2014年04月04日

●「公共事業を毛嫌いするシカゴ学派」(EJ第3764号)

 遂に4月1日から予定通り消費税増税が実施されました。10
%への引き上げも、安倍首相は経済状況を見て慎重に実施するか
どうか考えるといっていますが、おそらく予定通り行われること
になると思います。法律は成立していますし、これを延期するに
は、政権として大変なエネルギーを要するからです。
 実は、この増税は新古典派経済学の考え方と無関係ではないの
です。財政の危機、規制緩和、構造改革、民営化、消費増税、T
PP、小さい政府など──現在行われつつあることは、すべて新
古典派経済学と関係があるのです。EJはこれからそのことを追
及して行くことにします。
 ミルトン・フリードマンの弟子たちは、異口同音に公共事業を
批判します。経済評論家三橋貴明氏の著書から、そのいくつかを
上げてみることにします。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ◎ゲイリー・ベッカーシカゴ大学教授/1992年ノーベル経
  済学賞受賞
  公共事業は真の価値が低いだろう。急いで立案されるし、利
  益誘導などの非効率的な事業が多数入る可能性が高い。
 ◎ユージン・ファーマシカゴ大学教授/2013年ノーベル経
  済学賞受賞
  政府債務(国債発行)が増えれば、民間の投資に使われたは
  ずの貯蓄が吸収される。結局のところ、遊休の資源がある状
  況(デフレ・ギャップの状況)でも、救済策と景気刺激策で
  使われる資源が増加することはない。ある目的から別の目的
  に資源が移るだけだ。
 ◎ジョン・コクランシカゴ大学教授
  政府が支出を増やせば同じ額だけ、民間の支出が減ることに
  なる。景気刺激策で創出される雇用は、民間支出の減少によ
  る雇用の喪失で相殺される。工場を建設する代わりに道路を
  作ることはできるが、財政出動によってどちらも増やすとい
  うわけにはいかない。  ──ロバート・スキデルスキー著
    『なにがケインズを復活させたのか』/日本経済新聞社
                      ──三橋貴明著
 『2014年世界連鎖破綻と日本経済に迫る危機』/徳間書店
―――――――――――――――――――――――――――――
 それにしてもシカゴ大学の教授は、よくノーベル経済学賞を受
賞するものです。経済学賞の選考委員にシカゴ学派の学者が多く
シカゴ学派的主張を論文に盛り込まないとノーベル賞は受賞でき
ないのです。「排除の論理」を働かせているのです。
 しかし、日本のバブルの崩壊にせよ、リーマンショックにせよ
いずれもケインズ流の財政政策で乗り切っているのです。それに
もかかわらず、シカゴ学派の経済学者たちに一貫して公共事業を
批判するのです。
 こういう風潮に日本も染まりつつあります。今では日本で「公
共投資を拡大する」などと主張すると、日本のマスコミや経済学
者や政治家は、たちまちレッテルを貼って批判します。「バラマ
キ路線」、「土建屋優遇」、「土建国家復活」、「利益誘導型の
非効率事業」などです。これは、日本が中途半端に新古典派経済
学に染まっていることのあらわれです。
 バブルが崩壊すると、民間──企業と個人は借金返済をはじめ
るので、それは銀行預金を増やすのです。既に述べたように、借
金返済は消費でも投資でもないのです。したがって、消費と投資
の合計である総需要は増加しないのです。
 しかし、日本の場合、バブルが崩壊したあと、民間は10年以
上にわたって借金の返済を続けていたのですが、同時期のマネー
サプライ(マネーストック)は縮小していないのです。
 添付ファイルを見てください。これは、1998年12月末と
2007年12月末の日本にある銀行全体のバランスシートを示
したものです。以下は、リチャード・クー氏の分析です。
―――――――――――――――――――――――――――――
       民間向け信用  公共向け信用      預金
1998年 601.6 兆円 140.4 兆円 501.8 兆円
2007年 501.8 兆円 247.2 兆円 744.4 兆円
―――――――――――――――――――――――――――――
 既に説明したように銀行預金はマネーサプライ(マネーストッ
ク)をあらわしています。「預金」を見ると、2007年は19
98年よりも122.9 兆円も増えています。年に2〜4%の割
合で増加していることになります。
 銀行預金が増えれば、銀行の資産も増えるはずです。ところが
「民間向け信用」は99.8 兆円も減少しています。これは民間
が借金返済を行ったことをあらわしています。それでは、なぜ、
マネーサプライ(マネーストック)は増えたのでしょうか。それ
は「公共向け信用」、すなわち、政府への貸し出し(国債発行)
を見ればわかります。これを見ると、106.8 兆円も増加して
いるのです。
 民間部門が借金を返済すると、銀行におカネが戻ってきます。
銀行としては貸し出ししようとするのですが、民間は借金返済を
しているので、借り手がいないのです。
 一方、政府は財政赤字を出しているので、国債を発行してそれ
で賄おうとします。そうすると、銀行はおカネの借り手がいない
ので、その国債を大量に購入します。これは、結果として、銀行
が政府におカネを貸したのと同じです。
 政府は国債の販売収入を道路や橋の建設などの公共投資資金と
して使い、その財政支出は建設会社やそこで働く労働者の収入に
なり、その分銀行預金が増加します。こうして、民間が借金返済
をしておカネを借りないなかで、政府が代わりに借りて使ったの
で、恐慌になることはなく、マネーサプライ(マネーストック)
は増加したのです。日本のGDPの2倍以上の政府債務はこのよ
うにして積み上がったのです。しかし、それは経済を支えるため
には必要だったのです。   ──[消費税増税を考える/62]

≪画像および関連情報≫
 ●新自由主義というカジノ/キー・クエッション
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「リスク回避」という視点からアプローチしてきたが、ここ
  では視点を変えて「新自由主義」について見てみたい。そも
  そも新自由主義という用語には、きちっとした定義がないそ
  うである。諸説あるものの、もともとの起源は反自由主義的
  な雰囲気が濃厚になった1930年代にあるらしい。東では
  共産主義のロシアが台頭し、西ではドイツによる国家社会主
  義が広がりを見せていた時期に当たる。既存の資本主義では
  なく、共産主義でもない「第三の道」を模索する試みが新自
  由主義と考えられた。結局、アメリカは大規模な公共事業で
  景気を浮揚させるという道を選択し、世界はそのまま第二次
  世界大戦に流れ込む。その後、シカゴ学派と呼ばれる「政府
  の介入に反対する」人々があらわれる。ケインズのような公
  共投資による景気刺激策を否定し、通貨供給によって経済を
  コントロールする方法を支持した。新自由主義の特徴は、市
  場化・規制緩和・金融化と証券化・そして小さな政府だ。つ
  まり、政府の介入を減らして市場に全てを任せれば、自ずと
  繁栄するという理論である。アメリカ政府が日本に対して要
  求する内容を見ていると、新自由主義がどのようなものかよ
  く分かる。TPPもこの考え方に基づいた協定だと考えるこ
  とができる。           http://bit.ly/1gmSKms
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●グラフ出典/リチャード・クー著/『バランスシート不況下
  の世界経済』/徳間書店

日本の銀行全体のバランスシート.jpg
日本の銀行全体のバランスシート
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 消費税増税を考える | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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