ています。これが日本の国内経済にどのような影響を及ぼすのか
が懸念されるところですが、これが国際貿易に大きな影響を与え
ていることに気がついている人は少ないと思います。
それは、日本の消費税が5%から8%に引き上げられたことに
よって、日本に入ってくる輸入品の価格はすべて5%上昇すると
いうことです。輸出元の相手国から見ると、日本の消費税増税は
自国輸出製品の値上がりを意味しているのです。
とくに事実上消費税ゼロである米国にとっては、貿易相手国の
ほとんどが付加価値税や消費税の採用国であり、たびたび増税を
されると大きなダメージを受けるのです。まして、それらの貿易
相手国が米国に輸出してくるたびに、増税のたびに増加する輸出
還付金を受け取れるのであり、米国にとって大きな不利になるの
です。したがって、他国以上に米国は、この問題にセンシティブ
にならざるを得ないのです。
つまり、付加価値税や消費税を導入している各国が増税すると
それは米国にとって「非関税障壁」になるのです。したがって今
回の日本の消費税増税について、米国は内心きわめて不快に思っ
ていることは間違いないと思われます。
「消費税増税は非関税障壁である」ということを指摘してるの
は、金融コンサルタントで、大阪経済大学経営学部客員教授の岩
本沙弓氏による次の著書です。
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岩本沙弓著
『アメリカは日本の消費税を許さない/通貨戦争で読み解く世
界経済』/文春新書/948
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それでは貿易相手国の消費税引き上げがどのくらい米国にとっ
て不利になるのかについて、考えてみることにします。岩本沙弓
氏の著書の48ページに掲載されている「表1」をEJ用に加工
して次に示します。
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米国輸出 米国以外国への輸出 国内で消費
課税前価格 100 100 100
原産地課税 0 0 20%
輸出還付金 20% 20%
輸出先課税 0% 20% 0
消費者価格 80 100 120
──岩本沙弓著『アメリカは日本の消費税を許さない』
文春新書/948掲載の表から加工
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ここでは、製品の課税前の価格は100ドル、付加価値税はフ
ランスの付加価値税率を意識して「20%」としてあります。そ
して、「米国以外国への輸出」というのは、フランス並みの20
%の付加価値税のかかる国を想定しています。
フランスの製品を米国に輸出した場合、米国は付加価値税を導
入していないので、輸出先課税は「0」になります。しかし、輸
出企業には20%の輸出還付金が受けられるので、その分で値引
きをしたとすると、米国内の消費者には「80」で提供できるこ
とになります。
これは、その分フランス製品の価格競争力が増すので、米国企
業にとっては、フランスからの輸入品は脅威になります。さらに
米国製品をフランスに輸出すると、フランスの付加価値税がかか
るので、米国製品は「120」で売らざるを得ないことになりま
す。これは明らかに米国にとっては「不公平である」ということ
になります。
それなら、なぜ米国は付加価値税や消費税を増税したりする国
に表立って批判しないのでしょうか。この点について、岩本沙弓
氏は次のように述べています。
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日本の採用する消費税、そして各国が採用する付加価値税は
非関税障壁であるという前提に米国は立っていると指摘すると
それではなぜ米国は表立って日本の消費税引き上げに反対の意
向を示してこないのかと言われることがある。他国が国内税率
として引き上げをすることについて、直接的に物を申すことは
いくら米国とて、いや民主主義を掲げる米国であるからこそ、
し難いという面があるだろう。仮に消費税・付加価値税に対す
る明らかな圧力をかければこれは過剰な内政干渉となる。逆に
そのことが批難の対象とされるがゆえ、米国の分が悪くなる恐
れもある。
それでは実際の対抗手段はどうするのか。あくまでも消費税
の引き上げの報復措置としてという部分は表には出さず、消費
税法案が通過しないように、通過しても実施されないように、
あるいは実施されればそれを相殺する効果があるような通商政
策を講じるなど、有形無形のプレッシャーをかけてくると考え
るのが妥当であろう。 ──岩本沙弓著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
確かに付加価値税や消費税の引き上げは国内問題です。これに
対して米国がクレームを付けると、明らかな内政干渉になってし
まいます。民主主義を掲げる米国としては、これだけはやりたく
ないのだと思います。
しかし、米国は付加価値税や消費税の導入や税率引き上げに関
しては、既に対抗措置をとってきているのです。よく考えてみる
と、中国や欧州はいずれも20%近い付加価値税で足並みを揃え
ているのに対し、米国の同盟国であるカナダや日本は、これまで
5%という低い税率を長く続けてきているのです。
このことは、けっして偶然ではなく、付加価値税や消費税の増
税が米国にとって非関税障壁になるということを意識した措置で
あるといえるのです。とくにカナダは、消費税率を引き下げてい
るのです。 ──[消費税増税を考える/68]
≪画像および関連情報≫
●米国が今も消費税を導入しない「もっともな理由」
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個人の主義主張とは別に、反対であれ、賛成であれ公正な議
論こそが重要であると考えているが、今回の消費税の集中点
検会合の人選はあまりにも偏向しすぎではないか。特に最終
日の8月31日の第2回目の経済・金融の有識者の会合のメ
ンバーに、増税そのものへの反対を明確に唱える人は1人も
いなかった。参加した有識者と消費税に対する主な見解を紹
介すると、植田和男氏(東京大学教授)「消費税25%でも不
十分」、菅野雅明氏(JPモルガン証券)「消費税20%への
段階的引き上げをコミットすべき」、國部毅氏─全国銀行協
会「消費税率は計画通り引き上げることが大事」、高田創氏
─みずほ総合研究所「消費税引き上げ見送りで財政規律への
不安」、土居丈朗氏(慶応大学教授)は「10%は当たり前。
15%ぐらいの数字まで段階を踏んで上げていく」、西岡純
子氏─RBS証券「増税自体は個人消費を抑圧する要因には
ならない」、本田悦朗氏(静岡県立大学)「毎年1%増加」。
永濱利廣氏(第一生命経済研究所)は景気への影響を考えるも
渋々容認といったスタンスだ。これでは増税を実施するか否
かの判断ではなく、増税を前提にその方法論が話し合われて
いるだけであり、別の日程の会合では単なる陳情に終始して
いたと言われても仕方ないような内容だった。
http://bit.ly/1lVgnbx
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岩本 沙弓氏の本