2015年05月18日

●「なぜ4つの遺伝子に特定できたか」(EJ第4035号)

 山中伸弥研究チームは、細胞の初期化を起こすとみられる遺伝
子を24個に絞り込んだのです。この24個の遺伝子と皮膚細胞
を培養すると、ES細胞のような細胞の塊が出現したのです。
 したがって、この24個のなかに細胞の初期化を起こすものが
入っていることは間違いないのです。問題は、それが1個なのか
8個なのか、20個なのかは分からないことです。こういう問題
を解くには、順列・組み合わせの数学を使います。24個のなか
の「r個」の組み合わせは次の式で解くことができます。
─────────────────────────────
  nCr ・・ n個のなかのr個の組み合わせを求める
─────────────────────────────
 例えばこんな問題があるとします。「10人の人がいて、この
なかから8人のグループを作りたい。何通りの作り方があるか」
です。どのように解けばよいでしょうか。
 このようなときは、nに10、rに8を入れ、「10C8」 を解
けばよいのです。そうすると、答えは45通りになります。
 山中研究チームの場合、nに24を入れ、1〜24までのrに
対する組み合わせを求めると1677万7215になるのです。
この組み合わせをすべてテストすると、毎日実験しても実に35
年もかかってしまう計算になります。
 この難問をいともあっさりと解決したのが高橋和利氏です。こ
れについて、東京大学名誉教授の黒木登志夫氏は、iPSについ
て書いた近著で次のように述べています。
─────────────────────────────
 実験を担当していた大学院生の高橋和則は、スマートな方法を
考え出した。24個から1つずつ除いたセットを作り、それをマ
ウスの細胞に感染させたのである。もし、本当に必要な遺伝子が
入っていなければ、初期化は起こらないはずである。
                     ──黒木登志夫著
 『iPS細胞/不可能を可能にした細胞』/中公新書2314
─────────────────────────────
 添付ファイルのグラフをご覧ください。これは、24個の遺伝
子から1遺伝子を除いたグループを作り、皮膚細胞との培養実験
を行った結果、ナンバー14、15、20の遺伝子を除いた組み
合わせからは初期化細胞ができなかったのです。なお、22を除
いた組み合わせでは、一応はできたものの、不完全なものしかで
きなかったといいます。
 そこで、この22を含めた遺伝子は次の4つであり、この4つ
をセットに培養することで、ES細胞のような初期化細胞ができ
ることを発見したのです。現在ではこれら4つの遺伝子は「山中
ファクター」と呼ばれています。
─────────────────────────────
       1.Oct4 (ナンバー14)
       2.Sox2 (ナンバー15)
       3.KIf4 (ナンバー20)
       4.c-Myc(ナンバー22)
─────────────────────────────
 山中ファクターは、それぞれの遺伝子の頭文字をとって、「O
SKM」とも呼ばれていますが、それぞれの遺伝子について簡単
に説明しておきます。
 もともとOct4とSox2は、ES細胞の多様性を維持する
ための遺伝子として知られていたのです。しかし、残りの2つの
遺伝子はがんに関係のある遺伝子であり、c-Myc はがん遺伝
子そのものです。
 本来がんは細胞の増殖や分化と深いかかわりがあり、その遺伝
子が入っても不思議はないのですが、多くの学者はこの2つの遺
伝子については予測できなかったといいます。
 山中教授によると、c-Myc については他のグループから報
告があり、KIf4については高橋和利氏も最初は候補遺伝子に
含めていなかったのですが、大学院生の徳澤佳美氏がその重要性
を指摘したといわれています。
 これら4つの遺伝子について、黒木登志夫教授は、次のように
述べています。
─────────────────────────────
 これらの遺伝子に共通しているのは、いずれも転写因子を作る
遺伝子であることだ。転写因子とは、遺伝子の上流に結合し、そ
の遺伝子を活性化し、DNAからRNAに「転写」させるような
タンパクをいう。転写因子がないと、遺伝子は発現してこない。
つまり、山中ファクターの4遺伝子は、その後に起きるであろう
連続的なプロセスの引き金役なのだ。そのプロセスはこれからの
宿題である。         ──黒木登志夫著の前掲書より
─────────────────────────────
 ES細胞を軸として、世界中の学者があらゆる角度から万能細
胞に挑戦してきましたが、そのなかで山中伸弥研究チームが一番
実現性から遠いところにいたはずなのです。
 しかし、iPS細胞が発表されて、似たような研究を進めてき
た学者が、一番ショックを受けたのは、それがたった4つの遺伝
子から作られるということだったといいます。「何でそんなに簡
単なのか」というわけです。
 それだけに山中教授は、4つの遺伝子のことは秘中の秘にして
それが漏れないよう慎重にも慎重を期したといいます。研究室で
も、公開ラボを中止し、実際に研究を担当した山中教授と2人の
大学院生、高橋和利氏と徳澤佳美氏の3人以外は誰も知らない事
実だったのです。このシンプルさでは、誰かが卒業論文として発
表しても何ら不思議はなかったからです。
 2006年3月にカナダで行われた幹細胞のシンポジウムで山
中教授は講演を行っていますが、その講演の質疑応答でも山中教
授は、4つの遺伝子のうち、Oct4しか明らかにしていないの
です。ちょっとしたことで、先を越されてしまうのが、この世界
の厳しいところです。   ── [STAP細胞事件/008]

≪画像および関連情報≫
 ●山中伸弥教授/新経済連盟イノベーション大賞受賞!
  ───────────────────────────
  楽天の三木谷浩史氏が代表理事を務める新経済連盟は、日本
  におけるイノベーションの創出を促進することを目的に、独
  創的・先進的なイノベーションにより経済・社会に貢献した
  人物を表彰する「新経済連盟イノベーション大賞」を創設。
  その第1回受賞者に京都大学iPS細胞研究所所長で、20
  12年にノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥教授を
  選出した。2014年7月8日には都内において授賞セレモ
  ニーが行われ、山中教授が受賞を記念してスピーチを行って
  いる。発表内容によると、山中教授がイノベーション大賞を
  受賞した理由としては、iPS細胞という科学技術のイノベ
  ーションそのものだけでなく、それを実用化させるためのエ
  コシステム構築の推進や、実用化に向けた様々な活動のマネ
  ジメントに対する評価も挙げられている。日本の研究環境を
  変えるために尽力している山中教授のスピーチは、「アイデ
  アだけでは世の中を変えられない」「イノベーションは社会
  の理解と様々な支援があって初めて、世の中に革新をもたら
  す」ということを示唆している。これは学術分野だけでなく
  企業社会においても同じことが言えるのではないだろうか。
                  http://huff.to/1KQNw3o
  ───────────────────────────
 ●グラフ出典/──黒木登志夫著の前掲書より

24候補遺伝子から4つに絞り込む.jpg
24候補遺伝子から4つに絞り込む
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | STAP細胞事件 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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