2015年03月13日

●「戦前から存在した経済成長否定論」(EJ第3993号)

 アベノミクスは明らかに経済成長を狙う経済政策です。これに
対して、「もはや成長はあり得ない」と訴えるエコノミストや経
済学者が多くなっています。その反成長派の筆頭といわれるのが
水野和夫日本大学国際関係学部教授です。
 その水野氏が2014年3月に上梓した近刊書が、いま爆発的
に売れています。この本の冒頭には次の記述があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 近代とは経済的に見れば、成長と同義語です。資本主義は「成
長」をもっとも効率的におこなうシステムですが、その環境や基
盤を近代国家が整えていったのです。
 私が資本主義の終焉を指摘することで警鐘を鳴らしたいのは、
こうした「成長教」にしがみつき続けることが、かえって大勢の
人々を不幸にしてしまい、その結果、近代国家の基盤を危うくさ
せてしまうからです。もはや利潤をあげる空間がないところで無
理やり利潤を追求すれば、そのしわ寄せは格差や貧困という形を
とって弱者に集中します。そして現代の弱者は、圧倒的多数の中
間層が没落する形となつて現れるのです。   ──水野和夫著
   『資本主義の終焉と歴史の危機』/集英社新書0732A
―――――――――――――――――――――――――――――
 水野和夫氏のことは、かつてのテレビ朝日の番組「サンデープ
ロジェクト」の常連エコノミストとして、その言説には何回も接
していますが、物事を悲観的に見る人という印象があります。
 たしか1月のBS朝日の「激論!クロスファイア」だったと思
いますが、水野和夫氏が出演したのです。そのとき水野氏は、世
の中に本当に必要なものは既に開発され尽くされていて、最近の
製品やサービスは意味のないものが多いと発言したのです。
 例えば、4Kテレビについては、テレビなんかより美しい画面
で見たってしょうがないといい、アマゾンの書籍の即日配達なん
か必要のない無駄なサービスであり、それは物事の段取りの悪い
人のためのものに過ぎないという奇異な意見を述べたのです。
 それは水野氏個人の価値観であって、テレビをより細密な画像
で見たいと思う人は大勢いるでしょうし、即日配達のサービスを
便利であると感ずる人も少なくないと思うのです。段取りが良い
か悪いかの問題ではないと思います。おそらく水野氏は今の世の
中は「もはや利潤をあげる空間がない」と考えており、資本主義
が終わるときが眼前に迫っていると警告をしているのです。
 水野氏のような成長終焉論を唱える経済学者やエコノミストは
日本にはたくさんいます。しかし、そのルーツをたどると、戦前
の昭和恐慌時に起きた「金解禁論争」に行き着くのです。つまり
日本が高度成長を始めるはるかに前の時点から、成長否定論が存
在していたことになります。以下、若田部昌澄教授の本を基にし
て記述していきます。
 ここで金解禁論争について知る必要があります。金解禁論争と
は、金本位制に復帰するかどうかという議論です。第1次世界大
戦が始まったのは1914(大正3年)のことです。それと同時
に日本をはじめとして多くの国が金本位制から離脱したのです。
 第1次世界大戦が1918年(大正7年)に終わると、各国は
金本位制に戻り始めたのですが、日本ではどうするかについて、
一大議論があったのです。
 当時金の輸出入は禁止されており、金本位制に戻るということ
は、金を解禁するということになるのです。そのさい、金の交換
レートについて、次の2つのことが議論になったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.昔のレートに戻す ・・ 旧平価
      2.新しい基準にする ・・ 新平価
―――――――――――――――――――――――――――――
 金本位制というのは、通貨の量が金の鋳造量によって規定され
る通貨制度であり、通貨量の調節が金の保有量に縛られてしまう
ので、当然経済は緊縮化されることになります。
 政治家、官僚、経済学者のほとんどは「1」、すなわち「旧平
価」を支持したのです。ちょうど第1次大戦中から景気が過熱し
てバブルのような状態になっていたので、ここで経済を緊縮させ
てバブルを潰し、強い経済を作るべきである。そのためには痛み
は伴うけれども、それは耐えるべきであるという意見が圧倒的に
多かったのです。この人たちがそのまま現在の反リフレ派になっ
ていると考えてよいと思います。
 これに対して、反対の論陣を張って「2」を主張したのが次の
4人です。彼らは、インフレを許容しても必要な生産力は向上さ
せるべきであると主張したのです。主として新聞記者と経済評論
家であり、「新平価解禁4人組」と呼ばれたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
        石橋湛山(東洋経済新報社)
        高橋亀吉  (経済評論家)
        小汀利得 (中外商業新報)
        山崎靖純  (時事新報社)
―――――――――――――――――――――――――――――
 大多数の政治家、官僚、経済学者たちから見れば、変わり者4
人組ということになりますが、彼らは山崎靖純を除き、第2次世
界大戦終了後も大活躍をするのです。
 石橋湛山は大蔵大臣を経て首相に就任していますし、高橋亀吉
は通産省の顧問を務めるなどカリスマ的な人気を誇る経済評論家
として活躍、文化功労者として表彰されています。小汀利得(お
ばまとしえ)は、戦後の政治テレビ番組「時事放談」(この番組
は現在も継続中)での毒舌が人気を博したのです。小汀は中外商
業新報の記者だったのですが、この新聞社は現在の日本経済新聞
の前身です。
 ここに金解禁論争当時は大学生だった下村治が加わり、「石橋
─高橋─下村」のラインが形成されるのです。彼らが現代のリフ
レ派に近い主張を展開することになるのです。
             ── [検証!アベノミクス/75]

≪画像および関連情報≫
 ●「連載/湛山を語る」/香西 泰氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  湛山が関わった戦前の経済論争では金解禁論争が著名です。
  第1次大戦中に実施した「金輸出禁止」を解除するのに、従
  来の1ドル=2円の旧平価で実施するか、その後の実勢レー
  トに沿った新平価(円安)で行うべきかの論争ですが、石橋
  ・高橋亀吉・小汀利得・山崎靖純の「四人組」等は、大戦や
  関東大震災後の日本経済の実力に合わせた新平価解禁を主張
  した。結局、昭和5(1930)年1月に浜口雄幸首相・井上準
  之助蔵相の下で、旧平価による金輸出解禁が実施されたもの
  の、激しい為替投機などによる混乱で、翌昭和6年12月、
  犬養毅首相・高橋是清蔵相の下で再禁止される。この間の論
  争の詳細は省略して、もし湛山らの主張のとおり、当初から
  新平価で金輸出解禁していたならば、どんな結果になったと
  考えますか。昭和の初めの経済状況の分析は非常に大きな問
  題でかつ難しい。私自身どう考えていいのか分かっていない
  側面も多く、まだ何かあるのではないかとも考えています。
  そこで、新平価で金輸出解禁を実施していたらどうかといわ
  れると、新平価の決め方にもよるが、経済界への影響はそれ
  ほど強くはなかった一方で、為替は必ずしも安定はしなかっ
  たのではないかと思われる。世界大恐慌の渦中で「新平価」
  はたちどころに「新新平価」「新新新平価」に変わっていっ
  た可能性が強い。         http://bit.ly/1ExcyVJ
  ―――――――――――――――――――――――――――

水野和夫氏の近刊書.jpg
水野 和夫氏の近刊書
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | アベノミクス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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