ルグレン大尉――彼はなぜ勝元盛次率いる反乱軍に身を投じたの
でしょうか。
オールグレンは、南北戦争のあと従軍した先住民/インディア
ンとの戦いにおいて、「心身ともにボロボロになって」日本の地
に赴いたと書きました。しかし、なぜ、彼はインディアンとの戦
いにおいて、そうなったかについては、映画だけでは少し分かり
にくいところがあります。
映画の台本では、次のように記述されている部分があります。
映画をご覧になった方はすぐ分かると思います。
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台本/たかの家
悪寒で身もだえるオールグレン
酒の禁断症状に苦しむ彼は
孤独感と心に浮かぶ罪悪感にさいなまされている
台本/回想シーン/ウォシタ川
騎兵隊が一列になって静まり返っている村に近づく
遠くから戦いの火蓋を切る銃声が聞こえる
村がゆっくりと虐殺の渦に飲み込まれていく様子が
遠くから見える
いかめしい顔をしたオールグレンは一息つくと
まるで体重が何百キロもあるかのような気怠さで
攻撃に加わる
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映画では、オールグレンが酒の禁断症状で苦しむ場面が出てき
ます。彼が夢うつつに見るのは、インディアン部落を襲う騎兵隊
と逃げまどう先住民の子供たち、そして殺戮の光景――その映像
がフラッシュバックしてオールグレンを苦しめるのです。
このオールグレンの心に巣食う幻滅は、この物語がはじまる数
年前に実際に起こった2つの先住民の虐殺が原因なのです。
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1.コロラドのサンド・クリークでの虐殺事件 1864年
2.オクラホマのウォシタ川における虐殺事件 1868年
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最初に、コロラドのサンド・クリークでの虐殺事件から説明し
ましょう。
1864年11月29日のことです。ジョン・M・シビングト
ン大佐が指揮をとる騎兵隊は、シャイアン族とアラバホー族の部
落を攻めて、男性だけでなく、女性や子供を含めて200人以上
を虐殺します。
このように書くと、西部劇のひとつかと思う人が多いと思いま
す。映画になる西部劇に共通しているのは、先住民のインディア
ンは、残虐で非道な蛮族で悪の元凶――これに対する騎兵隊は正
義の味方の騎士(ナイト)という構図です。
しかし、ほとんどのインディアンは必ずしも好戦的ではなく、
何とか話し合いで解決したいと考えていたのです。シャイアン族
とアラバホー族を束ねていた酋長のブラック・ケトルも話し合い
を望んでいたのです。
この虐殺が起きる2ヶ月前に、酋長のブラック・ケトルは、コ
ロラド準州知事ジョン・エヴァンスとシビングトンと和平につい
ての話し合いをしているのです。その結果、ブラック・ケトルは
星条旗を受け取っているのです。もし、騎兵隊が攻めてきたら、
その星条旗と白旗を掲げよという意味です。
しかし、そのような約束があったにもかかわらず、約束はあっ
さりと破られ、2つの部族は虐殺されてしまうのです。しかし、
ブラック・ケトルは間一髪のところで虐殺から逃れます。そのあ
まりの残虐さに、1865年にコロラド準州の議会は、次の声明
を出してシビングトンの非難したほどです。
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冷酷にして胸が悪くなる暴虐である
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続いて、オクラホマのウォシタ川における虐殺事件について説
明しましょう。
ブラック・ケトルと生き延びた部族は、オクラホマ州の先住民
保護区のウォシタ川付近で暮らしていたのです。1868年11
月21日のことです。酋長のブラック・ケトルは、平安と保護を
求めて、コッブ砦に出向いて担当者であるフィリップ・H・シェ
リデン少将に会います。しかし、シェリデン少将はブラック・ケ
トルの要望を聞いたものの協議には応ぜず、突き返します。そし
て、直ちに第7騎兵隊のジョージ・アームストロング・カスター
中佐に部族の殲滅を命令するのです。
そして、11月27日の朝、カスター中佐率いる騎兵隊はイン
ディアンの野営テントを取り囲み、一斉に襲ったのです。そして
ブラック・ケトルをはじめとして、子供を含む150人を虐殺し
てしまうのです。このようにして、ジョージ・アームストロング
・カスター中佐は、この一方的な戦いの英雄になるのです。
以上は実際に起こった話であり、全部実在した人物です。そし
て、映画に出てくるオールグレン大尉――彼は架空の人物ですが
そのカスター中佐の部下という設定になっているのです。
これは、吉野の村の寺の本堂における勝元とのカンバセーショ
ンにおいて、オールグレン自身が次のように告白していることに
よって明らかです。オールグレンは、こういう悩みを抱えて日本
にやってきたのです。
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勝元盛次 :大将はだれだ?
オールグレン:反逆の指揮でもしてろ
勝元盛次 :お前たちは会話が嫌いなのか?
オールグレン:指揮官は中佐でカスターってやつだった
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−− [ラストサムライ/04]