EJ402号(6月16日)について何本かご意見が寄せられ
ています。402号では、ビートルズの「ヘイ・ジュード」につ
いてお話ししたのですが、さすがビートルズについてはファンが
多く、EJ402号で示した解釈について異論が出たのです。
ご指摘の内容は、そもそも「ヘイ・ジュード」という曲は、ジ
ョン・レノンと彼の前妻であるシンシアとの間に生まれたジュリ
アン・レノンを励ますためにポール・マッカートニーが作った曲
ではないかというものです。「ジュード」という名前は、ジュリ
アンのことであるというのです。
ティム・ライリー著/岡山徹訳『ビートルズ全曲解説』による
と、次のように書いてあります。
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『もともとこの曲は、ジョンとシンシアの間に生まれたジュリ
アン・レノンをある日、ポールが車で家に送るときに、彼をは
げますために即興でつくった歌だった。ジョン夫妻は離婚が決
まり、急に宙ぶらりんになった子供にたいして、ポールの思い
やりは向けられている。歌詞が完成しないままで、彼はこの歌
をもち込んでジョンに聞かせている』。(ティム・ライリー著
/岡山徹訳『ビートルズ全曲解説』P282)
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この本の著者であるティム・ライリーは、1960年に生まれ
たピアニストであり作曲家ですが、現在はボストンのFM局WB
URで音楽の解説者として活躍中です。
とくに、その著書『ビートルズ全曲解説』は419ページに及
ぶ大著であり、ひとつずつの曲の解説は実に懇切であり、その曲
が誕生するいきさつについても詳細です。とくに「ヘイ・ジュー
ド」については、5ページ半を割いて詳しく解説しています。
ですから、「ヘイ・ジュード」の生まれたいきさつも本当のこ
とだと思います。しかし、歌詞の内容は子供のジュリアンを励ま
す内容とは考えられないのです。
しかし、ビートルズ評論家の説とはぜんぜん別の角度からこの
曲を取り上げているのは、ウィルソン・ブライアン・キイという
教授なのです。キイ教授は、サブリミナル(潜在意識)研究の第
一人者であり、次の2つの本で独特のサブリミナルの研究成果を
発表しているのです。題名が強烈なのでご存知の方もおられるの
ではないかと思います。
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『メディア・セックス』
・W・B・キイ著、植島啓司訳 リブロボート刊
『メディア・レイプ』
・W・B・キイ著、鈴木晶・入江良平訳 リブロボート刊
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キイ教授は、『メディア・セックス』において、「サブリミナ
ル・ロック」という章を設けて、ポピュラー音楽に仕掛けられて
いるサブリミナル・テクニックについて解説しています。サブリ
ミナル・メッセージは、比較的に単純な歌詞や音楽上のイリュー
ジョンの中に隠されているとしています。
キイ教授は、ビートルズについては、本来の歌詞の裏に別の意
味が隠されているとして、次のように述べているのです。EJ4
02号で私が述べた説は、このキイ教授の説なのです。質問もあ
りましたので、少し長くなりますが、本から引用します。
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『「レボルーション」は政治を題材により、ジョン・レノンに
よって歌われた。――彼はビートルズの中で象徴的な父親の役
割を演じていた。そして、母親役がポール・マッカートニーで
「ヘイ・ジュード」を歌い、苦悩からの逃避をドラッグという
形で示し、スピリチュアルな支えとなった。
「ジュード」の2つの意味が、やはり象徴的に隠されている。
つまり、ジュードは、見せかけの友情のもとで、キリストを裏
切ったユダを指示しているのだ。たしかにヘロインは、後に使
用者を裏切って中毒にさせるまでは友達と思えるものである。
第二の可能性は、道徳的に乱れた社会で偽善的に生きるキリス
ト教徒たちに警告を発した使徒ジュードである。マッカートニ
ーの心を惹く声は「彼女をきみの心の中に入れなさい」と歌う
が「彼女」とはドラッグを意味し、「心」とはドラッグを血液
中に循環させるポンプを指している――そうすれば、「きみは
もっとうまくやれるだろう」』。(『メディア・セックス』W
・B・キイ著、植島啓司訳 P198、リブロボート刊)
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この歌をポールがジョンに聞かせたとき、ジョンは「あ、これ
はぼくのことだろ」といったという記録があります。ポールはそ
れに対して「いやあ、ぼく自身のことだよ」といったそうです。
しかし、歌詞から判断すればこれはジョンを指していると考えら
れます。
ジョンがヨーコにのめり込み、シンシアと離婚した時期に、ち
ょうどポールも長年付き合っていた恋人で女優のジェーン・アッ
シャーと別れているのです。したがって、ポールは「ぼくのこと
さ」と反論するのもわかるのですが・・・。
さて、「ジュード」は英語読みですが、これをラテン語読みに
すると「ユダ」になることは事実です。しかし、いくらなんでも
これはキイ教授の深読み過ぎでしょう。キイ教授のいいたいこと
は、ビートルズは、世界中のティーンエイジャーたちの間に幻覚
を引き起こすドラッグを広めたということです。つまり、ドラッ
グの使用をポピュラーソングを通じて大衆に訴えるというという
ことをやったのは、ビートルズをもってはじめとするとキイ教授
はいうのです。
ついでながら、キイ教授は、ポール・サイモンとアート・ガー
ファンクルの名作「明日にかける橋」についても、そういうサブ
リミナル・テクニックが使われているといっていますが、これに
ついては、号を改めて取り上げることにします。
−− [続ビートルズの話題/01]
2000年06月26日
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