の反論の一部を再現します。
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ハイエクやフリードマンは、当時の主流だった新古典派に挑戦
したのであって、「古典派経済学を持ち出した」のではない。
おまけに藤原氏は、シカゴ学派と新古典派を混同している。
http://bit.ly/1k1YO7H
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ここで池田氏は、「ハイエクやフリードマンは新古典派に挑戦
したのであって」と表現していますが、正しくいうと挑戦したの
は「新古典派総合」なのです。おそらく池田氏は、それはわかっ
ていたのでしょうが、素人に「新古典派総合」といってもわから
ないので、そういう表現を使ったものと思われます。
それでは、新古典派総合経済学とは何でしょうか。
米国にポール・サミュエルソンという経済学者がいたのです。
彼は、ケインズ経済学と新古典派経済学を総合する新古典派総合
の理論を確立することによって、1970年にノーベル経済学賞
を受賞した経済学者です。このサミュエルソンの著書『経済学』
は、長く大学の経済学の教科書になっていたのです。
しかし、1970年代に起きた不況下のインフレ──スタグフ
レーションに対してサミュエルソンは有効な対策を提唱できず、
多くの気鋭の経済学者から批判されたのです。
それらの経済学者とは、マネタリストのミルトン・フリードマ
ン、合理的期待形成学派のロバート・ルーカス、成長論のロバー
ト・ソロー、さらに『赤字財政の政治経済学』の著者ジェームズ
・ブキャナン、ポストケインジアンのジョーン・ロビンソンなど
の経済学者たちです。
したがって、ハイエクやフリードマンが挑戦したのは、その当
時主流であった新古典派総合理論であり、藤原正彦氏のいう新古
典派でないことは明らかです。
ところで池田氏は「藤原氏は、シカゴ学派と新古典派を混同し
ている」といっていますが、シカゴ学派とは何でしょうか。
シカゴ学派について説明する前に、新古典派経済学についても
う少し詳しく知る必要があります。新古典派経済学といっても一
枚岩ではなく、新古典派と新しい古典派という紛らわしい次の2
派があるのです。
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1. ネオ・クラシカル ・・・・ 新古典派
Neoclassical economics
2.ニュー・クラシカル ・・・・ 新しい古典派
Newclassical economics
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紛らわしい話ですが、日本語で書く「新古典派」と「新しい古
典派」とは違うのです。「新古典派」はアルフレッド・マーシャ
ルが起こした学派であり、一般的に「新古典派経済学」というと
きは、これを指しています。
これに対して「新しい古典派」は、新古典派の枠組みを前提と
してはいますが、一方で代表的個人モデルなどマクロ経済学が多
用してきたモデルを導入するなど、名前は似ていますが、両者は
見解を一にするものではないのです。そういう意味で「ニュー・
クラシカル」なのです。実は「シカゴ学派」は、このニュー・ク
ラシカルのことなのです。
シカゴ学派とは、シカゴ大学の経済学部を中心に受け継がれて
きたことから、この名で呼ばれています。原理的な市場原理主義
を信奉する経済学の一団であり、経済学においてシカゴ学派とい
えば右派(市場主義的)と認識されています。
シカゴ学派の創設者は、元シカゴ大学経済学部教授のフランク
・ナイトという経済学者です。彼は、アルフレッド・マーシャル
の経済学を継承し、道徳哲学に裏付けられた自由主義と自由企業
制度の改革と社会進歩の考えを深化させたのです。
シカゴ大学において、フランク・ナイトの下で学んだ自由主義
者のミルトン・フリードマンやジョージ・スティグラーはシカゴ
学派の第2世代と呼ばれているのです。しかし、このフリードマ
ンやスティグラーによって、シカゴ学派は世界的に有名になった
といえます。しかし、ナイトは、自由競争に全幅の信頼を置くフ
リードマンらとは違い、政府による政策的な介入をある程度は是
認する立場を取っていたのです。
池田信夫氏は、藤原氏は「シカゴ学派と新古典派を混同してい
る」といっていますが、専門的、厳密にはそうであってもシカゴ
学派──ニュー・クラシカルとネオ・クラシカルは一般的には新
古典派経済学に分類されるのです。
ここ30年ほどの日本の経済政策では、「小さな政府」論を口
にする経済学者や政治家が増えています。これらの人々がどれほ
ど理解してそれを唱えているかわかりませんが、彼らはニュー・
クラシカルといってよいと思います。これは現代経済学の主流が
ニュー・クラシカルになりつつあることを示しているのです。
ニュー・クラシカルは、かつて主流であったケインズ経済学と
は徹底的に対立します。ノーベル賞の選考委員もニュー・クラシ
カルが増えているので、当然ニュー・クラシカルの学者ばかりが
受賞するようになっています。
この傾向は日本でも同じであり、ケインズ主義的論文は全く相
手にされなくなっているのです。ニュー・クラシカルの学者たち
は間違いなく「排除の理論」を実践しているといえます。
政権では、橋本政権、とくに小泉政権は間違いなく、ニュー・
クラシカルに染まった政権であり、ケインズ主義的な財政支出を
唱えようものなら、「改革への抵抗勢力」のレッテルが張られ、
ほとんどのエコノミストから袋叩きに遭うことになります。今や
「ケインジアン」は、軽蔑の対象ですらあるのです。それでは、
現在の安倍政権のアベノミクスはどうなのでしょうか。それはこ
れから述べていきます。 ──[消費税増税を考える/59]
≪画像および関連情報≫
●小さな政府論と大きな政府論/2012年3月30日
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(小さな政府)政府の市場への介入を最小限にし、個人の自
己責任を重視し、国家による経済政策・社会政策を最小限に
する考え。要するに、民間で出来ることは民間に任せ、規制
がなければ、個人や企業が思う存分力を発揮できるため、良
いサービスが提供され、全体としても経済が活性化する。所
謂、アメリカを中心に展開している新自由主義経済というも
ので、小泉、竹中が目指したものである。小さな政府を徹底
した体制は夜警国家あるいは最小国家ともいう。基本的に、
より少ない歳出と低い課税、低福祉-低負担-自己責任を志向
する。小さな政府を志向するならば、子供手当てなど必要は
ない、老人医療なども個人の責任で解決させればよい(アメ
リカのように)。高校教育の無料化なども必要ない。年金制
度も国家の負担の必要はない。そうすれば、消費税など上げ
なくても40兆円の税収で賄える。
(大きな政府)政府・行政の規模・権限を拡大しようとする
思想または政策である。主に広義の社会主義(社会改良主義
・社会民主主義・民主社会主義・スウェーデンモデル・日本
型社会主義・集産主義)に立している。そう、戦後、日本が
歩んできた道である。高福祉、高負担、社会的義務などを元
に、歳出の策定や高負担税率はもちろん、巨大事業の国営化
企業活動に対する規制強化なども含まれる。公共事業インフ
ラ投資強化(失業者の救済、地方経済の救済という側面も持
つ)といった施策もとる。如何でしょうか。
http://bit.ly/1h807hU
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フランク・ナイト/ミルトン・フリードマン