2014年05月20日

●「米国はケインズ政策全盛期に繁栄」(EJ第3793号)

 小泉政権時代の話です。2006年1月25日、衆院予算委員
会で、「格差が拡大しているのではないか」という野党の質問に
対して、小泉首相は「統計データから見る限り、所得再配分の効
果、高齢者世帯の増加、世帯人員の減少などを考慮すると所得格
差の拡大はないし、賃金格差も英米のような格差拡大は見られな
い」と述べ、次のように小泉節で答弁しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 格差、格差というが、人には違いがある。地域においても格差
 というか特色がある。そういう違いを認めて、できるだけ地域
 企業、個人が持っている能力を引き出していく努力が必要であ
 る。成功者をねたむ風潮とか、能力のある者の足を引っ張る風
 潮は厳に慎んでいかないと、この社会の発展はない。
       ──小泉首相(当時)  http://bit.ly/1t0Cdh0
―――――――――――――――――――――――――――――
 小泉首相得意の「人生いろいろ」的答弁です。世の中には金持
ちも貧乏人もいるので、格差が出るのは当たり前であり、それが
あったとしても、またそれが多少拡大したとしても、大した問題
ではないといっているのです。
 たまたま私はこの答弁をテレビで見ていたのです。そのときの
印象では、この首相は「格差拡大」というものに責任も感じてい
ないし、危機感を持っていないと感じたのです。
 しかし、これは大きな間違いです。小泉氏は格差拡大が国民を
不幸にすることがわかっていないようであるし、もしかすると、
現在自分が進めている政策が一部の人に富を集中せるものである
ことを自覚していないようであると感じたのです。
 中谷巌氏の本に興味あるグラフが出ています。添付ファイルを
ご覧ください。これによると、米国は次の4つに大別できます。
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  1.大恐慌前の「金ピカ」時代/1912〜1927
  2.      大恐慌の時代/1927〜1952
  3.民主党政権の「大圧縮期」/1952〜1980
  4.    レーガン政権以降/1981〜
―――――――――――――――――――――――――――――
 このグラフは、米国の上位1%が全所得に占める割合をあらわ
しています。大恐慌が起きる前の1927年を見ると、所得上位
1%の人の所得シェアは実に20%に達していたのです。超格差
社会、「金ピカ」時代です。第2次世界大戦以前の米国は現在よ
りもひどい超格差社会だったのです。
 なぜこのような超格差社会が生まれたのかというと、それまで
の歴代政府が経済活動をすべて市場に委ねる古典派経済学を信奉
していたからです。
 しかし、大恐慌が起きて大統領がフランクリン・ルーズベルト
に代わると、政府は自ら市場に介入し、総需要管理政策や所得再
分配政策というケインズ政策を行ったのです。これによって19
40年頃から米国の格差は急速に縮小したのです。
 そして、1950年から約30年間は、米国の格差は最も低く
なったのです。上位1%の富裕層の総所得は8%、その富裕層の
上位0.1 %の超富裕層の総所得はわずか3%にまで下がったの
です。この時代をクルーグマン教授は、「民主党政権下の大圧縮
期」と呼んでいます。
 ところが新自由主義政策をとったレーガン政権以降の米国は格
差は右肩上がりで上昇し、2005年においては上位1%の富裕
層が国の総所得の17%、その富裕層の上位0.1 %の超富裕層
にいたっては米国全体に占める所得シェアが7%にまで達してい
るのです。
 具体的な例を上げると、1970年代の米国の代表的な大企業
102社の経営トップの年俸は、その企業で働く労働者の平均年
収の約「40倍」でしたが、それが2000年には「365倍」
に拡大しているのです。
 注目すべきは、格差が最も低かった「大圧縮期」の約30年の
間に米国で行われたことです。これについてクリントン政権時代
に労働長官を務め、現在カルフォルにア大学バークレー校教授の
ロバート・ライシュ氏は、自著で次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 20世紀中ごろには、米国の産業のおよそ15パーセントが直
 接的な規制を受けていた。(中略)一連の規制は競争を抑制し
 その結果、商品やサービの消費者価格は規制前に比べて上昇し
 た。しかしながら、規制機関が公益に目を閉ざしているとする
 意見は少なかった。なぜなら規制は諸産業を安定させ、雇用を
 維持し、被規制企業が活動拠点を置く地域の経済基盤を守った
 からである。規制はまた、利益を求める企業のニーズを、安全
 で公正で信頼性の高いサービスを求める国民のニーズと調和さ
 せることをめざしていた。(中略)他の85パーセントの産業
 では規制よりも緩やかな政府介入が行われた。各業界が自主的
 に団体や委員会を組織し、それらが政府諸機関と協力して業界
 標準を定めるという方式であった。──ロバート・ライシュ著
 『暴走する資本主義』/雨宮寛/今井章子訳/東洋経済新報社
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは、規制のない自由な国であるはずの米国とはまるで違う
状況が当時の米国にはあったことを意味しています。なかでも重
要な役割を果たしたのは労働組合の存在です。
 1955年頃には米国労働者の3分の1が労働組合に所属して
いたのです。労働組合に入っていない3分の2の労働者でも組合
員とほぼ同等の給与を受け、福利厚生を享受していたのです。こ
れは人手不足のなかで労働者を確保する必要があったからです。
 このようにして1950年代は労使の対立は影を潜め、労使協
調の経済戦略は、米国に豊かな繁栄をもたらしたのです。これが
米国に豊かな中流家庭を多く生み出したのです。なんのことはな
い。日本の戦後の繁栄期とまったく同じことがそのときの米国で
も起きていたのです。     ──[新自由主義の正体/07]

≪画像および関連情報≫
 ●所得格差は経済成長にマイナス作用の可能性/IMF
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  [ワシントン 26日 ロイター]国際通貨基金(IMF)
  は26日、内部エコノミストの研究調査報告を公表した。そ
  れによると、所得格差は経済成長鈍化や成長の持続可能性を
  低下させる恐れがある一方、所得再分配政策はある程度限定
  されている限りは経済に打撃を与えず、プラスに働く場合さ
  えもあることが判明したという。この調査報告はIMFの公
  式見解を反映したものではないが、IMFの考え方が変化し
  つつあることをあらためて示している。IMFは伝統的に各
  国に経済成長と債務削減を促してきた半面、所得格差に対し
  てははっきりと焦点を当ててこなかった。しかしラガルド専
  務理事は昨年、格差問題に取り組まずに経済の安定を達成す
  ることはできないと発言。さらに今回の報告は「成長を重視
  して格差は放置しておくのは誤りになる。倫理的に望ましく
  ないばかりかその結果もたらされる成長が低調で持続不可能
  になるかもしれないためだ」とされた。国際非政府組織(N
  GO)のオックスファムこれまでずっとIMFなどの国際機
  関は貧富の差拡大に取り組む必要があり、公的支出の少なさ
  を奨励するのをやめるべきだと主張してきた。ワシントン事
  務所代表のニコラス・モンブライアル氏は「今回の報告やラ
  ガルド専務理事の最近の発言が、IMFの姿勢変化の兆しだ
  と期待している」と語った。    http://bit.ly/1iXdH8N
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●グラフ出典/ ──中谷巌著/『資本主義はなぜ自壊したか
  「日本」再生への提言』/集英社インターナショナル

米国所得上位1%が全所得に占めるシェア.jpg
米国所得上位1%が全所得に占めるシェア
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新自由主義の正体 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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