いう韓国人の哲学者がいます。この学者は、現在ベルリン芸術大
学に在籍し、ドイツに在住しているのですが、『疲労社会』とい
う論文を発表して、ドイツで話題になっています。
このハン・ビョンチョル教授は、このほどのセウォル号の沈没
事故に関して次のように発言し、世界的に話題になっています。
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セウォル号の惨事は、新自由主義が生み出した非人間化に伴う
惨劇である。 ──ハン・ビョンチョルベルリン芸術大学教授
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ハン・ビョンチョル氏は、この惨劇は単に韓国社会だけの問題
ではなく、新自由主義化の進む世界において、今後どこでも起こ
り得る深刻な問題であると警告を発しています。
ハン教授は、朴槿恵大統領が乗船客を置き去りにして脱出した
船長に対し、殺人罪も検討していると発言したことについて、次
のように述べています
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すべての面で船長が単独で責任を負い、韓国の朴槿恵大統領は
彼に殺人行為の責任があると非難したが、この不幸に対する責
任は、現代の元経営者だった李明博前大統領の新自由主義政策
にある。 ──ハン・ビョンチョルベルリン芸術大学教授
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ハン教授は、今回の事故が起きた原因として、次の3つを上げ
ていますが、それらはいずれも新自由主義の基本になる考え方で
あり、殺人者は新自由主義であるといっています。
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1. 規制緩和
2.国家機関民営化
3.労働条件柔軟化
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第1は「規制緩和」です。
韓国では、船舶の生命は20年間という規制が存在していたの
です。ところが、李明博前大統領は、規制を緩和し、企業寄りの
政策を推し進めたので、2009年にそれを「30年間」に延長
したのです。
ハン教授は、もし「20年間」という規制を守っていれば、日
本で廃船直前の「18年間」も経つ船を購入することはなかった
といっているのです。企業は利益だけを追求するので、企業寄り
の政策は、どうしても事故の危険を増大させるのです。これにつ
いてハン教授は次のように述べています。
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費用を下げて効率的に運営するという、こうした新自由主義の
教理は、人命と人間的な尊厳を費用として要求する。
──ハン教授/ http://bit.ly/1izVy0J
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第2は「国家機関民営化」です。
ハン教授は、国家機関の民営化の弊害を指摘しているのです。
韓国では海洋事故救助業務が部分的に民営化されているのです。
企業に委託されると、効率化の名のもとにどうしても費用を削減
しようとするので、救助措置の民営化は危険であるのです。
今回韓国の海洋警察の救助活動はすべてが後手に回り、結果と
して多くの乗船客を救助できなかったのです。すべてが民営化の
せいではないものの、救助訓練を含めすべてのことが十分ではな
かったといえます。
第3は「労働条件柔軟化」です。
韓国はきわめて正職員が少ないのです。それは、韓国がアジア
通貨危機に陥ってIMFの支援を受けたときに、そのIMFは新
自由主義アジェンダを苛酷に貫徹させたのです。そのさいに正職
員制度が大幅に廃止されたのです。
現に乗船客を置き去りにして脱出した船長は1年更改の非正規
社員であり、給与も他国の船長と比較すれば大幅に安く、そうい
う人に船長としての責務を求めるのは無理があるとしています。
そして、ハン教授は、1912年に沈没した旅客船タイタニッ
ク号の船長、エドワード・ジョン・スミスのように、最後まで船
橋に留まり、船と運命を共にした気風は、現在は韓国だけでなく
他の社会でも期待し難いと述べています。
それは、2012年に沈没したイタリアの豪華遊覧船コスタ・
コンコルディア号の船長が我先に脱出したことも偶然ではなく、
「現代社会は皆が自分が先ず生存しようとする『生存社会』であ
る」と指摘しています。
ハン教授は、「すべてを市場に委ねる」という発想は、「社会
を非人間的に作る」ことにつながることを指摘し、次のように警
告を発しています。
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社会が非人間的になると、社会は人間を疎外させる。こうした
意味で、セウォル号は新自由主義の小宇宙と同じである。この
ような社会では、セウォル号の船長だけでなく、まず自分自身
の生存を考えるのは今日では典型的であり、このような公共心
の解体が続けば、セウォル号だけでなく、われわれの社会も沈
没するであろう。 ───ハン教授/ http://bit.ly/1izVy0J
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規制緩和、国家機関民営化(官から民へ)、労働条件柔軟化は
何も韓国だけの問題ではなく、小泉政権以来日本でも進められて
おり、安倍政権ではさらにそれを加速させようとしています。
ところが、新自由主義といってもそれぞれ人によって解釈が違
うようで、必ずしも明確ではないのです。とくに、構造改革、市
場原理主義、新自由主義を一緒にして議論している人は少なくな
いのです。
このあたりのことを今回のテーマは明確にさせながら進めてい
きたいと考えます。 ──[新自由主義の正体/02]
≪画像および関連情報≫
●「紳士の品格」──「“疲労社会”愛」
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「時代ごとにその時代の固有の病気がある」 これは、ドイ
ツで出版された哲学エッセイ集、ハン・ビョンチョルの「疲
労社会」の冒頭での一節だ。免疫機能が発達して、これ以上
ウィルスに攻撃されない現代の病を、著者は疲労感と憂鬱感
と診断している。現代は全てのことが可能な時代であり、そ
れを経験した人々は不可能が可能ではないというスローガン
の前で、自分でも搾取し放棄する瞬間をつかめていない。豊
かさはこれ以上安楽な生活の前提ではなく、誰一人支配しな
いが、人々は休むことを恐れ、新しい本能を持つようになっ
た。そのためSBSドラマ「紳士の品格」はそんな現代人の
病的兆候を赤裸々に表わしている作品だ。40歳を越えた4
人の男性を通じて、彼らの成長物語を見せるというドラマの
意図とは関係がなく、まさに作品が説得しようとするものは
時代の疲労と世代のヒステリーだ。そんな理由でこのドラマ
に紳士が登場しないのは、もしかしたら当然のことなのかも
しれない。 http://bit.ly/QoSihW
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ハン・ビョンチョルベルリン芸術大学教授