という型通りのことであるとわかってい
るので、すぐに対応する必要はないからです。
 確かに管制の方も一度呼びかけても返事がないので、10分程
度の時間を置いて再度呼びかけています。それに対してMH36
0は「了解。おやすみ」と返しています。音声分析の結果、その
言葉は副操縦士であることはわかっています。この様子から考え
て、この10分間にハイジャックが起こったとはとても考えられ
ないといえます。
 ただこの10分間は、機長や副操縦士にとっては、別の意味を
持っていたとも考えられます。なぜなら、午前1時19分29秒
にMH370便はクアラルンプール空港の航空路管制のレーダー
から外れるのを確認したうえで、目的地である北京に向かわず、
進路を南西に取り、さらに西に、そして北西へと変針しているか
らです。それが第三者に強制されたものではなく、自らそういう
行動をとることを選んだとすると、その重大決意を実行に移す前
の緊張の10分間であったとも考えられるからです。
 なぜ、MH370便はそのような針路を選んだのでしょうか。
これについて、杉江弘氏は次のように推理しています。
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 東南アジア各地のレーダーの電波到達距離はそれぞれの性能に
よって異なるが、だいたい、150〜250ノーティカルマイル
(270〜450キロ/以下「マイル」と表記)となっている。
その場合、各地のレーダー網をかいくぐって長時間飛行するため
には、やはり西側のアンダマン海、ないしはインド洋方面に向か
うと見るのが妥当と思えたのである。
 仮に、機が東側の南シナ海へ向かったとなると、すぐにブルネ
イや、マレーシア領のコタキナパル空港(マレーシア航空の一大
基地がある)のレーダーや、フィリピンのマニラのレーダーサイ
トに近づくことになり、すぐに発見されてしまうことになるから
だ。               ──杉江弘著の前掲書より
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 それにしてもマレーシア航空とマレーシア政府は、なぜこうも
情報を隠蔽するのでしょうか。そのため、メディアは断片的な情
報を繋ぎ合わせて推測して記事を書いたので、この事件が一層混
迷する原因になったのです。
 事故発生から1週間後の3月15日のことです。マレーシアの
ナジブ首相が初めて会見を開いたのです。その会見で明らかにさ
れたことは次の3点です。
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 1.航空機に搭載されている通信手段である「トランスポン
   ダー」が何者かによって切断され、「エーカーズ」が機
   能していなかったこと。
 2.衛星からのデータによると、機は北か南のコリドー(回
   廊)上のどこかを、現地時間の午前8時11分まで飛行
    していたと考えられる。
 3.現在、行方不明になっているMH370便は、何者かに
   よってハイジャックされ、機を操縦する主導権をとられ
   ている可能性があること。
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 このナジブ首相の会見を聞いて、ほとんどのメディアは次のよ
うに報道しているのです。
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  すべての通信機器が、何者かによって切断されていた。
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 専門知識のないメディアのことですから、このように報道して
も仕方がありませんが、ナジブ首相は「すべての通信機器が」と
はいっていないのです。ナジブ首相は慎重に言葉を選んで会見を
しています。     ── [航空機事故の謎を探る/006]

≪画像および関連情報≫
 ●「意図的な行動で消息を絶つ」/ナジブ首相会見
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   【クアラルンプール(マレーシア)】マレーシアのナジブ
  首相は2014年3月15日、消息不明のマレーシア航空、
  370便について記者会見し、同便は「意図的な行動」によ
  って消息を絶ったとの見方を示した。
   また、当局が現在、2つの地域・海域を中心に機体の捜索
  を行っていることも明らかにした。首相が不明の原因につい
  て明確に発言するのは初めて。ナジブ首相は370便が衛星
  に送ったデータで、航空機が本来の航路を外れたことが確認
  されたと述べた。また、370便が最後に衛星に信号を送っ
  たのはマレーシア時間8日午前8時11分で、北京到着予定
  時刻をはるかに過ぎていた。同便はクアラルンプール国際空
  港を8日午前0時41分に離陸した。
   米国の調査団は機内の何者かが意図的に航空機の針路を変
  更し、航空機の位置を隠そうとしたと断定しており、ナジブ
  首相の発言はこの分析を裏付けているとみられる。航空機か
  らの定期信号によると、370便はマレーシア軍のレーダー
  から姿を消してから6時間近くにわたって飛行していた。マ
  レーシア航空は15日、370便(ボーイング777─22
  0型機、乗員乗客239人)は8時間の飛行が可能な燃料を
  積んでいたことを確認した。  http://on.wsj.com/1iSzPJ4
  ───────────────────────────

ナジブ首相/2014年3月15日会見.jpg
ナジブ首相/2014年3月15日会見
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 航空機事故の謎を探る | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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