その日は木曜日でしたが、ニューヨーク株式市場が大暴落したの
です。「暗黒の木曜日」と呼ばれていますが、1週間で株式時価
総額で、300億ドルが失われたのです。
この300億ドルという金額ですが、当時の米国連邦年間予算
の10倍に当たり、米国が第1次世界大戦で費やした戦費をも上
回ったのです。1933年までに9000の銀行が倒産、失業者
は1300万人、全労働者の25%に達したのです。
特筆すべきは、名目GDPは半減し、株価は80%以上下落し
たことです。名目GDPが1929年の水準に回復したのは19
41年であり、ダウ平均株価は、1954年まで1929年の水
準に戻ることはなかったのです。まさしく大恐慌です。
この大恐慌のことを知らない人はいないと思いますが、大恐慌
の原因のひとつとされているものに、「消費税導入」があること
を知っている人は多くないと思います。消費税は、それほどに恐
ろしい税金なのです。
時の米国大統領はハーバード・フーヴァーです。彼は大恐慌の
起きた1929年3月4日に大統領に就任しているのです。彼の
大統領選でのスローガンは次のようなものだったのです。
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どの鍋にも鶏一羽を、どのガレージにも車2台を!
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大統領選に圧勝したフーヴァーは、それに加えて3月4日の就
任式に次のような現実離れしたことを就任演説として話している
のです。
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今日、われわれアメリカ人は、どの国の歴史にも見られなかっ
たほど、貧困に対する最終的勝利日に近づいている。
──フーヴァー大統領演説より
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当然のことですが、米国経済はデフレに突入したのですが、そ
のときフーヴァー大統領は、今でいう市場原理主義者、財政均衡
論者であり、相次ぐ銀行倒産を放置し、「潰れる銀行は潰せばよ
い。破壊のなかから新しい創造がある」とうそぶいていたといわ
れます。
このフーヴァーの考え方は「創造的破壊」といわれますが、こ
れはヨーゼフ・シュンペーターというオーストリア・ハンガリー
帝国出身の学者が主張していたのです。
おまけにフーヴァーは財政均衡主義者であり、激減した税収に
対しては増税を実施すべしという考え方を持っていて、1932
年に米国史上はじめて連邦税として消費税を導入したのです。こ
れが決定的に効いて、不況はさらに深刻化するのです。
実は、このことを知っている人はあまりいないと思います。日
本の増税論者はこの事実を隠しており、これについてはだんまり
を決め込んでいます。それどころか、現在米国では消費税が導入
されていないという事実も知らない人はたくさんいます。
これについて金融コンサルタントで、大阪経済大学経営学部客
員教授である岩本沙弓氏は次のように述べています。
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付加価値税・消費税は今や世界の約140ヶ国で採用されてい
る税制度である。ただし、その中に米国は含まれていない。日
本国内では米国が州ごとに採用している小売売上税を消費税と
すっかり混同しているために、この州税を指して米国も消費税
を採用しているとどうも誤認されているようだ。世界の常識か
らすると、米国の小売売上税は全く別物という扱いで、消費税
と同等などと指摘すれば、恐らく税制に対する基本的な知識が
欠如していると見なされるだろう。 ──岩本沙弓著『アメリ
カは日本の消費税は許さない/通貨戦争で読み解く世界経済』
文春新書948
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増税を決断した野田佳彦前首相は、質問趣意書で、米国のデフ
レ時の消費税導入のことを国会で問われ、「十分承知している」
と答えていますが、質問内容の事前通告があったら調べただけの
ことで、とても本当に知っていたとは思えないのです。野田前首
相は消費増税の真の怖さを知らないで、実施しています。これは
安倍首相も同じであると思います。
なお、フーヴァー大統領は、消費税を新設しただけでなく、石
油税、食品税など、国民の生活に直結した取引全般に税を課し、
実体経済を極度に疲弊させてしまったのです。現在の安倍政権が
やっていることときわめてよく似ています。
ところで、米国はどのようにしてこの大恐慌から脱出したので
しょうか。
通説とされていることは、フーヴァーに代わって大統領になっ
たフランクリン・ルーズベルトの「ニューディール政策」という
名の政府の財政政策が回復の主因であるということです。
しかし、当時からミルトン・フリードマンらは異説を主張して
いたのですが、少なくとも1970年代の中ごろまでは、ニュー
ディール政策の財政出動による景気回復が常識化され、大学の経
済学の授業でもそのように指導されてきたのです。
ところが、1980年代に入ると、一部の経済学者から次のよ
うな事実が指摘されるようになったのです。それは、1933年
から1936年の間に、GDP比で見た米国の財政赤字はそれほ
ど増えていないのにもかかわらず、同時期のマネーサプライ(マ
ネーストック)が急激に増えており、フーヴァー時代のFRBの
政策が一変したことと関係があるのではないかという指摘です。
その学者というのは、クリスティーナ・ローマー、ベン・バー
ナンキ、ポール・クルーグマン、ジェフリー・サックスといった
錚々たる経済学者たちです。実は、このことは、ミルトン・フリ
ードマンがいっていた異説と同じなのです。
──[消費税増税を考える/63]
≪画像および関連情報≫
●フーヴァーの別の一面/フーヴァー大統領の再評価
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「フーバー元アメリカ大統領の再評価」として、世界大恐慌
で政府の経済介入政策で景気が好転できず、32代の大統領
選でフランクリン・ルーズベルトに大敗した。フーバー大統
領の真珠湾攻撃に関し、ルーズベルト大統領を批判した発言
は「歴史的な検証に値する」ものだと遺族が一部資料を公開
した。それによると、日本軍による真珠湾攻撃の際、大統領
だったルーズベルトは「対ドイツ参戦の口実として、日本を
対米戦争に追い込む陰謀を図った「狂気の男」として批判を
していたことが分かった。(フーバーのメモによる)真珠湾
攻撃に関しては、ルーズベルトが対独戦に参戦する口実を作
るため、攻撃を事前に察知しながら放置、ドイツと同盟国だ
った日本を対米戦に引きずり込もうとした。今月(2011
年12月)に「ルーズ ベルトの責任・日米戦争は何故始
まったか」(藤原書店)が刊行される。ルーズベルト大統領
が、巧妙な策略によって日本を対米戦争へと追い込んでいっ
た過程が米側公文書によって浮き彫りにされている。ソ連の
意向も受けていたようだ。この著書が今でも米国の英雄とさ
れているルーズベルト大統領への歴史評価を見直すきっかけ
となるだろう。フーバーが「米国から日本への食糧供給がな
ければ、ナチスの強制収容所並みかそれ以下になるだろう」
とマッカーサーに食料支援の必要性を説いたことも詳細に綴
られており、フーバーの対日関与の功績に光を当てるものに
もなっている。 http://bit.ly/1kdv1gM
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ハーバード・フーヴァー大統領