しい古典派)は、学術論的には異なる学派ですが、基本的な部分
では、まとめて「新古典派経済学」と称しても、何も問題はない
のです。
現代における経済政策をめぐる議論は、次の2つの経済学をめ
ぐる議論といっても過言ではないのです。
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1.新古典派経済学
2.ケインズ経済学
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この2つの経済学を分けるものは「セイの法則」が成立するか
どうかなのです。「セイの法則」が成立することを前提にする新
古典派経済学に対して、「セイの法則」は成立しない局面がある
とするケインズ経済学の対立です。
「セイの法則」というのは、「供給はそれ自体の需要を創出す
る」というもので、2014年1月年20日のEJ第3712号
で詳しく述べていますので、そちらも参照していただきたいと思
います。 http://bit.ly/1bbPN6F
「セイの法則」は、価格が需要と供給をバランスさせるよう変
動し、供給に見合う需要が市場メカニズムによって生み出される
という考え方です。経済エコノミストである植草一秀氏の本の例
を使って説明します。雇用について考えてみます。仕事をしたい
と考える人がいるとします。これは「供給」の側面です。しかし
人が欲しいと考える企業がいないと雇用は成立しないのです。こ
れは「需要」の側面です。
そうすると、その人がなんらかの仕事につけるように市場で賃
金が変動するのです。時給1000円なら人を雇おうとしない企
業でも、時給800円なら雇おうとするかもしれない。この場合
は、労働力の価格である賃金が下落すれば、仕事を求める労働者
に仕事が行き渡ることなります。
正職員なら雇おうとしない企業も、賃金が安く、使い勝手の良
い非正規労働者なら採用する可能性があるのです。逆に、特殊な
技能を持つエンジニアであれば、企業がそういうエンジニアを必
要とすれば、多少高い賃金でも企業は雇用することになります。
しかし、賃金などがそれほど自由に変動しない局面もあるので
す。そういう場合は、働き手がいくら職を求めてもどこも雇う企
業があらわれない状態が長期化することになります。これが「セ
イの法則」が効かない側面ということになります。ケインズ経済
学では、そういう局面を考えているのです。
こういう場合のケインズ経済学の考え方について、植草一秀氏
は、次のように述べています。
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(「セイの法則」が効かない局面では)供給量は需要の水準に
よって制約を受ける。つまり、供給能力をフルに生かすために
は、政府が人為的に需要を追加してやることによって、その遊
休化してしまった供給力を生かせると考えるのである。いわゆ
る裁量的な政府支出の追加=有効需要の追加によって、失業問
題を解消するという処方箋が生まれてくる。
──植草一秀著/青志社刊
「日本の再生/機能不全に陥った対米隷属経済からの脱却」
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しかし、ケインズ経済学には大きな問題点もあったのです。ケ
インズ政策は、不況のさいにその脱出の方策として、政府による
裁量的な支出を拡大して有効需要を追加する方策です。しかし、
選挙に勝つために、景気の好不況に関係なく、政権党が選挙受け
の良いこの政策を行うことによって、必要以上に政府債務を増加
させ、財政赤字のコントロールが困難になる事態が生ずることで
す。日本の巨額な政府債務もこういう理由でできたのです。
そのケインズ政策のアンチテーゼとして登場したのが、ミルト
ン・フリードマンを中心とする新しい自由主義的な経済政策の台
頭です。フリードマンの経済政策については、植草一秀氏の解説
を参照することにします。
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ミルトン・フリードマンが唱えたマネタリズムは、金融政策の
運営を裁量からルール(あらかじめ決定したルールを基に金融
運営を行うこと)に転換することを提言するものであった。ま
た長期的な経済の強化のためには、需要を追加して経済活動を
高めるケインズ政策よりも、経済の供給側のさまざまな制約を
取り払う、あるいは経済の供給側の効率を改善することのほう
が重要であるというサプライサイド(供給側)を重視する経済
学、あるいは消費者などの経済主体がさまざまな経済政策の長
期的な帰結をも正確に予測して行動するとの前提──これを合
理的期待と呼ぶが、合理的期待を前提に置く経済学などの諸勢
力が台頭し、ケインズ経済学を否定する風潮が一気に広がって
いったのである。 ──植草一秀著の前掲書より
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ミルトン・フリードマンは、誤解されやすい経済学者ですが、
次の動画はフリードマンについてそういう誤解を払拭してくれま
す。約15分ずつ5回連載です。時間のあるときにぜひ視聴して
いただきたいと思います。
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◎『フリードマンって悪い人なの?』
出演:田中秀臣/上念司/塚本ひかり
第1回/ http://bit.ly/1dJdnOZ
第2回/ http://bit.ly/1e3j714
第3回/ http://bit.ly/1e3jdpq
第4回/ http://bit.ly/1hqBUrA
第5回/ http://bit.ly/1pFttsV
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──[消費税増税を考える/61]
≪画像および関連情報≫
●ミルトン・フリードマンについて/池上彰
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市場の原理を「見えざる手」にたとえ、自由放任を主張した
アダム・スミス。公共事業など、政府が市場に介入すること
で経済はうまくいくと主張したケインズ。そのケインズの理
論を批判し、再び自由主義に光を当てたのが、アメリカの経
済学者ミルトン・フリードマンです。彼はシカゴ大学の教授
として、多くの経済学者を育てました。彼とその弟子たちは
「シカゴ学派」と呼ばれ、政治に強い影響力を持つことにな
ります。フリードマンは「新自由主義」の旗手と言われてい
ます。アダム・スミスの自由放任の考え方をさらに徹底的に
推し進めたのがフリードマンでした。人間にとって何よりも
大事なことは自由である、自由に行動することが最もすばら
しいことなんだ、これが彼の考え方です。このような人のこ
とを「リバタリアン」と言います。人を殺したりものを奪っ
たりしてはいけないけれども、人に迷惑をかけなければ何を
やっても自由じゃないかという考えです。かつてアメリカで
は禁酒法が施行され、お酒をつくることも飲むことも禁止さ
れた時代がありました。ところが当時のマフィア、アル・カ
ポネが酒の密売を行い、闇の世界が大きく拡大してしまいま
した。禁止をすると裏で金儲けをしようという者が現れて、
逆に闇世界がはびこる。だから全部自由にしてしまうほうが
いい、これがフリードマンの考え方です。
http://bit.ly/P9wreh
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池上 彰氏
セイ法則は、「供給は需要を作る(これは、ケインズが矮小化したもの)」ではなく、「諸財の超過需要の和は、恒等的にゼロ」と言うものです。
さらに、「賃金が下がっても、不況はなくならない、かえって、賃金が下がらないほうがいい」というのが、ケインズ、「下がれば均衡する」というのが、古典派で、ケインズは、それを批判しています。
また、ネオクラシカルと、ニュークラシカルも別物です。
詳しくは、拙著「図解 使えるマクロ経済学」をご覧下さい。
上記の詳細な説明が書いてあります。