2007年05月07日

古川 亨氏が語るMSの現況(EJ第2073号)

 マイクロソフト社――というよりもビル・ゲイツが、当初イン
ターネットにあまり熱心ではなかったという話はこの連載で既に
何回もしています。この間の事情について、元米マイクロソフト
社の副社長をしていた古川亨氏の言を聞いてみましょう。
 古川亨氏は、アスキー社に勤務した8年のうち6年間はマイク
ロソフト社の仕事をし、さらにマイクロソフト社の日本法人の社
長として、それから米マイクロソフト社の副社長として19年間
計25年間もの長い間マイクロソフト社に関わるビジネスをして
きた人です。
 その古川氏は、ウインドウズ95が発売される直前のビル・ゲ
イツについて雑誌社のインタビューで次のように語っています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1994年頃のビル・ゲイツは、自由にブラウジングできる環
 境でコミュニケーションや情報共有の仕方が変わるんだといく
 ら説いても、興味を持ちませんでした。「インターネットなん
 て何の富も生まないし、ビジネスとして成功するチャンスがな
 いものに、会社として取り組んだり、ユーザが時間を使ったり
 することに何の価値も見出せない」と、頑なにいわれました。
                       ――古川亨氏
   『インターネット・マガジン/2006年5月号/終号』
                      インプレス社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、それが間違いだと気付いた瞬間のビル・ゲイツの転進
は実に早かったのですが、古川氏はそれはネイサン・ミアボルト
という社員の書いたレポートをビルが読んだことが決断のきっか
けになったと次のように述べています。古川氏でないと聞けない
話であり、少し長くなりますが、引用します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 あの頃、ネイサン・ミアボルトという突出した天才児がいたの
 ですが、その影響が大きかったです。彼は、スティーブン・ホ
 ーキングのゴースト・ライターをやっていました。ホーキング
 が宇宙物理学でノーベル賞を受賞して、同じ分野ではもうノー
 ベル賞は出ないだろうと考えて、マイクロソフトに入ってリサ
 ーチ部門を創設したという経歴があります。マルチタスクOS
 としてのウインドウズNT、トゥルータイプ・フォント、音声
 認識、カラーマネジメント、データベース、分散処理などいろ
 いろな研究分野がありますが、そのほとんどは彼が研究の起源
 となり、研究員となる人材を世界中から探し出してマイクロソ
 フトへ招聘していました。彼が会社を去る前後に、インターネ
 ットに関してこのまま放置しておくと、マイクロソフトにとっ
 て大変なことになるぞというレポートがビル・ゲイツに上がっ
 てきました。それをビル・ゲイツが吟味して、インターネット
 にコミットすべく舵を切ったというわけです。
    ――古川亨氏/上掲『インターネット・マガジン』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 確かにあのときのマイクロソフト社の方針転換は素早かったし
それが正しかったからこそ同社は業界トップの地位に君臨してい
ますが、これから先はどうなるのでしょうか。現在は、あのとき
よりもはるかに大きな変換点に立っていると思うからです。今回
もあのときのように、素早く転換できるのでしょうか。
 これに対する古川氏の答えは否定的です。彼は「マイクロソフ
トのリーダーシップは完全に失速状態」であると指摘し、その原
因は、マイクロソフトとインテルの補完関係が変質していること
であるといっています。
 今までは、ソフトウェアの立場からマイクロソフトが貢献し、
ハードウェアにおけるリーダーシップを発揮していたインテルと
緊密な補完関係にあったのです。つまり、ウィンテルがこのIT
業界を仕切っていたといえます。しかし、そのインテルとの関係
が変質しているといっているのです。
 確かに最近のインテルは、マッキントッシュのプラットフォー
ム(OS)においてもCPUを提供していますし、インテルとし
ては、ウインドウズにのみ依存しているわけではないことをこれ
みよがしに示しつつあります。
 このままいくと、IPネットワークが通信・コミュニケーショ
ンの道具としてだけでなく、放送を中継するパイプになることが
見え始めた重要な時期に、どういう提案をしてリーダーシップを
発揮するかという重責をインテルに明け渡してしまうことになる
――古川氏はこういっているわけです。
 それでは、なぜそういうことになったかについて、古川氏は次
のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 マイクロソフトは、技術の動向を捕捉しきれていないというこ
 とでしょう。世界にどういう技術が既に存在しているのかを勉
 強したり、それらを自分で使ってみるといったことをしていれ
 ば、何か学ぶことがあるはずです。インダストリーの中で望ま
 れていることに対して、マイクロソフトが何を学び、何を採択
 し、自らを創造し、それを社会に提案していくという感度が、
 鈍ってきているのではないでしょうか。
    ――古川亨氏/上掲『インターネット・マガジン』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 鳴り物入りで発売したウインドウズ・ビスタの売れ行きが今ひ
とつのようです。いかにデファクト・スタンダードであるとはい
え、ひとつのOSの閉じた世界に顧客を押し込めるということは
現在のオープンの世界にはなじまなくなってきているのではない
でしょうか。
 モザイクが登場し、それがネットスケープ・ナビゲータという
かたちになって世にあらわれたとき、マイクロソフト社はそれを
力で押さえつけて勝利しましたが、肝心のオープンの世界への対
応はできていなかったのではないかと思います。それは古川氏の
言葉によくあらわれています。
[インターネットの歴史 Part2/39]


≪画像および関連情報≫
 ・ウィンテルとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  90年代以降のPC市場では、OSはマイクロソフトのウイ
  ンドウズ、CPUはインテルのセレロンやペンティアム系列
  の製品がデファクトスタンダードになってきた。そのため、
  PC市場のさまざまな面でこの2社は強大な影響力を保持し
  てきているため、この体制を指してしばしば「ウィンテル」
  と呼ばれる。ただし昨今では、CPUでは米AMDのアスロ
  ンなどインテル互換製品の勢力が伸ばしており、他方OSに
  においてもオープンソースのリナックスが注目され、インテ
  ルがサーバー向けCPUでリナックス・サポートを進めるな
  どしており、マイクロソフトとインテル社の関係は必ずしも
  一枚岩とは言えない。       ――IT用語辞典より
  ―――――――――――――――――――――――――――

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posted by 平野 浩 at 04:36| Comment(0) | TrackBack(0) | インターネットの歴史 Part2 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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