2007年05月01日

モザイクはなぜブレイクしたのか(EJ第2071号)

 ここで、ティム・バーナーズリーのシステムの発想について述
べる必要があると思います。それは、それまでのシステムの考え
方と大きく異なっているからです。
 WWWの情報検索には、「ハイパー・テキスト」という技術が
使われています。この技術の構想は1945年頃、米カーネギー
大学のヴァネバー・ブッシュによって唱えられたものです。これ
をコンピュータ上で実現する方法を紹介したのが、テッド・ネル
ソンです。ハイパー・テキストとは、関連のある単語と文章が互
いにリンクされた文書の集合体のことです。
 このハイパー・テキストは、昨日今日使われだした技術ではな
く、PCの分野では何年も前から使われてきた技術です。アップ
ルの「ハイパーカード」にはじまり、ウインドウズのオンライン
ヘルプ、CD−ROMなどがそうです。
 しかし、ネットワークには対応していなかったのです。そのた
め、ハイパーテキストは、そのマシンの中にある内容しか利用で
きないという制約があったのです。外部からの寄稿で情報の充実
を図ったり、他の知識ベースにも接続できなかったのです。
 テッド・ネルソンは、これらの問題点を解決し、ネットワーク
上で世界中の出版物をハイパー・テキスト化する構想を次のタイ
トルで発表したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
       XANADU ・・・ ザナドウ
―――――――――――――――――――――――――――――
 「ザナドウ」という名前は、コンピュータ・ゲームにも取り上
げられ、その面で有名になりましたが、肝心のテッド・ネルソン
の「ザナドウ」は、一向に実現しなかったのです。これについて
『インターネット激動の1000日』の著者、ロバート・リード
は次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ザナドウ・プロジェクトに関するすぐれた記録を書いたワイア
 ード誌のゲリー・ウルフによると、ザナドウは「人間の生活を
 まったく新しい形に変える、世界共通の大衆的なハイパー・テ
 キスト・ライブラリーになるはずだった」。ところが、実際に
 は、「30年にわたる過激なプロトタイプ開発と、深い絶望の
 物語」に終わった。
            ――ロバート・リード著/山崎洋一訳
 『インターネット激動の1000日/WWWの地平線を切り開
           くパイオニアたち』上巻 日経BP社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 テッド・ネルソンの考えるザナドウは、システム内の多数のフ
ァイルに埋め込まれた膨大なハイパーリンクのリンク先をすべて
認識して追跡するシステムだったのです。こうすることによって
ファイルが削除されたり移動したりしたときに、ハイパーリ
ンクの情報を自動的に更新できるのです。
 全体をシステムと考えると、テッド・ネルソンの考え方は当然
のことです。しかし、システムの規模が大きく拡大すると、これ
は非常に実現困難になります。まして、情報が自己増殖し、世界
中に拡大するようになると、到底不可能となります。
 これに対して、ティム・バーナーズリーのWWWの考え方は、
次の言葉で象徴されるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     うまくいかないことがあれば、仕方がない
―――――――――――――――――――――――――――――
 ある意味において、これはシステムとしていい加減な考え方で
あるといえます。しかし、これなら、続々とファイルが追加され
規模が拡大しても問題がないのです。その代わり大部分のものは
正しいリンク先にたどり着くが、たまにはたどり着かないで終わ
ることもある――これが「仕方がない」ということなのです。
 インターネットというネットワークはそういう「仕方がない」
ことが多いのです。電子メールについても、そういうところがあ
ります。それは、インターネット・メールは届かないことがある
という点です。しかし、それを前提として、届かなったことを伝
えるエラーメッセージが用意されている――そういうようなシス
テムになっているのです。
 テッド・ネルソンがザナドウで提唱したようなシステムとして
の厳密さをあきらめて、欲しいデータを探すツール――検索エン
ジンの技術的向上によってそれを補うという考え方です。実際に
現在では、グーグルのような優れた検索エンジンが登場し、WW
Wは十分機能しているといえます。
 しかし、ティム・バーナーズリーは、WWWをあくまで学者や
研究者の間で使うシステムと決めていたフシがあるのです。その
点は、アンドリーセンの考え方とは全く相容れなかったのです。
 アンドリーセンをはじめとするNCSAのメンバーは、きわめ
て実用主義的であり、人々が求めるものを作ろうとしたのです。
グラフィックスを取り入れて分かりやすく楽しいものにしようと
したのです。一枚の写真は千の言葉に勝るからです。この効果は
大きかったのです。
 その結果、WWWは結婚式のスナップから、スタートレックの
写真集、クリンゴン星人の写真からヌード写真まで――そういう
画像であふれかえるようになったのです。そのため、モザイクは
大変な評判となり、利用者は急増することになったのです。
 これに怒ったのは、ティム・バーナーズリーです。彼はアンド
リーセンに電話を入れ、「WWWに画像を入れるとは何事か」と
抗議したというのです。彼としては、学者や研究者のために作っ
たWWWがくだらない画像であふれかえるのに我慢がならなかっ
たものと思われます。
 このことが、その後に開かれたWWW開発者会議において、ア
ンドリーセンがバーナーズリーに口をきかなかった原因ではない
かといわれているのです。さらに1993年の終わりにもうひと
つの問題が起こります。 
―― [インターネットの歴史 Part2/37]


≪画像および関連情報≫
 ・プロトタイプ(英prototype)とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  プロトタイプとは、デモンストレーション目的や、新技術・
  新機構の検証、量産前での問題点の洗い出しのために設計・
  仮組み・製造された、試験機・試作回路・コンピュータプロ
  グラムのことを指す。新製品を量産に移す前など、試験用途
  として作られ、製品の設計に起因する問題や、その他の不具
  合を発見することができ、具体的な修正の検討に入ることが
  できる。こうすることにより、量産して市場に出た後で不具
  合が発覚することを防ぐことができる。
                    ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

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posted by 平野 浩 at 09:33| Comment(0) | TrackBack(0) | インターネットの歴史 Part2 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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