す。昨日のEJで分析した2011年度末に比べて213兆円増
加しています。数字だけを見ると厳しい数字であり、これによっ
て安倍政権は8%の消費税増税決断に追い込まれたのです。
しかし、驚くことはないのです。この数字には本来国の債務と
はいえないものが多く含まれているからです。まず、返済の道筋
のついている地方債務の約200兆円と建築国債の256兆円は
昨日のEJで述べたように、国の負債総額からは外すべきです。
そうすると、日本の負債総額は651兆円になります。
このうち、赤字国債は452兆円であり、これこそ本当の債務
です。残りの約200兆円は政府短期証券などです。この国債は
為替介入をするさいに発行されるものですが、そのために外国為
替特別会計にはGDPの20%に当たる約100兆円を超える外
貨準備があり、これも債務総額から外すべきです。
先進国でこんな巨額の外貨準備を持つ国はありません。日本の
次に大きな外貨準備を持つカナダでさえ、せいぜいGDPの2%
程度のものです。まさに桁が違うのです。
そうすると、日本の本当の債務は452兆円になります。耳に
タコができるほどいわれる1000兆円ではなく、その半額以下
の債務になります。対GDP比は約90%。これは米国並みの数
字であり、財政危機というレベルではないのです。
それに452兆円はグロスの数字なのです。日本には200兆
円を超える金融資産もあり、赤字国債に対応する十分な資産を有
しています。ただし、税収が増えないと100兆円に近い予算を
組んでいれば、赤字国債の残高は増える一方です。したがって、
本当のムダを切る歳出削減と経済成長による税収増加が不可欠に
なります。消費税増税などは、それに逆行する政策です。増税で
財政再建に成功した国はないからです。
ここで、日本という国家のバランスシートについて考えます。
日本国のバランスシートは、元財務官僚の高橋洋一氏が理財局資
金企画室長のときにはじめて作成したといわれます。これは財務
省からみると、きわめて迷惑な話だったのです。なぜなら、バラ
ンスシートを作られると、隠しておきたい国の資産が白日の下に
晒されていまうからです。
日本国のバランスシートを添付ファイルにしてあります。これ
は、政治評論家の三橋貴明氏が、2010年6月の速報値に基づ
き、日本銀行の資金循環統計から作成したものです。以下は、三
橋氏の論説を参考にして解説することにします。
三橋貴明氏は、バランスシートを見る場合、次の2つの原則を
知っておくべきであるといっています。
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【原則1】
誰かの負債は誰かの資産。誰かの資産は誰かの負債
【原則2】
国=政府ではなく、政府の借金は国の借金にあらず
―――――――――――――――――――――――――――――
日銀は、統計をとるさいに、国の経済主体を次の5つに分類し
ています。
―――――――――――――――――――――――――――――
1. 政府
2. 金融機関
3. 非金融機関
4. 家計
5. NPO/民間非営利団体
―――――――――――――――――――――――――――――
バランスシートを見ていただきたい。借方(左側)には資産、
貸方(右側)には負債が計上されています。これを見ていえるこ
とは、日本は総資産が総負債を上回っていることです。
その証拠に、貸方の一番下に純資産268・1兆円計上されて
います。米国では、この関係が逆になっていて、借方に純負債が
計上されているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
資産合計 負債合計
5590兆6000億円>5322兆5000億円
―――――――――――――――――――――――――――――
借方の一番上の数字「481・9兆円」は日本の金融資産の数
字です。この資産は金融資産だけで、不動産などの固定資産は含
まれていないのです。これはダントツで世界最大です。世界2位
は米国ですが、連邦政府と地方政府を合わせても約350兆円に
過ぎないのです。これでも十分に巨額の資産ですが、日本の資産
は、それをはるかに上回っているのです。
貸方を見てください。冒頭の「1001・8兆円」が、財務省
が強調する「1000兆円を超える国の借金」です。しかし、こ
れは、政府の負債に過ぎず、すべての負債を合計すると5000
兆円を超えるのです。
しかし、それに見合う資産は借方にあるのです。【原則1】に
あるように、誰かの負債は誰かの資産なのです。日本国債の債権
者の多くは国内金融機関で、政府が過去に発行した国債のほとん
どは借方に金融機関の資産として計上されています。そしてその
国債を購入する資金源は金融機関の貸方の2744・4兆円であ
り、そのほとんどは日本国民や企業の預金なのです。
「1000兆円を超える国の借金」の正体は、日本国民や企業
が貸している政府の負債なのです。財務省やその御用学者たちは
それを人口で割り、「国民一人当たり○○○円の借金」と喧伝し
ているのです。きわめて悪質なミスリードであるといえます。
なお、純資産の268兆円は、日本の対外資産約565兆円か
ら対外負債を差し引いた額なのです。これほどの純資産を持って
いる国は日本だけであり、日本は国としてみると、大変な金持ち
の国家なのです。そんな国に、どうして消費税の増税が必要なの
でしょうか。 ─── [検証!アベノミクス/10]
≪画像および関連情報≫
●現代ビジネス「ニュースの深層」/高橋洋一氏
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参院選後の世論調査で消費税増税に58%が反対している。
消費税増税について、2012年12月の衆院選でも、今回
の参院選でも、直接国民に信を問うていないが、間接的には
反対だろう、消費税増税へ道筋をつけた民主党は、衆院選、
参院選それぞれで惨敗している。消費税増税について、「増
税しないと国債暴落になる」、「増税を先送りすると株価が
下がる」、「増税しないと国際公約違反になる」、「増税し
ないと社会保障ができなくなる」、「増税しないと財政再建
できない」とかいう意見については、8月5日付け本コラム
(http://bit.ly/1FGBdTM) などで、ウソであると書いてき
た。それでも、財務省は必死に「国の借金が酷い」と増税を
訴えてくる。「日本には1000兆円の借金がある。国民一
人当たりに換算すると800万円にもなる」「債務残高GD
P比200%は世界一だ」――こんな話をメディアを通して
聞いたことがある読者も多いだろう。国の借金が初めて10
00兆円を超えたと報道された。財務省が8月9日「国債及
び借入金並びに政府保証債務現在高」の数字が1008兆6
281億円と発表したからだ。しかし、なぜ、国のバランス
シート(B/S)を見ないのか。それをみると、負債合計は
国の借金を包括的に表しており、それが「国の借金」にふさ
わしい数字だ。 http://bit.ly/1w5qQch
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●グラフの出典/「日経ビジネス」http://nkbp.jp/1A2mK3e
日本国のバランスシート/2010年10月