2014年06月05日

●「サッチャーとウインブルドン現象」(EJ第3805号)

 サッチャーが首相に就任したときの英国の経済状況の深刻さを
考えれば、多少の荒療治は必要であったと思います。しかし、聖
域なき自由化の名の下に、英国の伝統的な製造業を壊滅状況に追
い込んでしまったことは、サッチャー以後の英国の経済的発展に
大きな傷跡を残したことは否めないのです。
 英国の製造業生産は、1988年になってやっと1973の水
準を超えたに過ぎないほどサッチャーの改革で縮小したのです。
先進国で16年前と製造業の生産量が変わらない国は英国以外に
はないのです。この英国の製造業の壊滅について、デヴィット・
ハーヴェイは次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 サッチャーは、イギリスを国際競争と外国からの投資にさらす
 ことで組合の力をさらに弱体化させた。国際競争は1980年
 代に多くの伝統的なイギリス産業を破壊した──シェフイール
 ドの鉄鋼業、グラスゴーの造船、これらは数年以内にほぼ消え
 去り、それにともない、組合勢力の大部分も消え去った。サッ
 チャーは自国のイギリス国有自動車産業を強力な組合や強力な
 労働者主義的伝統とともに効果的に破壊した。その代わりに、
 ヨーロッパへの進出を望む日本の自動車企業にイギリスを海外
 拠点として差し出した。日本の自動車工場は郊外に建設され、
 日本型の労使慣行に従いそうな非組合員の労働者が雇われた。
        ──デヴィッド・ハーヴェイ著/監訳/渡辺治
      『新自由主義/その歴史的展開と現在』/作品社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 サッチャーは外資を呼び込むために必要なことはすべて行って
います。そのために一番重要なことは労働組合の力を弱めること
だったのです。組合が弱体化しないと、外国資本が英国に入って
こないからです。なお、以下の記述は、ネット上に「サッチャー
の政策」というタイトルでアップされている岩崎新哉氏の論文を
参考にさせていただいています。
 この組合潰しの結果、1971年〜1991年の20年間で、
英国の製造業の国内シェアは次のように激減したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
            1791年  1991年
     工作機メーカー  70%    40%
     靴        69%    30%
     衣服       79%    56%
     洗濯機      82%    49%
     ──岩崎新哉著「サッチャーの政策」より
              http://bit.ly/1gXuP43
―――――――――――――――――――――――――――――
 サッチャーの英国が、それこそ岩盤規制を打ち崩して外資の受
け入れの体制を整備した結果、英国をヨーロッパ進出の基地にし
たい日本をはじめとする多国籍企業が、続々と英国に進出したの
です。その結果どうなったかというと、外国企業は英国の製造業
の25%、資本支出の30%、輸出の40%を占め、乗用車やテ
レビやバイク、半導体などにいたっては、100%外国企業が占
有することになったのです。
 これを「ウィンブルドン現象」というのです。語源はテニスの
ウィンブルドン選手権です。伝統あるこの選手権では世界中から
参加者が集まるため、強豪が競い、開催地の英国の選手が勝ち上
がれなくなってしまい、このところ外国人の選手ばかりが優勝し
ていたのです。だが、2013年に変化が起きています。
 市場経済において自由競争が進んだため、市場そのものは隆盛
を続ける一方で、本来その場にいて「地元の利を得られるはずの
者」が敗北したりして退出し、あるいは買収されてしまう──ま
さにサッチャー時代の英国がそうであり、このような現象をウィ
ンブルドン現象と呼んでいるのです。
 サッチャーが改革を加速させたのは1984年からです。既に
述べたように、最初の4年間のサッチャー政権の評判は最悪で、
83年の選挙では再選は無理と考えられていたからです。だが、
フォークランド戦争が起き、サッチャー政権がアルゼンチンに勝
利したことによってサッチャーに「風」が吹き始めたのです。
 余談ですが、日本ではこの戦争を「フォークランド紛争」と呼
んでいますが、英語圏では「戦争」といっているのです。紛争と
いうと、小さな島をめぐる争いというレベルをイメージしますが
実際にそこで行われたことは戦争そのものです。英国の軍艦も沈
められているのです。そのためEJでは「フォークランド戦争」
と表記しています。
 サッチャーはいわゆる「民営化」を進めたのですが、民営化に
は次の3つがあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
          1.非国有化
          2. 自由化
          3. 請負制
―――――――――――――――――――――――――――――
 「非国有化」というのは、これまで政府が保有してきた資産や
株式を売却することです。「自由化」とは、これまで国有企業に
限定されていた部門に私企業の参入を認め、競争させるこをいい
ます。「請負制」とは、本来国がやるべき公共的サービス部門を
民間企業に請け負わせるものをいうのです。
 サッチャーが実施したのは「非国有化」なのです。「自由化」
については、バス、郵便、通信について行っただけであり、「請
負制」は、ナショナル・ヘルス・サービスのみで、清掃、給食、
洗濯が実施されています。
 これらの公約は、1979年の選挙ではあまり強調されておら
ず、国民としては「騙された」と感じた人も少なくはなかったと
思われます。しかし、フォークランド戦争で勝ったサッチャー政
権は英国を救うという意味で国民から信任が与えられたかたちに
なったのです。        ──[新自由主義の正体/19]

≪画像および関連情報≫
 ●ウィンブルドン現象は終わりか/2013年英国選手優勝!
  ―――――――――――――――――――――――――――
  2013年7月7日行われたテニスのウィンブルドン選手権
  男子シングルス決勝で、昨年準優勝で第2シードのアンディ
  ・マリー(英国)が第1シードのノバク・ジョコビッチ(セ
  ルビア)を6−4、7−5、6−4で破り、初優勝した。国
  史上唯一にして最高の選手はフレッド・ペリーであろう。ペ
  リーは1930年代にウィンブルドン3連覇を含めグランド
  スラム8大会で優勝。全てのグランドスラムで優勝を経験す
  るいわゆる生涯グランドスラムの史上初の達成者。1936
  年のフレッド・ペリー(英)が優勝して以来、76年間その
  優勝を外国人選手に譲っている。地元の選手がさっぱり勝て
  なくなった自国のテニス大会になぞらえて、「ウィンブルド
  ン現象」という経済用語まで生まれた。「日本出身力士」の
  優勝といえば、平成18年初場所の大関栃東まで遡らなくて
  はならない。日本人の横綱昇進に至っては、若乃花以来15
  年以上も途絶えている。市場経済において自由競争が進んだ
  ため、市場そのものは隆盛を続ける一方で、元々その場にい
  て「本来は地元の利を得られるはずの者」が敗れ、退出する
  あるいは買収されること。しかし、終わりを迎えた・・!?
  昨年の同大会で英国人選手アンディ・マリーが見せた活躍ぶ
  りをみると別の用語を考え出さなければならないだろう。
                   http://bit.ly/1krFaVi
  ―――――――――――――――――――――――――――

英国アンディ・マリー選手.jpg
英国アンディ・マリー選手
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新自由主義の正体 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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