2014年04月16日

●「カナダはなぜ税率を引き下げたか」(EJ第3772号)

 いま安倍政権は法人税の引き下げをしようとして、財源がない
とする財務省とバトルを繰り広げています。しかし、消費税は一
度税率が上がってしまうと、絶対に下がることはない──普通は
そのように考えます。少なくとも財務省がほぼ国を支配している
日本では、必ずそう考えるでしょう。
 しかし、付加価値税を2度にわたって下げた国があります。そ
れはカナダです。
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 ◎ブライアン・マルルーニ首相
  1991年1月/付加価値税導入 ・・・    7%
 ◎ステーヴン・ハーパー首相
  2006年7月/第1回引き下げ ・・・ 7%→6%
  2008年1月/第2回引き下げ ・・・ 6%→5%
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 カナダの付加価値税の導入には、国民の80%が反対したので
すが、マルルーニ政権はこれを強引に押し切り、付加価値税の導
入を決定したのです。しかし、これによってカナダは経済不況に
襲われ、1993年になってマルルーニ政権は9年にわたる長期
政権を投げ出すことになったのです。
 その後カナダの首相は、同じ進歩保守党のキャンベル氏に代わ
り、その後2代にわたって、カナダ自由党のクレティエン氏、マ
ーティン氏が政権を担うのですが、イラク戦争やミサイル防衛を
めぐって米国のブッシュ政権と鋭く対立します。
 そして2006年2月にカナダ保守党のハーパー政権になるの
です。ハーパー首相は米国との関係修復がカナダにとって一番重
要と考えて、就任年の6月に付加価値税を7%→6%に下げるの
です。これには国民は喝采し、米国のカナダに対する関係は一気
に修復することになるのです。
 2008年にサブプライム危機が起きると、財政が苦しいにも
かかわらず、その傷が欧米よりも軽度であるとして、付加価値税
をさらに1%下げて5%にしたのです。このとき、カナダ政府が
なぜこの決断をしたのかについては深い事情があるのですが、こ
れについては改めて述べることにします。ただ、それがカナダが
付加価値税を導入した次の年の1992年に締結されたNAFT
Aに関係があることを指摘しておきます。
 2011年になるとカナダの野党各党は、米国重視の政策を続
けるハーパー政権に強い反発を抱くようになります。きっかけは
政権が景気刺激策として法人税を引き下げたことです。その結果
2011年3月25日にハーパー政権の内閣不信任案が可決され
てしまうのです。これに対し、ハーパー首相は26日に下院を解
散し、5月2日に総選挙が行われたのです。
 総選挙では与党の保守党は大方の予想に反し、過半数155議
席を大きく上回る議席を獲得し、カナダ保守党の大勝利となった
のです。なぜこの結果になったのでしょうか。ここにも米国の深
い影が感じられます。
 ここではっきりしていることは、ハーパー首相がカナダの付加
価値税導入が米国の不信を買っていることをよく承知しているこ
とです。そのため、付加価値税の引き下げを断行することによっ
て、米国に関係修復のサインを送ったのです。
 安倍首相はこのことがわかっているでしょうか。わかっていな
いと思います。なぜなら、安倍政権ほど米国との同盟関係強化を
願っている政権はないからです。もし、わかっていたとしたら、
消費税を8%に上げなかったと思います。5%までの付加価値税
や消費税であれば、米国はあまり問題にしないからです。これに
ついて岩本沙弓氏は次のように述べています。
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 実際のところ、2〜5%の範囲の付加価値税・消費税の水準に
 ついて米財務省では、relativety low rate.(相対的に低い)
 という判断がされている。導入当時から10〜20%の欧州の
 標準税率からすれば確かに2〜5%は相対的に低い水準ではあ
 る。公文書が書かれた1970年前後は高インフレに突入して
 いく時代であるから、現在のそれは、単純に数値だけでほ比較
 はできないにしても、6%を超えてくるようであると、米国に
 とっては目に余るとも読み取れ、報復措置はより厳しいものに
 なってもおかしくあるまい。        ──岩本沙弓著
 『アメリカは日本の消費税は許さない/通貨戦争で読み解く世
                 界経済』/文春新書948
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 しかし、財務省や外務省の役人は知っていたのではないかと思
います。ただ、知っていてもそれを首相には進言しなかったので
しょう。少なくともケネディ・ラウンドのときの高級官僚はその
ことを認識していたことは間違いないと思われます。しかし、現
在の高級官僚が、少なくとも外務官僚が、どう考えているかはわ
かっていないのです。
 7%を5%に戻し、米国の許容ラインに税率を置いたカナダと
許容ラインの5%から8%、さらにそれを10%に上げようとし
ている日本。明らかに米国は日本に対し、制裁を課してくること
は間違いないと思われます。そのひとつでないかと思われるのが
TPP交渉における米国の一歩も引かない姿勢です。
 さらにオバマ大統領は、23日に来日の予定ですが、23日到
着は遅くなると日本に連絡してきたといいます。これは、「安倍
首相との夕食会はキャンセルする」という意味であり、実質訪問
は2日になるということを意味しています。
 実は、TPPは消費税大増税と大きく関係するのです。カナダ
はNAFTAのISD条項で米国にひどい目にあわされているの
です。カナダのハーパー首相があえて付加価値税を5%まで下げ
たのもこの問題と無関係ではないのです。
 消費税導入と税率アップと日米通商交渉──この間にはどのよ
うな関係があるのでしょうか。明日のEJで検証してみることに
します。          ──[消費税増税を考える/70]

≪画像および関連情報≫
 ●米国が今も消費税を導入しない「もっともな理由」
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  例えば法人税がなぜ有効で、消費税・付加価値税と代替させ
  るべきではないと考えるのか。1960年代の米財務省の報
  告書には、すでにこんな記述がある。消費税は売り上げにか
  かるために赤字の企業でも支払いの義務が生じるが、「赤字
  企業が法人税を支払わなくて済むことは、その企業にとって
  も経済全体にとっても有効である。たとえどんなに効率的で
  革新的な新規ビジネスであっても、収益構造が確立するまで
  はある程度の時間がかかる」とし、さらに仮に、赤字の繰り
  越し機能付きの法人税をなくし付加価値税を導入するほうが
  付加価値税なしで高い法人税を設定するよりも企業を助ける
  という前提について「これでは急激な景気後退局面では、た
  とえ効率的な企業であったとしても、単に一般需要が落ち込
  んだという理由だけで、多くの企業が赤字企業となってしま
  う」と記す。こうした記述を見るにつけ、米国はやはりフロ
  ンティア精神の国家なのだと認識を新たにする。新しい挑戦
  の芽を潰すことはしない、それが消費税・付加価値税採用を
  見送り、法人税に依存する理由とするのはいかにも米国らし
  いではないか。          http://bit.ly/1m4vQsa
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付加価値税を導入した首相/税率を下げた首相.jpg
付加価値税を導入した首相/税率を下げた首相
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 消費税増税を考える | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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