し、はじめて自らの研究室を持った山中伸弥氏は、研究室員を募
集するためのプレゼンテーションで次のよう訴えたのです。
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私の研究室では、すでに分化した体細胞をES細胞のような
多能性を持つ万能細胞に巻き戻す研究をする。体細胞の時計
の針を巻き戻してみようじゃないか。
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このとき、山中伸弥助教授がブチ上げた「体細胞の時計の針の
巻き戻し」は、普通では絶対に起こり得ないことなのです。山中
氏はそれが「できる」と宣言したのですから、多くの学生は敬遠
したと思うのです。それがなぜ起こり得ないことなのかについて
考えてみることにします。
ヒトは約60兆個の細胞から成っています。しかし、その細胞
の元をたどると、1個の細胞である受精卵になります。その受精
卵が分裂を繰り返して、ヒトを構成するあらゆる組織や臓器が作
られるのです。
このように、生物が発生する過程で、細胞がある目的にあった
形態や機能を持つように変化することを「細胞の分化」といいま
す。そしてその分化した細胞を「体細胞」というのです。
一度体細胞になった細胞が他の細胞になることはあり得ないこ
とです。つまり、一度心臓になった細胞が腎臓に代わることはな
いのです。しかし、分化した細胞がさらに同じ細胞に分化するこ
とはあります。怪我をして細胞が死んだりしたときに、その修復
のために、同じ細胞に分化することが必要だからです。
しかし、分化した細胞は数十回分化を繰り返すと、それで「打
ち止め」になってしまうのです。打ち止めになると、その細胞は
死んでしまい、その後の新陳代謝や傷の修復はできないことにな
ります。
そのため、本来幹細胞は1つなのですが、分化する前の状態で
存在し、他の種類の細胞を生み出すことのできる幹細胞がほんの
少数ですが、体内に存在するのです。
でも、体内にある幹細胞は、限られた細胞にしか分化すること
はできないのです。ヒトが持つ幹細胞には、赤血球や白血球、血
小板などを作る造血幹細胞、神経細胞を作る神経幹細胞、肝臓の
細胞を作る肝臓幹細胞などにしか分化しないのです。このような
幹細胞のことを「成体幹細胞」と呼んでいます。つまり、ヒトの
体内にはどんな細胞にでもなれる万能幹細胞はないのです。
「プラナリア」という生物がいます。淡水、海水および湿気の
高い陸上に生息します。この生物の再生能力は凄いのです。
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プラナリアの再生能力は著しく、ナミウズムシの場合、前後に
3つに切れば、頭部からは腹部以降が、尾部側からは頭部が、中
央の断片からは前の切り口から頭部、後ろの切り口から尾部が再
生される。このような各部から残りの部分が正しい方向で再生さ
れるのを、極性があるといい、具体的には何らかの物質の濃度勾
配ではないかとされている。再生が秩序正しく行われるための体
内の濃度勾配を司る遺伝子としてNou-darake遺伝子 が同定され
ている。 ──ウィキペディア http://bit.ly/1chJPbx
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このプラナリアの細胞が「多能性幹細胞」なのです。こういう
細胞をヒトが持っていれば、事故で手や足を切断するようなこと
になっても、元通り再生できることになります。まさに夢の医療
です。しかし、ヒトは多能性幹細胞を持っていないのです。
ところがその夢の医療の道を開いたのが英国のマーチン・エバ
ンス教授によるES細胞の発見なのです。既に述べたように、受
精卵が何回も分裂して胎児になるのですが、胎児になるまでの細
胞の塊のことを「胚」といいます。
エバンス教授は、その胚の内部の細胞を取り出して培養し、E
S細胞を作ったのです。ES細胞は多能性幹細胞であり、多能性
を持つのです。マウスのES細胞は、マウスのあらゆる細胞にな
ることができますし、ヒトのES細胞はヒトのあらゆる細胞にな
る能力を持つ万能細胞なのです。
ES細胞からさまざまな種類の細胞に変化させる研究は、世界
中の科学者が取り組んでおり、この分野の先駆者は世界中に大勢
いるのです。山中氏が自分の研究室に3人の学生を集めた時点で
日本では笹井芳樹氏が、既にES細胞の分野で数々の業績を上げ
ていたのです。
しかし、ES細胞は、それをヒトに応用するには受精卵を壊さ
なければならず、そこに倫理上大きなかべがあることは既に述べ
た通りです。そこで山中氏は、最初からES細胞という選択肢を
捨てて多能性細胞の研究に臨んだのです。具体的にいうと、皮膚
細胞に何らかの処置を施して万能細胞を作る試みです。皮膚は受
精卵から分裂を繰り返したすえの体細胞です。この体細胞から時
計の針を巻き戻すように逆行しようというわけです。そんなこと
ができるのでしょうか。
それは絶対にできないとはいえないのです。受精卵から分化し
た細胞は、すべて受精卵と同一のDNAを持っています。つまり
皮膚も、どんな細胞にでも変化できるDNAを持っているわけで
す。しかし、分化して生体のある機能を受け持つようになった細
胞は、他の細胞にはなれないのです。なれるDNAは持っている
のですが、封印されているわけです。
それは当然のことです。たとえば、心筋に分化した細胞が突然
皮膚細胞になってしまったら、どうなるでしょうか。そんなこと
が起きれば、生体の全システムは崩壊し、個体の生存は不可能に
なります。したがって、そういうことが起こらないようにDNA
には鍵がかけられ、厳重に管理されているのです。
しかがって、そのDNAの鍵を外すことに成功すれば、理屈上
は万能細胞を作ることは不可能ではないのです。
── [STAP細胞事件/006]
≪画像および関連情報≫
●万能細胞による新しいバイオ産業の始まり
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幹細胞ビジネスを進めていくなか、日々、多くの方々と意見
交換し、将来のバイオ産業像について語る機会も多い。ただ
残念ながら、ポジティブな将来像を持った方は少なく、ネガ
ティブな見方、危機感を抱いている方が圧倒的に多い。21
世紀の次世代産業として、IT、バイオ、ナノの3分野が強
調されて久しい。最近では、グリーン・イノベーションとラ
イフ・イノベーションが推進されているように、バイオやラ
イフサイエンスは次世代産業の有力候補である。それにもか
かわらず、多くの方がネガティブな印象を持っているのはな
ぜであろうか。本稿において普段感じている問題点を整理す
ることで、日本のバイオ産業の将来に少しでも役立てて欲し
いと願っている。まず、そもそも直感的に、今後日本でアム
ジェンやジェネンテックと肩を並べる世界的なバイオテック
企業が日本から発進するというイメージを持てる方が果たし
てどれぐらいいるだろうか。また、バイオテック企業の経営
者は、自分の会社がそのように成長すると思えるだろうか。
恐らく、大方の答えはノーであろう。両社とも、当時発明さ
れたばかりの遺伝子組み換え技術を活用し、いわゆるバイオ
医薬品の開発に成功、世界的な企業に成長した。しかし、日
本の製薬企業の多くはごく最近に至るまでバイオ医薬品には
無頓着であり、彼我の差は大きく開いてしまっている。この
ように、新産業を興すためには画期的な製品や新しいビジネ
スモデルが求められ、それをつくり出せるかが大きく勝敗を
分けている。 http://bit.ly/1H5dBen
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マーチン・エバンズ教授


