2014年08月07日

●「日本の高度経済成長には謎がある」(EJ第3849号)

 高度経済成長のさなかに企業に入社し、会社生活を送った人は
自分が渦中にいたのでそれと気がつかないと思いますが、日本の
高度経済成長にはエコノミストにも理解できないことが多くある
のです。リチャード・ヴェルナー氏の分析を参照にして、その謎
を解いていきます。
 1980年代の日本の怒涛のような対外投資の現象について、
世界のエコノミストたちは理解に苦しんでいたのです。一般的に
考えられたことは「資本規制の撤廃」です。確かにこの時期には
外為法が改正され、80年代を通じて法的規制は徐々に緩和され
ていたからです。しかし、実際には日本の大手の機関投資家は、
外国投資の限度をはるかに下回る投資しかしていないのです。
 もうひとつの考え方として、日本の貯蓄率の高さが原因である
という説があります。しかし、なぜこの時期に日本の貯蓄率がこ
んなに高いのかという点を究明できていないのです。
 不思議なことは対外投資だけではないのです。1980年代後
半の地価と株価は次のような異常な上昇を示しているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1985年1月〜1989年12月
        ◎地価 ・・・・・ 240%
        ◎株価 ・・・・・ 245%
―――――――――――――――――――――――――――――
 地価は、GDPの伸びと歩調を合わせるものであり、GDPに
対する地価の比率は「1」前後になるのが普通なのです。ちなみ
に、1989年の米国のこの比率は「0.7」 と低かったのです
が、日本は「5.2」 なのです。あきらかに異常な数値であると
いえます。
 1980年代に海外に溢れ出たジャパンマネーは、対外投資に
だけ使われたわけではなく、その多くは企業の設備投資に投入さ
れています。企業の多くは本社の新築や各地の工場の建設、贅沢
な社宅や保養施設などが次々に建設されたのです。このようにし
て、1985年から1989年までに303兆円の資本投資が行
われています。これに伴い、企業も社員を増やしたので、労働市
場は逼迫し、人手不足が心配されるような事態になったのです。
 それでいて、これほどの高成長と労働市場の逼迫にもかかわら
ず、消費者物価指数によるインフレ率は、驚くべきほど低位にと
どまっていたのです。これには多くの経済に携わる人たちが絶賛
したのです。当時諸外国が長期的失業とインフレに悩まされてい
ただけに、その驚きが大きかったのです。
 さらに奇妙なことは、1990年代に入ると、あの怒涛のよう
な日本の対外投資は、まるで潮が引くようにあらゆる分野から消
えてしまったのです。リチャード・ヴェルナー氏は、この現象に
ついて次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本の対外投資に関する経済モデルは、対外投資が急増した時
 期に焦点をあてたが、この現象を説明できなかった。このモデ
 ルは、1990年代の出来事の説明となるとさらに惨めなこと
 になる。1991年、日本の経常収支黒字は900億ドルに達
 して、さらに記録を書き換えたが、純長期投資の輸出はとつぜ
 んにかき消えてしまった。日本の長期資本は10年あまりでは
 じめて400億ドルの入超になった。日本の投資家が売り越し
 た外国証券は記録的な額になった。1991年もこの状態が引
 き続き、日本の対外資産売買は売りが買いを上回った。製造業
 者から銀行、不動産会社まで、ジャパン・マネーはあらゆる戦
 線からとつぜん引き上げていった。
         ──リチャード・ヴェルナー著/吉田利子訳
  『円の支配者/誰が日本経済を崩壊させたのか』/草思社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 1990年代に入ると事態は一変したのです。資産価値は下落
し、1990年1月から1994年12月までに株価も地価も半
値になったのです。バブルは崩壊し、1930年代以来の最大の
不況が日本を襲ったのです。
 これまで日本の経済パフォーマンスを称賛し、日本型経営スタ
イル──メインバンクによる企業監督、家族主義の企業システム
などの日本の特性を推奨していたエコノミストたちは、それらは
身びいきや腐敗や透明性の欠如以外の何ものでもないと手のひら
を返して批判するようになり、日本には構造改革が必要であると
いう主張に変わったのです。
 これについて、リチャード・ヴェルナー氏は、まったく違う考
え方を持っていたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1980年代のバブルも、1990年代の不況も、日本の構造
 に原因があったわけではない。伝統的な理論で日本の資産価値
 を説明できなかったのは、信用創造の役割を無視していたから
 だ。信用創造プロセスを理解していれば、状況はしろうとにも
 わかったはずだ。──リチャード・ヴェルナー著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここで注目すべき言葉は「信用創造」です。「信用創造」とは
何でしょうか。ごく簡単な例で説明します。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.A銀行はX社から1000円の預金を預かる
   2.A銀行は預金から900円をY社に貸し出し
   3.Y社はZ社に対して900円の支払いをする
   4.Z社は受け取った900円をB銀行に預ける
―――――――――――――――――――――――――――――
 この場合、預金の総額は「1900円」になります。もともと
1000円しかなかった貨幣が1900円に増えています。これ
は、Y社が900円の債務を負い、その返済を約束することで、
900円分の「信用貨幣」が発生したことを意味しています。こ
れを「信用創造」と呼ぶのです。日本のバブルはこのメカニズム
から発生したのです。     ──[新自由主義の正体/63]

≪画像および関連情報≫
 ●「日本銀行のヒミツ」/リチャード・ヴェルナー幻の書
  ―――――――――――――――――――――――――――
  日本の金融システムは、アメリカなどに比べると、銀行を介
  した間接金融のウェートが大きい。戦後の経済発展も、間接
  金融によって支えられてきたといっていい。それが数年前か
  ら、日本の金融システムを直接金融にシフトさせようとする
  動きがある。企業は主に証券市場から資金調達すればいいと
  考える人たちがいるのだ。しかし、間接金融と直接金融は、
  そう簡単に入れ替えられるものではない。ふたつのシステム
  が経済に果たす役割には、根本的な違いがあり、それぞれに
  役目がある。直接金融では、投資家(企業や個人)がマーケ
  ットを通して企業に資金を提供する。つまり、おカネをAか
  らBへ移動させるだけで、総量がふえるわけではないので、
  経済成長にはつながらない。一方の間接金融は、市場に銀行
  を通じて資金が移動するだけと考えられがちだ。だがそこで
  は銀行が持つ特殊な機能が発揮され、無視できない影響を経
  済に与えることができる。「信用創造」と呼ばれる機能だ。
  主流の経済理論では、民間銀行は「金融仲介機能」として扱
  われている。ところが、実際の銀行は、まったく別の役割も
  果たしている。自分の帳簿の上で、無からおカネをつくるこ
  とができるのだ。         http://bit.ly/1qFVqm7
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リチャード・ヴェルナー.jpg
リチャード・ヴェルナー
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新自由主義の正体 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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