2014年04月11日

●「輸出還付金は不公平な制度である」(EJ第3769号)

 「輸出還付金」の矛盾について考えていきます。「徒然日記」
というブログに出ていた例を使って説明します。消費税の税率は
5%で計算します。登場する業者は次の5つです。
―――――――――――――――――――――――――――――
       A ・・・・     漬物業者
       B ・・・・       農家
       C ・・・・     輸出業者
       D ・・・・     韓国業者
       E ・・・・ 国内スーパー業者
―――――――――――――――――――――――――――――
 漬物業者Aは、キムチを作るために農家Bから100万円分の
白菜を購入します。Aは消費税分5万円を加えて105万円をB
に支払います。
 漬物業者Aはその白菜で作ったキムチを輸出業者Cに200万
円で売却します。Cは200万円に消費税分10万円を加えて、
210万円をAに支払います。
 輸出業者Cはこのキムチを韓国に輸出し、韓国業者Dに300
万円で売却したのですが、そのキムチには仕向地原則が適用され
韓国の消費税かかるので、日本の消費税は受け取れません。この
場合、輸出業者Cは、漬物業者Aに支払った消費税10万円分を
国から輸出還付金として受け取れるのです。
 この場合の国の収支を考えてみましょう。国に入ってくるのは
漬物業者Aからの消費税です。Aは輸出業者に10万円の消費税
を受け取っていますが、農家Bに白菜を購入したときに5万円の
消費税を払っていますので、「10万円―5万円」で5万円を消
費税として納付します。なお、農家は、年間売上高が1000万
円以下であるので、免税になります。そうすると、国の収支は、
収入が5万円で、支出が10万円ですから、5万円の赤字になっ
てしまうのです。
 仮に、漬物業者Aがキムチを輸出業者に売らずに、国内のスー
パー業者Eに消費税込みで210万円で売却したとします。そし
てEはそのキムチを消費税込みで315万円で消費者に販売した
とします。そうすると、Eは消費者から預かった15万円から、
漬物業者に支払った10万円を差し引いて、5万円を消費税とし
て国に納付します。
 この場合、国の収支は、漬物業者の納付した5万円とスーパー
が納付した5万円の計10万円になります。輸出還付金がいかに
大きいかがよくわかると思います。
 したがって、自動車メーカーの本社のある税務署は消費税収入
が赤字のところが多いのです。添付ファイルを見てください。こ
れは、2007年分の消費税収入が赤字の税務署のランキングで
す。ベスト5を上げると、1位は、トヨタ自動車の本社や関連会
社のある愛知県豊田税務署、2位は、日産自動車の本社がある神
奈川県神奈川税務署、3位は、マツダの本社のある広島県海田税
務署、4位は本田技研工業の本社のある東京麻布税務署、5位は
パナソニックの本社のある大阪府門真税務署です。
 問題は、大手の輸出業者が、本当に消費税を部品業者などに支
払っているのかということです。経済取引では価格決定権をもっ
ているのは、親企業である輸出業者ですから、そこから「仕事は
出してやるから、消費税分は値引きしろ」といわれると断れない
のです。そのようにして輸出業者は、消費税分を値引きさせたに
もかかわらず、自身は下請け業者に消費税を支払ったとして、輸
出還付金を受け取っているのです。
 この点について、大阪経済大学経営学部客員教授の岩本沙弓氏
は、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 例えば、ある製品を120円で売らなければ採算が取れない下
 請け企業があるとする。それを価格決定権の優位性から、つま
 り「まけてくれ」と取引先に言われてしまうとまけざるを得な
 いその力関係から、100円に値切られてしまったとする。と
 なれば、大企業は100円プラス消費税5%の105円を下請
 け企業に払うだけだ。輸出大企業は20円得した上に消費税分
 5%の還付金まで戻って来る。一方、大企業がいくら5%の消
 費税を払っているといっても、本来であれば本体価格120円
 +6円の消費税を下請け企業は受け取りたかったにもかかわら
 ず、20円分の収益が飛んでしまう。そこで5円の消費税を受
 け取ったとしても、実質15円の収益減となってしまっては元
 も子もない。           ──岩本沙弓著『アメリ
 カは日本の消費税は許さない/通貨戦争で読み解く世界経済』
                      文春新書948
―――――――――――――――――――――――――――――
 「輸出還付金」制度は不公平な制度です。そうでなくても税収
の足りないときに、なぜ輸出企業だけに巨額の消費税を還付する
のでしょうか。もちろん、これはGATT/WTOという国際協
定で決まっており、簡単には改正できないのは確かですが、政府
がその気になれば、改正ができないわけではないのです。
 二重課税を防ぐという趣旨であれば、患者から消費税分をもら
えない病院や診療所の社会保険診療報酬にはどうして還付金制度
はないのでしょうか。
 日本では、保険診療の対象となる医療行為には、消費税は非課
税になっているのです。これは患者にとってはよいことですが、
病院側にとって見れば、患者から消費税を取れないことは非常に
大きな負担になります。なぜなら、病院が購入する大小様々な医
療機器、治療に使う薬剤、包帯や注射などの消耗品などには全て
に消費税が掛かるからです。
 ある調査によると、1つの病院で、年間3000万円もの「損
税」が生じているそうです。この統計が正しければ消費税が10
%に上がれば、年間の損失は6000万円に膨らむ計算です。こ
のままでは、経営破綻する病院が続出しかねない状態です。
              ──[消費税増税を考える/67]

≪画像および関連情報≫
 ●消費税の税率が上がって一番喜ぶのは輸出企業である
  ―――――――――――――――――――――――――――
  こうした輸出還付金の話を持ち出すと、大企業側はきちんと
  消 費税を払っているから問題はないと反論する。もちろん
  帳簿上は支払っていることになっているし、消費税を支払っ
  たとする経理上の処理がなければ還付されない、というわけ
  でも実はない。企業側は国内の下請け企業などに消費税を支
  払っているとするが、実際に輸出企業が消費税を税務署に納
  税しているのかという点に着目すると、輸出還付金の受け取
  り額が大きければ一切消費税は納税していないことになる。
  例えば国内で自動車を購入すれば、我々消費者は当然消費税
  を支払うが、還付金の金額が大きいとなれば、我々の支払っ
  た消費税は相殺されてしまうために、メーカーを通じて税務
  署に収められることはないのである。輸出で潤っている企業
  こそ消費税の納税を期待したいのだが、そういった制度には
  なっていない。         ──岩本沙弓著『アメリ
 カは日本の消費税は許さない/通貨戦争で読み解く世界経済』
                      文春新書948
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●表出典/全商連 http://bit.ly/1g3hMIa

消費税収入が赤字の税務署.jpg
消費税収入が赤字の税務署
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 消費税増税を考える | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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