非常に極端な自由主義者だったからです。このところチャゲ&A
SKAの覚醒剤疑惑が連日報道されていますが、フリードマンは
麻薬についても規制すべきではないといっているのです。
一人ひとりが自分で判断して、麻薬の楽しみと中毒になったと
きの苦しみとをはかって選択すべきだというのが、フリードマン
の考え方なのです。
フリードマンによる1980年のベストセラーに、『選択の自
由』(日本経済新聞出版社)という書籍があります。日本のノン
フィクション作家で、保守派の論客でもある関岡英之氏は自著で
その考え方の過激さを次のように批判しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
米国では、食品、医薬品、化粧品などの安全性を事前に審査し
ているのは食品医薬品局(FDA)たが、フリードマンは廃止
せよと主張する。なぜかというと、食品医薬品局の規制は「有
害で効き目のない薬の販売を防止することによって社会によい
結果をもたらした以上に、価値のある薬の生産・販売技術の進
歩を遅らせることによって社会に弊害をもたらしている」から
だという。そしてフリードマンは、「われわれが自らの生命に
関してどんな危険を冒すかは、われわれ自身の選択の自由に任
せるべきだ」と言い切っている。これが、市場原理主義者たち
が呪文のように唱える「消費者の選択の自由」の本質である。
要するに「安全かどうかは自分で判断して選びなさい。結果が
どうなろうと自己責任なのだから、役所に泣きついてもダメ。
自分で弁護士を雇って裁判で解決しなさい」ということだ。極
限的なまでに孤独な、荒涼たる「自己責任」の世界である。果
たしてどのくらいの日本人が、こうした社会に耐えられるだろ
うか。 ──関岡英之著
『国家の存亡/「平成の開国」が日本を滅ぼす』/PHP新書
―――――――――――――――――――――――――――――
フリードマンは、政府によるあらゆる規制は間違いであり、政
府が保険制度を構築することに反対し、「最低賃金法は雇用を阻
害する」と主張したり、公衆衛生に関しても関岡氏が指摘してい
るように、「食品や医薬品に対する安全規制は技術進歩を遅らせ
社会に弊害をもたらす」と反対しています。
しかし、当時の経済学の主流はケインズ経済学なのです。ケイ
ンズが主張する公共政策とは、資本家や大企業がその優越的な力
によって市場を支配しようとするのを政府が規制し、不況になっ
たときは、政府が財政政策による公共事業を実施することによっ
て雇用を守り、不況の悪影響を緩和するというものです。加えて
所得格差が生じないように、累進課税を強化し、それによる社会
福祉を充実させることによって、富裕層から低所得層への富の再
配分を行うのです。
フリードマンにとってケインズの公共政策はまさに真逆の思想
ということになります。政府による市場の規制などとんでもない
間違いであるし、財政政策はバラマキであって無駄そのものと切
り捨てています。しかし、彼の過激なまでの自由主義は、自主独
立の精神を重んじ、自由を尊ぶ米国人にフィットするものがあっ
たのです。
このミルトン・フリードマンの思想が米国民に深く浸透したの
にはいくつか理由がありますが、そのひとつに彼自身が出演する
次のテレビ番組があったことです。
―――――――――――――――――――――――――――――
ミルトン・フリードマン
テレビ番組『選択の自由』 Free to Choose,TV
―――――――――――――――――――――――――――――
フリードマンがノーベル経済学賞を受賞したのは1976年で
すが、そのときテレビプロデューサーの勧めでテレビ番組を制作
することになり、1977年から開始されたのです。その番組の
タイトルが『選択の自由』だったのです。これによってフリード
マンは冠番組を持つことになり、自説の新自由主義を一般大衆に
アピールできるようになったのです。
冒頭で紹介した『選択の自由』(日本経済新聞出版社)の書籍
は、このテレビ番組の名前からとられたものなのです。この番組
には、1980年版と1990年版があるのですが、『選択の自
由』の書籍は、1980年版に対応しており、これを再編し再録
したものが1990年版です。もちろんどちらも英語版です。
しかし、蔵研也氏という人が、1990年版に日本語の字幕を
入れてくれています。全部で5話あるのですが、それぞれを4分
割して、ユーチューブにアップしてくれています。
その第1話をユーチューブから集めて、URLを付けておきま
す。クリックすると、すぐ動画がスタートします。難しい経済学
の話ではなく、フリードマンが直接説明をしてくれるので、とて
もわかりやすいです。
第1話のスタートと同時に、若き日のアーノルド・シュワルツ
ネッガー氏が登場するので、きっとびっくりすると思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
◎フリードマン/『選択の自由』/第1話
1─1 http://bit.ly/1iahj88
1─2 http://bit.ly/TAEzqD
1─3 http://bit.ly/1vQ0Y1J
1─4 http://bit.ly/1jJifpy
―――――――――――――――――――――――――――――
第2話から第5話までもすべてユーチューブにアップされてい
ます。第1話を見れば、第2話〜第5話はすぐわかるようになっ
ているので、興味があればすべてを見ることができます。討論の
ところでは、ケインズ派のガルブレイスも登場します。
フリードマンの説明はとても説得力があり、納得できることも
多くあります。何はともあれ、フリードマン自身から直接話を聞
くことは有益だと思います。 ──[新自由主義の正体/11]
≪画像および関連情報≫
●「選択の自由」という不幸/広島直己氏のブログ
―――――――――――――――――――――――――――
アメリカに来たばかりの頃、パンの種類やドレッシングの種
類をいちいち聞かれて辟易したのは、早口の店員に聞かれて
いることが分からなくてドギマギしたということもあるけれ
ど、それ以上に、そもそもどういう選択肢があるのかさっぱ
り分かっていなかったというのもあるし、もっと言っちゃえ
ば、そんな選択肢があるということに頭にきていたわけだ。
ある時は、聞かれてることがよく分からずにまごまごしてい
ると、さっさとイエスって言えよって雰囲気になってしまっ
たので困ってイエスって答えてみたら、マヨもマスタードも
ついてないターキーサンドイッチが出てきてびっくりしたこ
ともあった。アメリカのメシが不味いという噂は本当だなぁ
日本ではこんな不味いサンドイッチは存在すらできないだろ
うなぁ、と思ったのだった。つまり、いちいち選択するのは
面倒くさいし、選択肢が多いことは必ずしもいいとは限らな
い。サンドイッチなんて、いちいち選びたくないし、ハムサ
ンドって言ったら、ハムサンドが出てくればいいわけだ。昔
はそう思っていた。しかし、選択を強要される環境にならさ
れすぎて久しいと、逆に日本に帰ったときに「あまりにも注
文の多すぎる客」になり果ててしまっていて、なんて不便な
んだろうって思ったりする。ハムサンドってひとことで片付
けられても困るっつーの。みたいな。慣れってのは怖い。
http://bit.ly/1jeMlLG
―――――――――――――――――――――――――――
フリードマンのTV番組『選択の自由』