2014年06月09日

●「シティ・オブ・ロンドンの大改革」(EJ第3807号)

 サッチャーの新自由主義的改革でもうひとつ忘れてはならない
ものがあります。それは、グローバル金融の中心地であるシティ
・オブ・ロンドンの改革──ザ・ビック・バンです。
 地理的にいうと、シティはテムズ川左岸のウォータールー橋と
ロンドン橋を東西の両端とする約2キロ平方メートルの地区で、
別名スクエアマイルとも呼ばれているのです。
 2008年のデータですが、シティは、国際的な株式取引の半
分、店頭デリバティブ取引の45%、ユーロ債取引の70%、国
際通貨取引の35%、国際的な新規株式公開の55%を占めてい
るのです。こんな猫の額のような小さな街がグローバル金融のハ
ブとして君臨しているのです。
 しかし、このシティの隆盛はサッチャーによるビック・バンの
おかげなのです。サッチャーは政権基盤が安定するまで、2期目
に入るまで慎重に改革に着手するのを待ったのです。サッチャー
が改革に着手する直前の1985年のロンドン証券取引所の売買
高は、ニューヨークの13分の1、東京の5分の1にまで落ち込
むという惨憺たる状況だったのです。
 このようにロンドン証券取引所の競争力を下げていた原因は、
次の3つの古色蒼然たる制度です。
―――――――――――――――――――――――――――――
          1. 固定手数料
          2.単一資格制度
          3.  出資規制
―――――――――――――――――――――――――――――
 原因の「1」は「固定手数料」です。
 ロンドン証券取引所は、最低手数料を業者間で固定しており、
さらに高率の印紙税を取引ごとに課していたのです。そのため取
引コストが高くなり、競争力を失っていたのです。米国では19
75年に株式委託手数料が自由化され、それによって金融機関の
再編機運が盛り上がっていたのですが、英国では固定手数料のま
まだったのです。
 原因の「2」は「単一資格制度」です。
 証券売買に従事する取引所会員には、次の2つの資格が必要に
なりますが、英国ではその兼業が認められていなかったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     1.委託販売業務 ・・・ ブローカー
     2.自己売買業務 ・・・  ジョバー
―――――――――――――――――――――――――――――
 「委託販売業務」とは、投資家から注文を受けて委託売買を行
う業務で、これを行う者は「ブローカー」と呼ばれます。これに
対して「自己売買業務」とは、ブローカーに対して値付けを行う
自己売買の業務で、これを行う者は「ジョバー」というのです。
これら2つの業務を合わせて有しているのが証券会社です。
 しかし、英国では、1908年以来、ブローカーとジョバーの
職能を分離する単一資格制度をとってきたのです。つまり、英国
では、当時の米国や日本で1つの証券会社が行っていた業務に垣
根が設けられていたのです。これが単一資格制度です。
 原因の「3」は「出資規制」です。
 「出資規制」とは、取引所会員への外部資本の参加に制限を設
ける制度のことです。外国金融機関などからの新規参入も実質的
に制限されていたのです。つまり、既存の取引業者(既得権者)
が手厚く保護されていたのです。
 その結果、当時のロンドン証券取引所では、少数業者による独
占取引によって価格競争力が失われたり、過小資本の取引所会員
が温存されていたのです。
 サッチャーは、ロンドン証券取引所とその会員によるカルテル
的慣行を解体する必要があると考えたのです。例えば、英国債取
引の取次ぎに従事する会員は7社に限られ、しかもこのうちの2
社で90%の取引を独占しており、こうしたカルテルの存在が、
政府の国債発行コストを高止まりさせていたわけです。
 1986年にサッチャーが満を持して断行したビック・バンは
次の3つの改革です。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.固定手数料と単一資格制度の廃止
      2.証券取引所会員への出資規制撤廃
      3.新制度と新システム導入で近代化
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1は「固定手数料と単一資格制度の廃止」です。
 単一資格制の廃止によってブローカーとジョバーの垣根がなく
なり、非効率性を生み出していた原因が取り除かれたのです。さ
らに、株式や債券の最低手数料制は撤廃され、完全自由化された
ことにより、競争原理が導入され、平均手数料に印紙税コストを
含む総取引コストは1.8 %から1.0 %に低下したのです。
 第2は「証券取引所会員への出資規制撤廃」です。
 この出資規制の撤廃によって、外資系や他業態の金融機関が既
存の取引所会員への資本参加というかたちで証券業務に参加する
ことができるようになったのです。
 その結果、株式取引のジョバー大手全13社とブローカー大手
20社中19社があっという間に国内外の金融機関によって吸収
合併され、それまで伝統的に棲み分けがなされていた証券業と銀
行業の垣根は崩れ去ってしまったのです。
 第3は「新制度と新システム導入で近代化」です。
 マーケットメーカー制が導入され、マーケットメーカーが値付
けと取引の執行ができるようになり、大口取引の流動性が増加し
たのです。それに加えて、近代的なコンピュータシステムが導入
され、ロンドン市場が先進的な機関投資家のニーズに対応できる
ようになったのです。
 サッチャーとしては、シティが発展できれば、プレーヤーが国
内勢でも外国勢でも一向に気にしないという考え方で、シティの
改革を成功させたのです。   ──[新自由主義の正体/21]

≪画像および関連情報≫
 ●水鏡先生の世の中絵巻物/サッチャー登場
  ―――――――――――――――――――――――――――
  水鏡先生:サッチャーが行った金融部門の規制改革は、別名
  「金融ビックバン」と呼ばれ、その後世界の金融市場のグロ
  ーバル化に拍車をかけたんじゃよ。国際金融市場としてロン
  ドンのシティは有名だが、サッチャーが登場するまで足元の
  英国国内金融市場は金融業界内での競争を制限する慣行があ
  り、古い体質を持っていたんじゃ。その結果、英国企業の株
  式が古い体質を持つ英国から離れ、米国市場で流通するとい
  う事態に陥り、国際金融市場であるシティを持つ英国政府は
  大きな危機感を抱いたんだ。そこで、サッチャーの第2期政
  権時の1986年10月にシティの証券市場の大改革、ビッ
  クバンがスタートさせたんだよ。
  弟子 A:ビックバンとは、宇宙の創設期、星が誕生する状
  態のことを云うんじゃなかったですか?宇宙が創設された時
  期はいろいろな物質が飛び交い、衝突し、混ざり合っていた
  ということですよね。それらの物質が徐々に冷えてきて、そ
  して光を出し始める、すなわち星が誕生するというというお
  話しですよね。「金融ビックバン」といわれるのはサッチャ
  ーさんが行ったシティの規制緩和で、古い体質で守られてい
  た英国の金融機関に対して外国の資本が参加し、両者が衝突
  し、混ざり合って制度改革が進展したということで、宇宙の
  星の誕生過程に例えられたのでしょうね。
                   http://bit.ly/1ouj31U
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シティ・オブ・ロンドン.jpg
シティ・オブ・ロンドン
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新自由主義の正体 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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