2014年12月03日

●「日本のバランスシートを分析する」(EJ第3928号)

 2013年度末の国の負債総額は、1107兆円になっていま
す。昨日のEJで分析した2011年度末に比べて213兆円増
加しています。数字だけを見ると厳しい数字であり、これによっ
て安倍政権は8%の消費税増税決断に追い込まれたのです。
 しかし、驚くことはないのです。この数字には本来国の債務と
はいえないものが多く含まれているからです。まず、返済の道筋
のついている地方債務の約200兆円と建築国債の256兆円は
昨日のEJで述べたように、国の負債総額からは外すべきです。
そうすると、日本の負債総額は651兆円になります。
 このうち、赤字国債は452兆円であり、これこそ本当の債務
です。残りの約200兆円は政府短期証券などです。この国債は
為替介入をするさいに発行されるものですが、そのために外国為
替特別会計にはGDPの20%に当たる約100兆円を超える外
貨準備があり、これも債務総額から外すべきです。
 先進国でこんな巨額の外貨準備を持つ国はありません。日本の
次に大きな外貨準備を持つカナダでさえ、せいぜいGDPの2%
程度のものです。まさに桁が違うのです。
 そうすると、日本の本当の債務は452兆円になります。耳に
タコができるほどいわれる1000兆円ではなく、その半額以下
の債務になります。対GDP比は約90%。これは米国並みの数
字であり、財政危機というレベルではないのです。
 それに452兆円はグロスの数字なのです。日本には200兆
円を超える金融資産もあり、赤字国債に対応する十分な資産を有
しています。ただし、税収が増えないと100兆円に近い予算を
組んでいれば、赤字国債の残高は増える一方です。したがって、
本当のムダを切る歳出削減と経済成長による税収増加が不可欠に
なります。消費税増税などは、それに逆行する政策です。増税で
財政再建に成功した国はないからです。
 ここで、日本という国家のバランスシートについて考えます。
日本国のバランスシートは、元財務官僚の高橋洋一氏が理財局資
金企画室長のときにはじめて作成したといわれます。これは財務
省からみると、きわめて迷惑な話だったのです。なぜなら、バラ
ンスシートを作られると、隠しておきたい国の資産が白日の下に
晒されていまうからです。
 日本国のバランスシートを添付ファイルにしてあります。これ
は、政治評論家の三橋貴明氏が、2010年6月の速報値に基づ
き、日本銀行の資金循環統計から作成したものです。以下は、三
橋氏の論説を参考にして解説することにします。
 三橋貴明氏は、バランスシートを見る場合、次の2つの原則を
知っておくべきであるといっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  【原則1】
   誰かの負債は誰かの資産。誰かの資産は誰かの負債
  【原則2】
   国=政府ではなく、政府の借金は国の借金にあらず
―――――――――――――――――――――――――――――
 日銀は、統計をとるさいに、国の経済主体を次の5つに分類し
ています。
―――――――――――――――――――――――――――――
       1.          政府
       2.        金融機関
       3.       非金融機関
       4.          家計
       5. NPO/民間非営利団体
―――――――――――――――――――――――――――――
 バランスシートを見ていただきたい。借方(左側)には資産、
貸方(右側)には負債が計上されています。これを見ていえるこ
とは、日本は総資産が総負債を上回っていることです。
 その証拠に、貸方の一番下に純資産268・1兆円計上されて
います。米国では、この関係が逆になっていて、借方に純負債が
計上されているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   資産合計        負債合計
   5590兆6000億円>5322兆5000億円
―――――――――――――――――――――――――――――
 借方の一番上の数字「481・9兆円」は日本の金融資産の数
字です。この資産は金融資産だけで、不動産などの固定資産は含
まれていないのです。これはダントツで世界最大です。世界2位
は米国ですが、連邦政府と地方政府を合わせても約350兆円に
過ぎないのです。これでも十分に巨額の資産ですが、日本の資産
は、それをはるかに上回っているのです。
 貸方を見てください。冒頭の「1001・8兆円」が、財務省
が強調する「1000兆円を超える国の借金」です。しかし、こ
れは、政府の負債に過ぎず、すべての負債を合計すると5000
兆円を超えるのです。
 しかし、それに見合う資産は借方にあるのです。【原則1】に
あるように、誰かの負債は誰かの資産なのです。日本国債の債権
者の多くは国内金融機関で、政府が過去に発行した国債のほとん
どは借方に金融機関の資産として計上されています。そしてその
国債を購入する資金源は金融機関の貸方の2744・4兆円であ
り、そのほとんどは日本国民や企業の預金なのです。
 「1000兆円を超える国の借金」の正体は、日本国民や企業
が貸している政府の負債なのです。財務省やその御用学者たちは
それを人口で割り、「国民一人当たり○○○円の借金」と喧伝し
ているのです。きわめて悪質なミスリードであるといえます。
 なお、純資産の268兆円は、日本の対外資産約565兆円か
ら対外負債を差し引いた額なのです。これほどの純資産を持って
いる国は日本だけであり、日本は国としてみると、大変な金持ち
の国家なのです。そんな国に、どうして消費税の増税が必要なの
でしょうか。      ─── [検証!アベノミクス/10]

≪画像および関連情報≫
 ●現代ビジネス「ニュースの深層」/高橋洋一氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  参院選後の世論調査で消費税増税に58%が反対している。
  消費税増税について、2012年12月の衆院選でも、今回
  の参院選でも、直接国民に信を問うていないが、間接的には
  反対だろう、消費税増税へ道筋をつけた民主党は、衆院選、
  参院選それぞれで惨敗している。消費税増税について、「増
  税しないと国債暴落になる」、「増税を先送りすると株価が
  下がる」、「増税しないと国際公約違反になる」、「増税し
  ないと社会保障ができなくなる」、「増税しないと財政再建
  できない」とかいう意見については、8月5日付け本コラム
  (http://bit.ly/1FGBdTM) などで、ウソであると書いてき
  た。それでも、財務省は必死に「国の借金が酷い」と増税を
  訴えてくる。「日本には1000兆円の借金がある。国民一
  人当たりに換算すると800万円にもなる」「債務残高GD
  P比200%は世界一だ」――こんな話をメディアを通して
  聞いたことがある読者も多いだろう。国の借金が初めて10
  00兆円を超えたと報道された。財務省が8月9日「国債及
  び借入金並びに政府保証債務現在高」の数字が1008兆6
  281億円と発表したからだ。しかし、なぜ、国のバランス
  シート(B/S)を見ないのか。それをみると、負債合計は
  国の借金を包括的に表しており、それが「国の借金」にふさ
  わしい数字だ。          http://bit.ly/1w5qQch
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●グラフの出典/「日経ビジネス」http://nkbp.jp/1A2mK3e

日本国のバランスシート/2010年10月.jpg
日本国のバランスシート/2010年10月
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(1) | TrackBack(0) | アベノミクス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
◇ 経 済 ◇   内閣府が、2014年11月17日に公表した「四半期別GDP速報」(2014年7−9月期)を見る限り、『安倍晋三首相が進めるアベノミクス(金融政策・財政政策・成長戦略)は、消費税率を5%から8%へ引き上げた2014年4月1日以降、完全に失敗したし、消費税を廃止しない限り、絶対に経済成長できない、GDPを伸張できない』とわかる。具体的な数値を示すと、消費税率を5%から8%へ引き上げる直前の2014年1−3月期の実質GDP伸び率(物価変動の影響を除いた前四半期比)はプラス1.6%だった。ところが、8%へ引き上げた直後の4−6月期の実質GDP伸び率はマイナス1.9%となり、7−9月期もマイナス0.4%となった。つまり、実質GDP伸び率は、2期連続でマイナスとなったのであり、4−6月期よりも、7−9月期の実質GDPは更に縮小した。つまり、安倍晋三内閣が、財務省の讒言(ざんげん)に従って消費税率を5%から8%へ引き上げた愚行により、アベノミクスの目標であるデフレを脱却させ、好景気へ導き、プラスの経済成長(GDPの伸張)を果たすどころか、まったく逆に、デフレを深化させ、景気後退をもたらし、マイナスの経済成長(GDPの縮小)へ陥らせ、アベノミクスを失敗させた。アベノミクスが失敗した原因は、消費税率を5%から8%へ引き上げたことにある。なぜなら、17年前の橋本龍太郎内閣(1996〜1998)が、1997年4月に消費税率を3%から5%へ引き上げたことにより、日本国の実質GDP成長率は年率−2.05%のマイナス成長へ没落し、税収は4兆円減少し、政府負債残高は急増し、社会保障制度は窮地に陥った。また、『アベノミクスに基づく経済成長と消費税増税に基づく財政再建は、同時に両立できない』にもかかわらず、経済成長を促すアベノミクスという「アクセル」と 消費税増税という「ブレーキ」を同時に踏むという愚行による。だから、日本国の経済政策を担う内閣は、先ず、『不況と失業は、需要不足で起こる』こと。次に、『経済成長をすれば、後から財政再建はついてくる』こと。そして、『日本国のGDPの内訳は、消費が約60%、政府支出が約20%、投資が約19%、貿易収支が約1%であるから、消費を抑制する消費税を廃止しなければならない』ことを深く理解しなければならない。そもそも、消費税は、多数の貧困層の所得を 少数の富裕層へ還元する逆進性をもつ悪い税制である。しかし、消費税の逆進性を肯定する旧大蔵省(現在の財務省)と、消費税の輸出還付金制度(輸出戻し税)等の恩恵を得られる経団連(多国籍企業)に従った自民党の竹下登内閣(1987〜1989)は、消費税法を制定して1989年4月から税率3%の消費税を導入した。だから、先見の明のある経済学者 小室直樹は、『悪魔の消費税』(1990年)を出版して逆進性のある消費税を即刻糾弾した。戦後の日本社会における貧困層と富裕層の所得格差拡大の第一原因は、1989(平成元)年に消費税を導入したことにある。この後、自民党の橋本龍太郎内閣(1996〜1998)は、1997年4月に消費税率を3%から5%へ引き上げた。これ以来、日本経済は、ダッチロール状態に突入した。そして、日本経済のダッチロール状態を歓迎しているのは、中国共産党ら日本国に敵対する外国勢力と、これらと連携する日銀と財務省(官公労)なのである。繋がっているからこそ、1997年から現在に至るまでの間、高校生でも理解できる常識的な経済政策をとることなく、「日本経済を破壊する経済政策」のみを行い続けてきた。なお、近年になると、斎藤貴男 著『消費税のカラクリ』(2010年)等の「反消費税本」が出版され、『トヨタ自動車(株)一社だけで毎年3000億円近い輸出還付金(輸出戻し税)を得ている』等の不公正な消費税の実態が暴露されてきた。しかし、民主党の野田佳彦首相(2012年1月〜12月)は、省益拡大と私利私欲のために政・財・官・報・外の各界に工作を続ける財務省(官公労)と、国家のことなど眼中にない利益至上主義の経団連(多国籍企業)からの要求に屈服して、『消費税の増税に命をかける』(2012年3月24日)という滑稽で主観的な宣言を行い、「三党合意」(2012年6月21日)を取り付けると、消費税を8%から10%へと段階的に引き上げる消費税増税法を2012年8月10日に成立させた。ところが、野田佳彦首相は、民主党の内外からの「野田降ろし」の圧力に耐え切れず、2012年11月16日に衆議院を解散した。この解散は、「野田の自爆テロ解散」と命名するのが適当だ。なぜなら、解散した結果、2012年12月16日の衆議院議員総選挙に大敗して、野党の自民党に政権を明け渡したからだ。つまり、『自民党から民主党への政権交代をもたらした衆議院議員総選挙(2009年8月30日)の時、民主党が掲げた政権公約(マニフェスト)には、「消費税を増税する」とは一言も明記されていない! 国民をダマすのも、いい加減にしろ!』と怒った国民世論に乗じた野党の自民党が、この2012年12月16日の衆議院議員総選挙において政権を奪還したのであった。従って、「四半期別GDP速報」の公表翌日の11月18日に、自民党の安倍晋三首相が、『アベノミクスと消費税増税に対する国民の信任を問うために、衆議院を解散する』と表明したことは、政権運営の道理にかなっている。ただし、安倍晋三首相は、『消費税率を8%から10%へ引き上げる時期を延期する』と述べたのであって『消費税を廃止する』とは述べていない。この意味で、『いまだに財務省(官公労)の手中に籠絡(ろうらく)されている』と言えよう。さて、衆議院議員総選挙の投票日(2014年12月14日)が近いが、10%への消費税増税に賛成していた民主党議員には絶対に投票すべきではない。かと言って、中国・韓国と連携して日本の国益を踏みにじる財務省(官公労)寄りの自民党議員にも投票すべきではない 。そこで、投票すべき議員は、次の(1)〜(3)のようになる。(1)安倍晋三首相と同じく保守的な自民党議員 (2)自民党よりも保守的な政策を掲げる次世代の党の議員 (3)江田けんじのような公務員制度改革を推進する議員・・・を支持すべきだ。ただし、中国・韓国などの外国と連携しつつ日本の国益を棄損する共産主義思想を抱いた「官公労」は、選挙結果に左右されない。そして、日本政府の中に寄生しながら、「日本経済を破壊する経済政策」を推し進めるであろう。
Posted by SN at 2014年12月03日 19:46
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