2014年05月29日

●「官から民への規制緩和に罠がある」(EJ第3800号)

 フリードマンの過激な思想は、それが討論されるときは正しく
ないと反論されるものの、その正しくないはずの考え方がふと気
がつくと実現してしまっているという怖さがあります。
 フリードマンの空売りの申し入れを「ジェントルマンはそんな
ことはしない」と拒否したコンチネンタル・イリノイ銀行は、そ
の後、大きく変貌してしまうのです。宇沢弘文氏はコンチネンタ
ル・イリノイ銀行のその後について次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 コンチネンタル・イリノイ銀行は、その後、変わってしまいま
 す。一種の持株会社をつくって、いろいろな活動を始めるわけ
 です。節度を失ってしまった。とくに1971年のニクソン・
 ショックのときに、東京の外国為替市場だけが2週間開いてい
 た。そのときに当時80億ドルぐらいといわれている大量のド
 ル売りがあった。それはその後の日本の金融の大きな擾乱原因
 になっていくわけですが、そのときにコンチネンタル・イリノ
 イは最も儲けたことで知られています。   ──内橋克人編
   『経済学は誰のためにあるのか/市場原理至上主義批判』
                       /岩波新書刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 金融的節度を失ったコンチネンタル・イリノイ銀行は、次々と
投機的ないかがわしい事業に手を出し、1984年に事実上倒産
してしまうのです。この倒産は2008年にワシントン・ミュー
チャルが破綻するまで、米国史上最大の銀行破綻だったのです。
 そのため、「大き過ぎて潰せない」として、当時のFRBのボ
ルカー議長の提案によって政府は同銀行を救済するのです。そし
て1994年にバンク・オブ・アメリカに買収されるまで、コン
チネンタル銀行として存続したのです。
 フリードマンの思想は、一般論としてはとんでもないことなの
ですが、企業という立場から考えると、これはかなりメリットが
ある魅力的なことなのです。そこで企業としてはその実施を政府
に働きかけることになるのです。
 「官から民への規制緩和」──このように聞くと、一見何の問
題もないように見えます。どうしてかというと、行政・官僚の手
に委ねられていた国家権力が、規制緩和によって市民の手に再分
配されると思い込むからです。
 しかし、ここに落とし穴があるのです。ここでいう「民」は市
民だけでなく、企業も入ることです。けっして市民の手に再分配
されることはないのです。これについて、内橋克人氏は次のよう
に述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 実際にはいま進もうとしている規制緩和は、行政独裁、その背
 景をなす官僚による裁量的秘密主義への訣別ではなく、かつて
 政官業の鉄のトライアングル″といわれた三者のうち、権限
 の一部が「官から業ヘシフトする」に過ぎない。つまり再配分
 される国家権力の行き着く先は市民や働く人々ではなく、大企
 業中心の民間企業だという点に特徴があると思います。その意
 味で日本型規制緩和は経団連はじめ財界主導の「企業行動完全
 自由化要求運動」なのであり、その実質は「権力の仲間回し」
 にある、と認識すべきではないか、と思います。
                ──内橋克人編の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在、安倍政権が進めようとしている政策は、かつての小泉政
権のスローガン「官から民(企業)へ」を具体化して実現させよ
うとしています。第1次安倍政権で実現できなかったことを多数
を得た本政権でやろうとしているのです。
 まず、大胆な金融緩和を進めることで株価を上昇させ、民間企
業を縛っている規制、例えば労働法制を緩和し、人件費を軽減さ
せることによって企業が利益を上げやすい状態にする──さらに
法人税を減税することにより、企業、それも大企業を富ませよう
としています。まさにフリードマンの新自由主義の政策そのもの
です。それも自分で意識してやっているとは思えないのです。
 首相という地位に就くと、自分の回りは政治家や上級官僚ばか
りになり、外部の人と触れる機会は、大企業の幹部クラスの人に
限られます。要するに接する人は富裕層ばかりであり、そういう
人たちの考え方に染まってしまうのです。国民のことなど、観念
的にしか考えられなくなってしまうのです。
 庶民には消費税増税を押しつけ、その一方で大企業には法人税
を減税しようとする──これは「法人優遇ではないか」と迫った
野党議員に安倍首相は次のように答弁しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 法人対個人、そういう考え方を私はとりません。多くの個人は
 会社で働き、給料を得て、暮らしを立てています。企業の収益
 が伸びて行けば雇用が増え、賃金が増えれば家計も潤う。
                       ──安倍首相
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは「トリクルダウン」理論といって、「富める者が富めば
貧しい者にも自然に富が浸透(トリクルダウン)する」という経
済思想です。要するに「金持ちが潤えば貧乏人もそのおこぼれに
あずかれる」という考え方です。
 しかし、この考え方は間違っています。CSR(企業の社会的
責任)を放棄した企業が、労働者の生活など一顧だにしないのは
明らかだからです。むしろ、今の日本では企業を優遇すればする
ほど国民生活は反比例的に悪化し、格差は増大するのです。それ
はフリードマン的政策を採用した国の宿命なのです。
 これについては、「神州の泉」という有名ブログが安倍首相を
徹底的に批判しています。≪画像および関連情報≫欄を参照して
いただきたいと思います。
 それしてもあのレーガン米大統領や英国のサッチャー首相はな
ぜフリードマン的政策を取り上げたのでしょうか。明日のEJか
らこれについて考えます。   ──[新自由主義の正体/14]

≪画像および関連情報≫
 ●安倍トリクルダウン国政は大嘘の塊/「神州の泉」より
  ―――――――――――――――――――――――――――
  1%の大資本が大多数の国民生活を犠牲にし、搾取して益々
  富み栄えることが、今、人類が直面している大問題なのであ
  る。企業が人類の生存権を食いつぶす世界など、ディストピ
  アの方向性しかないではないか。安倍首相は頭が悪すぎる。
  というか、頭の中が典型的なトリクルダウン思考にそまり、
  パープリンになっている。企業を強くすると、そのことがプ
  ロポーショナルに国民生活を充実させるという実例は、戦後
  の高度経済成長期に一過的に見られただけであり、新自由主
  義パラダイムの中で、成熟期・安定期に入った産業社会でそ
  れは決してあり得ない。もっというなら、今の日本では企業
  を優遇すればするほど国民生活は反比例的に悪化し、格差は
  増大する。それがフリードマン主義を採用する国政の定式だ
  からだ。だから、一秒でも早く安倍政権を国政から離脱させ
  るべきだ。カルト宗教盲信的にグローバル資本の大嘘理論に
  やられてしまっている安倍首相は、今やハーメルンの笛吹き
  男であり、典型的な滅びの宰相なのである。それにしても、
  小泉、菅、野田、安倍と、なぜパープリンな人物ばかりが政
  治のトップに立つのだろうか。(ウィキペディアによれば、
  「パープリン」とは、小林よしのり氏が描いた漫画、「東大
  一直線」に出てくる用語で、「(頭が)パーなのでまるで脳が
  プリン」を意味する)。      http://bit.ly/1kgzq10
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国会で答弁する安倍首相.jpg
国会で答弁する安倍首相
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新自由主義の正体 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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