建的、閉鎖的な組織であったようです。1989年3月にティム
は第1案を提出し、5月に改訂版を出したのですが、これも上層
部に無視され、なしのつぶてです。
そういうティムにベン・シーガルは入れ知恵をします。「『新
型コンピュータ・NEXTキューブ』の購入願いをマイク出せ」
と。このマシンは、アップルを退社したスティープ・ジョブスが
開発した新型コンピュータであり、商業的には成功しなかったも
のの当時の最新機能を満載したワークステーションなのです。
シーガルは、ティムの上司であるマイク・センドールに対して
ティムの提案しているプロジェクトは画期的なものだから、正式
に上の承認がおりなくてもなんとか進めさせてやって欲しいと根
回しをしてくれたのです。これを受けて男気のあるマイク・セン
ドールは、ティムの提案の内容は依然としてわからなかったので
すが、熱心なシーガルの勧めに乗ったのです。
こういうわけで、ティムはNEXTキューブの購入願いを出し
て、マイク・センドールのOKをもらいます。そのときマイクは
ティムに対して、次のようにいい、非公式にプロジェクトのゴー
サインを出したのです。
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正式に機械を手に入れたのだから、それを使って君のいう、ハ
イパーテキストやらをプログラミングしないという手はないだ
ろう。 ――マイク・センドール
―――――――――――――――――――――――――――――
ティムは、とりあえず自分のプロジェクトに名前をつける必要
があったのです。こういうことはあまり得意ではなかったとみえ
て、さんざん考えたすえ「WWW」と命名したのです。このよう
にして、1990年10月から、ティムは大車輪でWWWの開発
に取り組んだのです。
実はこれからが大変だったのです。以下、WWWが日の目を見
るまでのいきさつを脇英世氏の著作から、要約してお伝えするこ
とにします。
ティムが最初に取り組んだのは、「WEBクライアント」の作
成です。WEBクライアントというと難しく聞こえますが、要す
るにエディタ(プログラムを書き込むワープロのようなもの)を
作ったわけです。ウインドウズに標準で付いている「メモ帳」の
ようなにものです。
彼はWEBクライアントを普通のC言語ではなく、オブジェク
ティブC言語で書いています。どうしてかというと、オブジェク
ティブC言語が彼の使っているマシンであるNEXTキューブに
標準で付いていたからです。彼はそういう新しい言語をいとも簡
単にマスターしてしまう根っからのプログラマであったのです。
次に、WEBクライアントに書き込む言語――HTML(ハイ
パーテキスト・マークアップ言語)を作成したのです。これは、
ホームページを作成する言語として現在あまりにも有名ですが、
開発者がティムであることを知っている人は少ないです。
続いて、HTMLでWEBクライアントに記述されたプログラ
ム――テキストデータをハイパーテキストに変換する必要があり
ます。ハイパーテキストとは複数の文書を相互に関連付け、リン
クできる仕組みのことです。そのために後に有名になる次の2つ
の技術を考え出したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
HTTP−ハイパー・テキスト・トランスファ・プロトコル
URL −ユニフォーム・リソース・ロケーター
―――――――――――――――――――――――――――――
HTTPというのは、ハイパーテキストを転送することを主な
目的とするものであり、URLはインターネットにおいて提供さ
れるリソースが、どこにあるかを特定し易くする住所のような役
割をするのです。
なお、ここでいうリソースとは(主にインターネット上の)デ
ータやサービスを指し、具体的には、ホームページや電子メール
の宛先といったものがそれに当たります。
脇英世氏によると、ティムの理論がCERN内で無視された原
因のひとつにシステムなどのネーミングがあるというのです。例
えば「ハイパー」などは、地味で学級的な研究者であればまず使
うことのない派手なネーミングであるというのです。この点につ
いて、脇英世氏は次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
数学において、ハイパージオメトリック・シリーズ(超幾何級
数)という用語はあり、ハイパーという形容詞が使われた実例
はある。だが、一般的に学問の世界ではハイパーというような
派手な形容詞を使うのを嫌う。私も最初聞いた時は、これは本
当に学問的なものかといぶかったものだ。当初はTBL(ティ
ムのこと)がどんな人物なのか分からなかった。10年以上の
時間が経った今判断すると、やはり学問の世界ではアウトサイ
ダーだった人物の作った言葉と言えるだろう。
――脇英世著、『インターネットを創った人たち』より
青土社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
こうして、ティムのWEB情報閲覧システム――WWWプログ
ラムは徐々にかたちを整えてきたのです。1991年3月、ティ
ムはCERN内部でNEXTキューブを使っている研究者に、W
WWプログラムを配付しています。しかし、CERN内部では何
ら反応はなかったのです。ティムは博士号も持たない非常勤の研
究員であり、予算も部下もない徒手空拳の身だったからです。
しかし、これによって外部にWWWの存在がわかるようになり
ティムの評価は急上昇したのです。しかし、1991年12月に
サン・アントニオで開催されたハイパーテキスト91にティムは
WWWの論文を提出したのですが、受理されず、プレゼンさえも
できなかったのです。
―― [インターネットの歴史 Part2/32]
≪画像および関連情報≫
・WWWとは何か
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WWWの通信プロトコルは主にHTTPが使用され、ドキュ
メント(ウェブページ)の記述には主にHTTLなどのハイ
パーが使用される。ハイパーテキストとは、ドキュメントに
別のドキュメントのURIへの参照を埋め込むことで(これ
をハイパーリンクと呼ぶ)インターネット上に散在するドキ
ュメント同士を相互に参照可能にすることができる。分かり
やすい例で言うと、主にマウスによるクリックなどによって
ページ間を移動することや、別のファイルである画像をドキ
ュメント内に表示させることなどが挙げられる。そのつなが
り方が蜘蛛の巣を連想させることから World Wide Web ――
(世界に広がる蜘蛛の巣)と名付けられた。
――ウィキペディア
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ところが残念なことに、記事中に記述間違いがあるようです。「URL −ユニバーサル・リソース・アイデンティファイア」とありますが、二点間違いが指摘できます。
まず「U」は「ユニフォーム」の略であります。
また「L」とするなら「ロケーター」としなければなりません。実際に「アイデンティファイア」を略したものならば「I」とすべきでしょう。
本連載記事をご愛読いただきありがとうございます。今回ご指摘のミスについてですが、脇英世氏の著書、『インターネットを創った人たち』の257ページに「URL」(ユニバーサル・リソース・アイデンティファイヤ)とあったものをそのまま書いてしまったものです。当然、ユニフォーム・リソース・ロケーターとすべきものであり、私のミスです。
私は脇先生は「URI」のつもりで書いたのだと思い、間違えてしまったのです。URIの「U」は、ユニバーサルであり、Universal Resource Identifierとなります。しかし、IT用語辞典などではUniform としているものもあります。脇先生はURLの説明を書こうとして、間違ってURIを書いてしまったものと思われます。
この件につきましては、連載のしかるべきところで記事として取り上げ、ミスの修正をさせていただきます。今後とも何かあればご指摘ください。