2014年06月17日

●「レーガノミックスの成果とは何か」(EJ第3813号)

 レーガンが目指したのは、供給側を強くする「サプライサイド
経済学」です。新自由主義はこの経済学を前提にしています。
 マクロの経済活動は、「総需要」と「総供給」の均衡によって
決まるのですが、サプライサイド経済学では、その総供給サイド
に着目するのです。次の「1」がサプライサイド経済学の考え方
ということになります。なお、ここで「右側にシフトする」とい
うのは総供給ないし総需要を強化するという意味です。
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 1.所与条件一定の下で、総供給曲線を右側にシフトさせる
   と、国民所得が増加し、物価水準が低下する。
 2.所与条件一定の下で、総需要曲線を右側にシフトさせる
   と、国民所得は増加し、物価水準が上昇する。
        ──ウィキペディア http://bit.ly/1oZvqTZ
―――――――――――――――――――――――――――――
 サプライサイド経済学の狙いは、企業を縛っている規制を出来
る限り撤廃して、企業に自由競争をさせることによって、供給能
力を高めようとするものです。
 現在の安倍政権が進めている改革も、規制──とくに労働規制
を撤廃し、法人税を下げて企業活動を活性化させようとしている
ので、サプライサイド経済学に立脚しているといえます。
 しかし、冒頭に述べたように、新自由主義やそれに基づく規制
改革、グローバリズムは、インフレを前提としている改革なので
すが、日本はデフレ下にあります。したがってこれは、かなりお
かしなことをやっていることになります。
 それでは、サプライサイド──企業側を強くして供給力を強化
しても、需要側である国民にはどういうメリットがあるのでしょ
うか。それは次の2つで説明されるのです。
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          1.  セイの法則
          2.トリクルダウン
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 「1」の「セイの法則」は、EJでは何度も説明しているよう
に、「供給はそれ自身の需要を創造する」という考え方です。こ
れは、要するにものは作りさえすれば、売れるということを意味
しています。
 しかし、「セイの法則」が働かない局面はたくさんあります。
この場合は、供給量は需要の水準によって制約を受けるので、政
府が人為的に需要を追加してやる必要があるのです。やはり裁量
的な政府の追加支出は必要なのです。
 「2」の「トリクルダウン」は、「富める者が富めば、貧しい
者にも自然に富が浸透する」とする経済思想です。これについて
神野直彦東京大学名誉教授は、トリクルダウン理論は有効ではな
いとして、次のように述べています。
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 トリクルダウン理論が有効となるには「富はいずれ使用するた
 めに所有される」「富を使用することによって充足される欲求
 には限界がある」という2つの前提が成立しなければならない
 が、現代では富は権力を得る目的で所有されているので、この
 理論は有効ではない。     ──神野直彦東京大学名誉教
―――――――――――――――――――――――――――――
 以上のことを前提にして、レーガノミックスで何が行われたか
について考えてみます。本来レーガノミックスの目指したものは
需要の増大に供給能力が追いつかないという事態を改善するため
に、供給能力を高めることによって需給ギャップを解消しようと
したはずです。しかし、結果は逆に需要を膨大させ、需給ギャッ
プをかえって広げてしまっているのです。
 その原因は何でしょうか。原因は2つあります。
 1つは、軍事費と財政赤字を賄うために膨大な国債を増発した
ことです。そしてインフレを退治するために、通貨供給を抑制し
金利を引き上げたことです。これに対してレーガンの時代に推進
された金融自由化によって、高金利を求めて海外からドル買いが
殺到したのです。その結果、経常収支の赤字を資本収支の黒字で
埋める構造が定着したのです。
 本来であれば経常収支が大幅な赤字であることに加えて法人税
を減税したのですから、ドルは下落するはずですが、ドル高と高
金利は維持されたのです。その結果、米国企業の海外直接投資と
多国籍化を一層促進して、国内における供給力の強化には結びつ
いていないのです。
 2つは、大幅減税によって消費が拡大したことです。1983
年からの景気の回復はこの減税効果が大きかったのです。しかし
高金利とドル高は米国経済に打撃を与えて、1982年には実質
経済成長率はマイナス1.9 %になったのです。それでも、ボル
カーFRB議長による高金利政策、インフレ退治は維持されたの
です。そのため、レーガン大統領の支持率は1983年には32
%に落ち込んだのです。
 一方ドル高によって海外からの輸入は激増し、貿易収支は年々
増加の一途を辿ったのです。
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    ≪年々増大する貿易赤字≫
     1980年 ・・・・・  255億ドル
     1984年 ・・・・・ 1000億ドル
     1985年 ・・・・・ 1222億ドル
     1986年 ・・・・・ 1451億ドル
     1987年 ・・・・・ 1596億ドル
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 レーガノミックスはサプライサイド経済学といいながら、軍事
費の増大や、大減税による莫大なる財政支出によって景気回復が
もたらされたともいえるのです。これではケインズ経済学そのも
のです。そして、レーガン政権末期にはどうにもならない状況に
いたるのです。        ──[新自由主義の正体/27]

≪画像および関連情報≫
 ●「トリクルダウン春闘」とは何か
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  2014年3月16日の東京新聞朝刊「時代を読む」欄に浜
  矩子さんが「あなたの春闘、何春闘?」との一文を書かれて
  いた。「『官制春闘』というネーミングは悪くないが、むし
  ろ『強権春闘』、さらに言えば『恫喝春闘』、『劇場春闘』
  だ」と冒頭述べられ、浜さんとしては、政府は「トリクルダ
  ウン春闘」と名付けるかもしれない、と指摘した。久しく、
  ネーミングすることもも忘れ去られた「春闘」だが、それな
  りに理解できる。「トリクルダウン」とは、滴のように落ち
  る現象であり、政府は大手企業にベア実施させれば、消費拡
  大、景気回復、デフレ脱却になるとのシナリオを描いたが、
  浜さんは以下の通り一喝した(要約)。
   第一に、トリクルはダウンしない。その行き先はダウンで
  はなく、ラウンドだ。富は富める者から富める者へとグルグ
  ル回るメリーゴーラウンドだ。回転木馬に参加している人々
  は富むが、その外に排除されているいる人々にとっては、何
  も変わらない。決してトリクルはおきない。大手企業の正社
  員たちが、ベア・バブルに打ち興じたところで、そのおかげ
  で、誰がどこでどれだけ潤うというのか。浮かれ消費が多少
  盛り上がっても、その恩恵はどこにどうトリクルダウンする
  のか。回転木馬の速度が上がるだけの話だ。トリクルダウン
  効果を強く主張した英のサッチャー政権下においても、米の
  レーガン政権下においても、経済格差は拡大した。第二に、
  そもそもトリクルダウンという言い方がいけない。何とも、
  けち臭くて、差別的だ。いかにも、おこぼれちょうだいのイ
  メージである。下々の者たちは、上の方からチョロチョロと
  たれ落ちてくる水の一滴・二滴にすがって生きていけ、それ
  を干天の慈雨だと心得よ。これを政策というのか。政策は、
  水路なきところに水路をつくるためにある。放っておけば、
  トリクルダウンを待つほかはない世界に、トリクルダウンを
  当てにしないで済む状況を醸成する。それが政策の役割だ。
                   http://bit.ly/1mUnMWy
  ―――――――――――――――――――――――――――

浜矩子氏.jpg
浜 矩子氏
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新自由主義の正体 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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