2014年06月12日

●「減税するとなぜ税収が増えるのか」(EJ第3810号)

 ロナルド・レーガンの経済政策は、明らかにミルトン・フリー
ドマンが主張する政策を下敷きにしています。ところでレーガン
とフリードマンはどこで出会ったのでしょうか。
 その接点は明確ではないのですが、レーガンにスカウトされた
という説もあります。昨日のEJでご紹介した若田部昌澄教授は
次のように2人の関係を指摘しています。再現します。
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 ロバート・サミュエルソン(コラムニスト)は,レーガンが、
 「ミルトン・フリードマンのような人物に影響をうけ、インフ
 レは貨幣的現象であることを理解していたから」だという。
              ──若田部昌澄著「歴史としての
       ミルトンフリードマン」 http://bit.ly/1kc20fb
―――――――――――――――――――――――――――――
 アーノルド・シュワルツネッガー元カルフォルニア州知事は既
に述べているように、フリードマンの信奉者であり、カルフォル
ニア州知事の先輩であるレーガンも、もしかしたら、知事時代に
会っていたのかもしれません。
 なお、レーガンは、大統領時代の1988年にフリードマンに
アメリカ国家科学賞と大統領自由勲章を授与しています。実は、
中曽根内閣も1986年に勳一等瑞宝章を授与しているのです。
レーガン元大統領と中曽根元首相は、「ロン/ヤス関係」で知ら
れるように仲が良く、その経済政策でも共通する面があったので
すが、2人ともフリードマンの政策について、強い関心をもって
いたことがこれでわかります。
 さて、レーガンが大統領就任直後に発表した「経済再建プログ
ラム」は、その発表直後から賛否両論があったのです。ここに、
その経済政策の実効性について、ミルトン・フリードマン教授と
ポール・サミュエルソン教授の論争があるのでご紹介することに
します。フリードマンは「F」、サミュエルソンは「S」と表記
しています。
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 ◎「経済再建プログラム」の評価は?
  F:連邦支出削滅の詳細かつ包括的計画を高く評価する。
  S:福祉国家を求める流れに訣別する試みで、1920年代
    の不平等の復活でインフレ問題は解決できない。
 ◎財政の均衡化は可能か?
  F:提案されているのは税収のカットではなく、税率の引き
    下げであり、これは、税収の伸びを鈍化させるだけであ
    る。歳出はより低いペースの伸びである。規制緩和や安
    定的な通貨供給により経済が活発化し、財政にプラスに
    働く。
  S:「税率は引き下げるが、歳出は削減しなくてよい」とい
    うラッファーはインチキである。非国防関係支出の大幅
    カットにより、予算収支をバランスさせても、次に景気
    後退をもたらすだけだ。
 ◎連邦支出の削減は公正か?
  F:貧しい人々の利益を考慮している。
  S:とても公正とは言えない。
 ◎減税は公正か?
  F:減税効果は広く行き渡る。公正の判断は客観的なもので
    ない。
  S:中流階層底辺以下の人々にとって公正でない。保守派に
    とってはレーガン大統領は救世主であり、政策の実効性
    に肯定的であるが、リベラル派にとってはレーガン大統
    領の再建計画は福祉国家の建設を放棄する危険な計画で
    あり、その政策の実効性に懐疑的である。
      ──「ニューズウィーク」/1981年3月2日号
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 上記のサミュエルソン教授が発言している「ラッファーはイン
チキである」の「ラッファー」とはラッファー曲線のことです。
ラッファー曲線は、供給サイド経済学の基本になるものです。
 アーサー・ラッファーという経済学者がいたのです。1980
年代にラッファーは次のように主張したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      税率を下げれば、政府の税収が増える
           ──アーサー・ラッファー
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 「税率を上げれば・・」の間違いではないかと一瞬考えてしま
いますね。そういう疑問を発する人に対して、ラッファーは添付
ファイルのような簡単な図を描いたのです。
 横軸に「税収」、縦軸に「税率」を取ります。税率がゼロのと
きは無税ですから、税収はゼロです。曲線はA点を通ります。税
率が100%になると、課税所得はすべて税金で取られるので働
く人はいなくなります。企業も国外に脱出するので、税収はゼロ
です。そうすると、曲線はB点を通ることになります。このAと
Bを通る楕円曲線を「ラッファー曲線」というのです。
 ラッファー曲線の黄色い領域は、税率を上げて行くと税収が上
がる領域です。しかし、ブルーの領域に入ると税率を上げると逆
に税収が減ってしまうのです。
 したがって、もし国の状態がブルーの領域にあると判断したと
きは、税率を下げた方がかえって税収は増えるのです。レーガン
は、需要を喚起するよりは供給力を強めて経済成長を達成しよう
という「サプライサイド経済学」の考え方を採用したのです。国
の状態が、まさにブルーの領域にあると判断したからです。
 しかし、サミュエルソンはこれを「インチキ」とこきおろして
います。富裕層に対する減税によって税収が増えるためには、減
税分を上回る社会全体の所得増加がなければならないのです。レ
ーガンは、法人税の減税と所得税の累進税率を下げましたが、か
えって税収が減り、それでも軍事費を増やしたので、大幅な財政
赤字を招いたのです。     ──[新自由主義の正体/24]

≪画像および関連情報≫
 ●「アメリカ経済50年史」より/あるブログより
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  元映画俳優という経歴を持つレーガンであるが、飛行機が苦
  手で、汽車に乗ることが多く、その汽車の中でハイエクの著
  書などを通読していたという。アリゾナ州の上院議員のバリ
  ー・ゴールドウォーターと出会うと意気投合、ゴールドウォ
  ーターの政治観と自分の政治観は全く同じだと感じるように
  なる。ゴールドウォーターの背後には「マネタリズム」のフ
  リードマンがおり、後にフリードマンはレーガンによってス
  カウトされ、レーガンに登用される。ゴールドウォーターは
  どんな政治観であったかというと、「私は政府の合理化や効
  率化に殆んど関心がない。私は政府の規模を縮小するつもり
  だ」というハイエク的な新自由主義思想で、後に【レーガノ
  ミクス】と呼ばれるものの原型であったとされる。元俳優で
  あるレーガンは「選択の時」と題されたテレビ演説が大好評
  を博して、一躍、人気政治家になり、そのまま大統領まで登
  り詰めた。(レーガンはゴールドウォーターから妬まれたら
  しく、共和党内で確執を起こしている。)効率性を重視した
  サプライサイド経済学は反ケインズ的で、公共支出による需
  要主導ではなく、民の活用を意味しており、具体的には、そ
  れが規制緩和と法人税減税であった。また、レーガンはグリ
  ーンスパンを社会福祉改革委員長に回し、ポール・ヴォルカ
  ーをFRB議長に据えて、金融引き締めも行なった。
                   http://bit.ly/UpJGKT
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ラッファー曲線.jpg
ラッファー曲線

posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新自由主義の正体 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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