このように書きました。社会のモラルは低下の一途をたどり、教
育水準は下がる一方です。警察の検挙率は先進七ヶ国中最低、子
供たちはゆとり教育とやらで1日25分しか勉強しないので、学
力は下がる一方になっています。日本はどうしてこんな国になっ
てしまったのでしょうか。
フランスの小咄にこういうのがあります。
タイタニック号が沈むときの話です。女性と子供を先に逃がす
ために、一等航海士が特等室のお客を説得に回ったのです。その
とき、国別に説得の方法を変えて全員の説得に成功しています。
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英 国人のお客には、あなたがもし、ジェントルマンだったら
同意してください。
米 国人のお客には、あなたが、ヒーローになりたかったら、
同意してください。
ドイツ人のお客には、これは、船長からの命令です。同意して
いただけますね。
日本人のお客にには、皆さん同意されています。いいですね。
同意してください。
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これは、国の特徴をよくとらえています。日本は、周りを見渡
して、「みんながやっているとやる」、「誰もしていないとやら
ない」と見られているのです。あのカルロス・ゴーン社長は、こ
の話を覚えていて、日産自動車の立て直しのとき、渋る社員たち
を「みんなやってるぞ、やれ」といってやらせたといいます。
これは、日本人に行動の基準――正しいと信ずる基準がないこ
とを意味しています。周りを見てそれによって行動を決めている
ようなところがあるのです。そのため、武士道精神が必要なので
す。日本人が勇気や自信を取り戻すために必要なのです。
映画『ラストサムライ』では、当然ですが、武士道について話
し合う場面が多く出てきます。その中でとても印象に残っている
場面があります。
オールグレンは、吉野では勝元の子息である信忠の家で寝起き
をさせられます。その家には「たか」という女性とたかの子供の
「飛源」がいたのです。実は、たかの夫は「広太郎」というので
すが、戦場でオールグレンに殺されているのです。
たかはもちろんのこと、信忠、たか、飛源――いずれもそのこ
とを知っていますが、オールグレンだけは知らされていなかった
のです。それに、信忠、たか、飛源の3人のオールグレンに尽く
す態度があまりにも誠意に満ちていたので、そのようなことは考
えてもいなかったのです。
彼らはなぜそのような態度がとれたのでしょうか。
それは、武士はやむを得ざる戦いで死ぬのは「天命」と考えて
いたのです。映画では次のシーンでそれが示されます。自分の夫
を殺した男――オールグレンの面倒を見ることに耐えかねたたか
は、兄の勝元に「彼に出て行って欲しい」と頼むシーンです。
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たかの家/昼
たか:これ以上、辱めを受けるなら死なせてください。
勝元:言うとおりにできんのか。仇をとれば気が済むのか?
たか:・・・はい。
勝元:広太郎は戦で死んだ。天命だ。
たか:分かっています。すみません。
勝元:(優しい口調になり)わしもな、たか、なぜ、奴がこ
こにいるのかよく分からん。
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最後の勝元のセリフによって、勝元はオールグレンを軟禁して
いたわけではないことがわかります。きっと、いつか出て行くと
思っていたのでしょう。しかし、オールグレンは氏尾に剣術を習
い、村のこどもと遊び、吉野の村の人気者になっていきます。
そういうなかで、オールグレンは途中から自分がどういう家に
住んでいるか知るのです。神社の小部屋にまるで生きているよう
に置かれている赤い鎧の男について勝元に質問し、すべてを知っ
たのです。
そういう伏線があって、印象に残るシーンがやってきます。そ
れは政府軍との戦いが決まったある夕暮れ、たかの家でオールグ
レンは正座してたかと向き合っています。飛源もそこにいます。
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たかの家/夕暮れ
飛源:お前も白人と戦うのか?
オールグレン:そうです。もし、来れば戦う。
飛源:どうしてだ?
オールグレン:愛する人を殺すから。
オールグレンを見るたか。心が動いている。突然、飛源は立ち
上がると部屋から飛び出して行く。たかを見るオールグレン。
たか:武士道は子供には、分かりにくいものなのです。まし
てや、あの子は父を失ったのですから。
オールグレン:飛源の父は自分が殺した。だから怒っている
のでは・・・。
いつまでも、それにこだわるオールグレンを見て、たかの顔に
笑みが浮かぶ。
たか:いいえ。あの子は。あなたが死んでしまうのが怖いん
です。
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とても印象に残る素敵なシーンだったと思います。戦いで死ん
だ者を天命と考えて、それがたとえ肉親でも、こだわりを捨てて
個人的恨みをいっさい抱かない――なかなかできることではない
ですが、勝元やたかの態度がそれを示しています。
それにしてもたかを演じた小雪という女優――心理的に複雑な
役柄を印象深く演じていると思います。
−− [ラストサムライ/07]