2015年01月23日

●「時期をずらした実質的な為替介入」(EJ第3959号)

 2012年末から2013年の春にかけての円安は、何らかの
為替介入が行われた結果である──伊東光晴京都大学名誉教授は
そのように指摘しています。
 しかし、財務省の「外国為替平衡操作の実施状況」で調べると
2012年から2013年5月までは「介入ゼロ」になっている
のです。為替介入には、政府短期証券の発行が前提になりますが
この期間において外国為替特別会計で政府短期証券は発行されて
いないのです。
 伊東教授は、専門家にしかわからない複雑にして特殊な介入を
金融機関を使って行っているとして、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 外為特別会計で短期証券を発行し、これによって得た円資金を
もとに先物の円を売り(これをショートという)、同時に、同じ
ショートの円を買う。これと、この円資金で買えるドルの先物の
売り買いを組み合わせる。期間がくると、それぞれを相殺すると
同時に、再び同じことを繰り返し1年数か月たって、ショートの
取引をやめ、ロングの取引──つまり、円を売ってドルを買う。
こうして、2011年に調達した円資金を2012年末以降にず
らして使い、形式上と実質上の介入を分けたのである。
                      ──伊東光晴著
      『アベノミクス批判/4本の矢を折る』/岩波書店
―――――――――――――――――――――――――――――
 要するに、ある時点で為替介入を行うために発行した政府短期
証券をそのときは実質的には使わず、形式的介入にとどめ、時期
をずらして2012年末に使ったのではないかということです。
こういう手法に関しては、伊東教授自身、最近になってわかった
ことがあるとして次のようにコメントしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ある投資銀行の人から、形式的介入の時期と実質的介入の時期
をずらすのは他でも行われていることと、投資銀行は、直接では
なく、さらに金融機関を使ってこれを行っているということが寄
せられた。           ──伊東光晴著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 2012年末から2013年春にかけての財務省によって行わ
れたとみられる為替介入は、かつての溝口/テイラー介入のとき
のように、米国の合意があったとみられるのです。実際に当時の
バーナンキFRB議長は、アベノミクスについて質問されたとき
「安倍首相の3本の矢のアプローチを支持する」と発言し、次の
ように述べています。2013年6月20日のことです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 デフレは長年にわたり日本の問題であり、日銀は極めて困難か
つ定着したデフレと戦っている。デフレ見通しを打ち破り、イン
フレ率を日銀が定めた2%の水準まで上昇させるには非常に積極
的な政策が必要だ。だからこそ非常に難しく、積極的でなければ
ならない。積極的な政策の初期段階においては、投資家がまだ日
銀の反応関数を学んでいるため、ボラティリティーが生じても格
段予想外ではない。また日本国債市場は、例えば米国債市場と比
べて流動性が低いこともある。    http://huff.to/1uvZ8Wo
―――――――――――――――――――――――――――――
 ところで、財務省は円安を狙って円を売り、ドルを買うのです
が、そのドルはほとんどの場合、米国の長短期の国債に換えられ
るのです。これは米国政府にとっては歓迎すべきことであり、そ
のために日本の為替介入に暗黙の合意を与えたことは十分考えら
れることです。
 とくにバーナンキ前議長は、空前の規模の量的金融緩和──Q
E1、QE2、QE3まで行っていましたが、このとき自らの退
任を決めていたのです。辞めるときは「飛ぶ鳥跡を濁さず」で、
自分の庭はきれいにしておきたかったと思われます。これに関し
て伊東教授は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 アメリカの中央銀行(連邦準備制度理事会)総裁バーナンキは
2014年春に退任を予定していた。もちろんマネタリストであ
るバーナンキは日本にならって不況対策として通貨供給量の増加
を実施してきた。2013年は期限を決めず、月850億ドル、
約83兆円の国債などの資産を買い入れている(『毎日新聞』2
003年6月7日夕刊)。その結果買い入れた国債が累積する。
これを退任前に減少させたいと思っている。財政当局とて同じで
ある。この間まで、中国がこれを買ってくれていた。いま日本が
これを買うのであれば、アメリカの望むところである。日本の円
高是正のための円売りドル買いがアメリカ国債購入となるならば
アメリカも日本の為替介入を黙認してゆくことになる。溝口テイ
ラー介入時と同じである。もちろんこの円高是正の介入は現財務
官が行うのであって、黒田氏とは何の関係もない。
                ──伊東光晴著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 何のことはない。伊東教授の主張によると、安倍首相、黒田日
銀総裁によるアベノミクス/異次元金融緩和政策は、彼らが自画
自賛するのとはまるで異なり、株価上昇や円安には何も関係はな
いということになります。おまけに、米国FRBの出口戦略に日
本は利用されていることになります。
 そもそも金融政策は、例えば行き過ぎたインフレにブレーキを
かけて止め、正常化させることはできても、銀行貸出を増加させ
て、マネーストックを増やし景気を上昇させるような、こちらか
らプッシュする政策には不向きなのです。
 これは「紐のたとえ」といって、犬のリードを引いて犬の動き
を止めるように、紐を引くことは意義がありますが、紐を押して
も何もできないのです。伊東教授は、安倍/黒田両氏は、紐を押
しているに過ぎないといっているのです。強烈なアベノミクス批
判です。リフレ派の経済学者は、これに対してどのように反論す
るのでしょうか。    ─── [検証!アベノミクス/41]

≪画像および関連情報≫
 ●「聞きかじりだから安倍首相は嘘をつく」/伊東教授直撃
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ――世間ではさまざまな専門家がアベノミクスを評価してい
    ますが。
  伊東/エコノミストは理論を知らない。経済学者は現実を知
    らない。そんなのが新聞社で御用を務めている。理論も
    現実も知っている日本人はいない。
  ――アベノミクスには異次元緩和という第1の矢、国土強靭
    化を大義にした財政出動という第2の矢、成長戦略とい
    う第3の矢があるわけですが、全部ダメ?
  伊東/これに戦後の政治体制の改変という第4の矢が隠され
    ている。アベノミクスはすべてを壊そうとしています。
  ――まず、第1の矢ですが。
  伊東/本質的には日銀の国債引き受けです。それをやらない
    と、予算が組めない。これ以上国債を出すと、国債金利
    が上がってしまうからです。金利が1%上がれば予算編
    成ができなくなる。財務省の役人のクビが飛んじゃう。
    そこで言うことを聞く人物を日銀総裁にしたのです。
  ――異次元緩和で投資や消費が増えるもくろみでしたが、う
    まくいっていませんね。
  伊東/根拠なき政策効果への期待です。日銀の岩田規久男副
    総裁は異次元緩和をすると、人々は物価が上がるだろう
    と考え、設備投資が増加し、景気浮揚の力が働くとして
    いますが、人々の期待は多様なのです。物価が上がれば
    生活が困ると考え、生活を切り詰める人もいるかもしれ
    ない。金利が低くなったところで設備投資をするかとい
    うと、過去に経済企画庁の企業行動調査は否定的な調査
    結果を出しています。     http://bit.ly/1vleBYc
  ―――――――――――――――――――――――――――

ベン・バーナンキ前FRB議長.jpg
ベン・バーナンキ前FRB議長
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | アベノミクス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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