2014年05月27日

●「宇沢弘文教授の語るフリードマン」(EJ第3798号)

 ミルトン・フリードマンは、ベストセラーを連発し、ノーベル
経済学賞を受賞し、自分のテレビ番組まで持ったことによって経
済学者として大変成功を収めたのです。そのため、収入も増えて
カルフォルにアに豪邸を建てて住むようになります。
 そして、自分のテレビ番組のなかで、自分の家の前に立って次
のようなことをいっているのです。
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 米国は自由な社会であり、選択の自由があるならば、私のよう
 な人間でもこのような立派な家をつくることができる。私はひ
 とつのモデルにすぎない。みんな同じことができるのです。
                      ──内橋克人著
 『新版/悪魔のサイクル/ネオリベラリズム循環』/文春文庫
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 フリードマンの考え方には多くの批判があります。昨日のEJ
でご紹介したフリードマンの動画『選択の自由』第1話は、ご覧
になったでしょうか。
 第1話「1−2」でフリードマンは、香港を例に上げてその自
由な社会を強調していましたが、それについての「1−3」の後
半から「1−4」にかけてのフリードマンとガルブレイスの激し
い論争は、まさに新自由主義とケインズ主義の論争そのものであ
り、見ごたえがあります。ぜひご覧いただきたいと思います。
 フリードマンの人物を知るエピソードをいくつかご紹介してい
きます。最初の話は大変有名であり、フリードマンのことを書い
た本には必ず出てくるのですが、これは経済学者の宇沢弘文東大
名誉教授が語ったものなのです。
 宇沢弘文氏は、若い頃スタンフォード大学のケネス・アロー教
授に対して送った論文が教授に認められ、1956年に研究助手
として渡米するチャンスを手にしたのです。そしてスタンフォー
ド大学とカリフォルニア大学バークレー校で教育研究活動を行い
1964年にシカゴ大学経済学部教授に36歳の若さで就任した
世界でも高名な経済学者です。宇沢氏は、シカゴ大学教授のとき
にフリードマンと親しく接する機会があったのです。
 シカゴ大学の経済学部の教授たちは、お昼はみんな一緒に食事
をする習慣があったそうです。ある日のランチタイムにフリード
マン教授は遅れてやってきて、席につくや興奮して次のような話
をしたのです。
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 コンチネンタル・イリノイ銀行というのがシカゴにありますが
 その日の朝、フリードマンは銀行の窓口に行ってイギリスのポ
 ンドの空売りを1万ポンドしたいと申し込んだそうです。その
 とき1ポンド=2ドル80だったのですが、それが2ドル40
 に切り下げられることがほぼ確実にわかっていて、事実その2
 週間後に切り下げられたのですが、そのとき空売りすると、巨
 大な投機の利益を得ることができるのです。しかし、その銀行
 のデスクがフリードマンに向かって答えたのは、「ノー、われ
 われは紳士(ジェントルマン)だから、そういうことはやらな
 い」ということだった。フリードマンはそれを聞いてカンカン
 になって、帰ってきて、資本主義の世界では儲かるときに儲け
 るのがジェントルマンなのだ、と真っ赤になって大演説をぶっ
 たのです。──内橋克人編、『経済学は誰のためにあるのか/
            市場原理至上主義批判』/岩波新書刊
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 ところで「株の空売り」とは何でしょうか。
 株の空売りとは、証券会社から株を借りて売却し、その株が値
下がりしたときに買い戻すことで利益を得る投資方法です。しか
し、株の空売りを行うには、信用取引口座が必要です。
 株の信用取引とは、口座に保有している金額の最大3倍の金額
の株式売買が出来る方法のことで、別名レバレッジとも呼ばれて
います。
 具体的な例で説明します。投資家がある会社の株が近い将来値
下がりするという情報を掴んだとします。そのとき、その会社の
株は1株1000円であったとします。その投資家は信用取引を
利用してその会社の株1万株を一時的に証券会社に借り、売った
とします。1000万円の資金が必要になりますが、そのとき投
資家の信用取引口座には400万円があったので、レバレッジに
よってその株の売買は可能なのです。
 その後予想通り、その会社の株は1株800円に下落したので
す。投資家はその株を1万株買い戻して、証券会社に返します。
手元には200万円が儲けとして残ることになります。この一連
の取引を「空売り」というのです。
 実は米国では、1934年に銀行法を改正しているのです。こ
れは、ルーズベルトのニューディール政策の第1号の改革だった
のです。なぜなら、大恐慌の原因が、とくに株式市場での人々の
投機的な取引に銀行が巨額の貸し付けを行ったことが原因でそれ
がバブルを形成したからです。改正銀行法では、次の条項が定め
られたのです。コンチネンタル・イリノイ銀行のデスクは、その
条項を忠実に守り、フリードマンの申し出を断ったのです。
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 銀行は投機という反社会的な行動、あるいは、そういうプロ
 ジェクトに貸し付けをしてはならない。   ──内橋克人著
 『新版/悪魔のサイクル/ネオリベラリズム循環』/文春文庫
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 この話を聞いたフリードマンの指導者のフランク・ナイト(当
時80歳)は激怒し、門下生を集めて、フリードマンとスティグ
ラーの2人を破門したのです。その席に宇沢弘文氏も居合わせた
というのです。
 ナイトの思想は同じリベラリズムであるが、人間の尊厳を守り
自由を守ることを基本にして、経済的、社会的、政治的なシステ
ムを考えようというものであり、フリードマンたちの行為は、許
せなかったのです。      ──[新自由主義の正体/12]

≪画像および関連情報≫
 ●素晴らしい経済学者・宇沢弘文東京大学名誉教授
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  素晴らしい本に出会いました。宇沢弘文・内橋克人著「始ま
  っている未来」(岩波書店刊)です。素晴らしい経済学者が
  おられます。東京大学名誉教授の宇沢弘文先生です。宇沢弘
  文先生は今年86歳。米国滞在が長くミルトン・フリードマ
  ンがいた新自由主義の総本山シカゴ大学で経済学部教授とし
  てフリードマン理論に反対する「新古典経済理論」を研究し
  教鞭をとられていた方です。長年の研究成果に対して、19
  97年に文化勲章を受賞されています。宇沢弘文先生は日本
  人経済学者の中でノーベル賞に最も近い学者と言われていま
  すが、なぜか日本では一般的に知られていません。なぜなら
  ば先生は「日本は米国に搾取されている植民地である」と公
  然と主張されているからです。現在の日本の大苦境の原因は
  米国に強要され実行された「無駄な公共投資630兆円」で
  あると主張されているからです。日本の大手マスコミは意図
  的に先生の主張を報道しませんし経済学者は無視しているか
  らです。著書「始まっている未来」の中の「日本の植民地化
  と日米構造協議」の部分を下記に転載しますので是非お読み
  ください。現在日本が陥っている「10年ゼロ成長」「10
  年デフレ」「巨額な国家債務」「夕張の悲劇」の真の原因は
  米国が海部政権に強要した「日本経済の生産性を上げるため
  に使ってはいけない」630兆円の「無駄な公共投資」だっ
  たことが良くわかります。     http://bit.ly/1kAM36s
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宇沢弘文氏.jpg
宇沢 弘文氏
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新自由主義の正体 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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